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独行法反対首都圏ネットワーク

☆大学の再編統合/「目的」と結果」納得できる論議を
. [he-forum 3382] 神戸新聞社説02/03.-

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『神戸新聞』社説  2002年2月3日付

大学の再編統合/「目的」と結果」納得できる論議を


 せきを切ったように、大学の再編統合の動きが加速している。背景には、財
政難、独立行政法人化を控えての大学運営効率化と、少子化への対応などがあ
る。高等教育充実への改革は急務である。しかし、合理化と言う「安直な統合
論理」だけが先行すれば大学本来の使命を見失うという懸念もある。大学統合
は、自治体や企業の合併とは事の本質が違うはずだ。学問の本旨、地域との関
係など、少し立ち止まって統合ブームを考える必要がある。

       ◇

 文部科学省が、先月末にまとめた国立大(短大を含む)の統合動向調査によ
ると、全百一校のうち、三十六校が、他大学との統合を決めたか、統合に向け
た正式協議を始めている。残る六十五校のほとんども、学内検討や、近隣大と
の非公式協議を進めており、統合・再編を視野に入れない大学はほんの数校し
かないという状況だ。

 具体的には、今年十月、筑波大と図書館情報大、山梨大と山梨医大の統合が
実現するほか、来年十月に神戸大と神戸商船大など十組二十校が統合に合意し
ている。

 このほか正式協議をしているのが群馬大と埼玉大など十二校、さらに弘前、
岩手、秋田の三大学連携など、統合協議に向けた動きも急だ。

 国立大だけではなく、公立大の統合も全国的に広がっている。

 東京都立の三大学、大阪府立の三大学などが統合を視野に動き始めたし、兵
庫県では、すでに神戸商科大、姫路工業大、県立看護大の統合が決まっている。
新県立大は現キャンパスはそのままにして現代経済学部、戦略経営学部、工学
部、理学部、環境人間学部、看護学部の六学部と大学院七研究科で構成。学長
が常駐する本部は神戸に置き、二〇〇四年度にスタートする。

 これら、いずれの協議経過を見ても、まず統合ありきの感は否めない。

なぜ唐突な統合か

 大学統合のドラスチックな展開の背景には、聖域なき構造改革という時代の
大きな潮流がある。

 この側面から文科省が打ち出したのが、大学の独立行政法人化だ。ぬるま湯
につかっていたと批判される国公立大を活性化させるためのショック療法であっ
た。

 まず、大学運営のスリム化が問われ、経営効率の向上が求められた。統合に
よる合理化、人員削減だ。

 加えて、少子化の急進展。大学ごとのパイの奪い合いが激化する。学生の適
正配分という観点からも統合は不可避だとの認識が広がった。

 さらに、大学自体が、時代のニーズに合わなくなっているとの指摘もある。
現代社会に対する大学の貢献度が弱くなっているというわけだ。

 こうした厳しい現実と批判に、果たして大学自体がこたえてきたか。大学ご
とに、「知の集団」らしく英知を振り絞った形跡を見つけることができるだろ
うか。

 むろん、それなりの努力は認めたいし、幾つかの大学では、かなりの成果も
上がっているようだが、大半のキャンパスからは前向きで、熱い本気の論議は
聞こえてこなかったように思う。

 そして、昨今の統合ラッシュである。唐突に見えるが、実は、こうした統合
による改革姿勢を打ち出さなければ、大学が予算の獲得もままならない状況に
追い込まれているのも事実である。

 確かに、合理的な統合計画も見られる。統合によるスケールメリットもある。
事務部門は合理化され類似学部は集約される。学長の数も減る。税の無駄遣い
は、ある意味ではなくなる。

 経済合理主義からすると、当然の流れだが、大学本来の機能や使命という観
点から見ると、納得できぬ点もある。

地域貢献忘れるな

 すっかり色あせて、コケむした言葉になってしまったが、大学の使命は「真
理の探究」と「社会貢献」である。

 大学統合では特に、現代社会に密着した新しい学問領域が脚光を浴びる。そ
れは当然、必要なことだが、その陰で、基礎的学問領域を軽視する風潮が強まっ
ている事実を見逃してはならない。サッチャー時代の英国で真理探究の軽視、
実利最優先の末に起きた「大学衰退」の轍(てつ)を、いま日本が踏もうとし
ているとの指摘もある。

 大学の自治、独立性、校風といった、真理を学ぶものにとってかけがえのな
い環境について、統合を急ぐ大学や文科省はほとんど留意していないようにも
みえる。

 もう一点、忘れてならないのは、地域貢献の視点である。兵庫県立大の統合
や、例えば教育学部再編といった、一定エリアを越える統合は、地域拠点とし
ての大学機能を大きく削ぐ懸念も強い。自立、分権時代を迎える地域にとって
大きな損失だ。

 これまでの統合論議は、文部行政関係者だけの論理で進められてきた感が強
い。広く関連地域、市民を巻き込んだ議論が欠けていたのではないか。

 統合で失われるものは多くある。あらためて「統合の目的とその結果」につ
いて、丁寧な分析がなされなければならない。

 大学の機能を再確認しつつ、学問の本旨を再構築できる方向で、統合問題を
考える時である。