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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人制度に関する緊急要請(千葉大学理学部教授会2月21日付決議)
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2002年2月21日

文部科学省調査検討会議連絡調整委員会 御中

千葉大学 理学部 教授会


国立大学法人制度に関する緊急要請

 千葉大学理学部教授会においては、1999年以降、国立大学の独立行政法人化問
題について議論を進め、時宜に応じてその見解を公表してきた。すなわち、1999
年9月24日に「国立大学の独立行政法人化問題に関する文部科学省案と国大協案
の比較・検討と千葉大学理学部有志の見解」
http://www.s.chiba-u.ac.jp/dokuho2/bunsho1.html)を発表した。また2001
年6月11日には教授会名により、「国立大学の独立行政法人化問題に関する千葉
大学理学部の見解」(http://www.s.chiba-u.ac.jp/dokuho4/kenkai.html)を示
し、それぞれ深い懸念を表明した。さらに、2001年9月27日付で文部科学省の国
立大学等独立行政法人化調査検討会議が発表した「新しい『国立大学法人』像に
ついて」(中間報告)[以下、『中間報告』と略す]に対して、千葉大学理学部
教育・研究体制検討委員会は、文学部・文学研究科将来構想委員会と共同して
『中間報告』に対する見解を表明した。しかしながら、文部科学省調査検討会議
連絡調整委員会における議論は、誠に遺憾ながら千葉大学理学部教授会がこの間
表明して来た見解と反する方向に進んでいるように見受けられる。

 文部科学省調査検討会議連絡調整委員会の議論が、残すところ本日2月21日と3
月6日の2回とされていることに鑑み、昨今の文部科学省調査検討会議連絡調整委
員会の動向について、千葉大学理学部教授会の深い懸念を改めて表明するととも
に、緊急の要望を提出するものである。


緊 急 の 要 望
  1.国立大学法人制度における教職員の身分は、必ず公務員とすること。
教員については「教育公務員特例法」を現行どおり適用すること。
2.短期的かつ対症療法的な経済効率性の観点からではなく、今後の日本の高
等教育のあり方の観点から、大学の自主性・自律性を尊重・高揚すべく、『中間
報告』ならびに調査検討会議連絡調整委員会で提示された国立大学法人の制度設
計を 根本的に再検討すること。具体的には、次の意見について検討すること。
  (1) 学長選考方法については、大学外部の意見を聴取するなどの仕組を設け
ると しても、選考は大学内部での投票を経ることを原則として考えるべきで
ある。
(2) 大学の自主性・自律性が尊重されるために、役員組織・運営諮問会議・
評議会 等の管理運営機構の中枢に、相当数の学外者を入れることは適切でな
い。
(3) 例え中期目標・中期計画を設けるにしても、教育・研究の自由の見地に
基づくならば、それらを文部科学大臣の認可事項とすべきではない。特に、
「教育・研究を長期的スパンに立って深く掘り下げて行う」という学問的特質を
有している基礎科学では、中期目標・中期計画を認可事項にすることは容認でき
ない。


[上記「要望」に関する解説]
 1999年、有馬朗人文部大臣(当時)が国立大学の独立行政法人化の検討を開始
したのは、「公務員型であるならば」という条件付きであった。そして文部科学
省調査検討会議においても2001年9月27日の『中間報告』の段階では、「公務員
型」「非公務員型」「大学ごとに決定」の3案を並記しつつも、「ア・プリオリ
に選択するのではなく、個別の制度設計を積み上げた最終結果として判断するこ
とが適当である。」とし、さらに、「政府において、国家公務員制度の抜本的な
改革についての検討が行われており、また、産官学の連携・交流の拡大の観点か
ら大学教員の兼業等についての一層の弾力化の措置が検討されているため、これ
らの動向も十分考慮しつつ、今後、以下に示す個別の人事制度について十分検討
した上で、最終的な結論を出すべきである。」と慎重な姿勢を示していたのであ
る。しかし昨秋以降政界・財界から非公務員型との主張が急速に強まり、遂には
2002年1月25日の閣議決定『構造改革と経済財政の中期展望』に、「国立大学を
早期に法人化して自主性を高めるとともに民営化及び非公務員化を含め民間的発
想の経営手法を導入することを目指す。」という文言が掲載されるに至った。調
査検討会議連絡調整委員会の議論がにわかに非公務員化へと急傾斜したのは、ま
さに閣議決定と同日の第5回会議からである。第5回会議に提出された資料『法
人化後の職員の身分に関する主な意見』に採用された見解は1つを除いて他のす
べてが非公務員化論であるなど、公平さが疑われるなかで議論が進められ、1カ
月も経ない本日(2月21日)の第7回会議には、国立大学の教職員約11万80
00人全員を『非公務員』にするとの事務局最終案が提出されることとなった。
大学の在り方と教職員の身分に関わる重大問題が、『中間報告』で示した慎重姿
勢さえ放棄し、わずか1カ月足らずの議論で決着されようとしていることに、ま
ず我々は強い疑念を抱かざるを得ない。
 第1に、この間の国立大学教職員非公務員化への急速な傾斜は、第5回会議に
提出された資料『法人化後の職員の身分に関する主な意見』ならびに1月25日の
閣議決定などから判断すると、国立大学の民営化を念頭におき、まず公務員の
「身分保障」をはずすことから始めようとしているのではないかという危惧を抱
かせる。今日の日本の状況下では、国立大学の民営化は高等教育に壊滅的打撃を
与えるものとなることは、今までにも繰り返し指摘してきたところである。我々
が、非公務員化に反対する第1の理由はここにある。
 第2に、非公務員化は必然的に教員が教育公務員特例法の適用外となることを
意味する。周知のように教育公務員特例法は、「教育を通じて国民全体に奉仕す
る教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき、教育公務員の任免、分限、懲
戒、服務及び研修について規定」(第1条)したものである。そして大学におい
ては、この法律によって教員の身分が保障され、教授会による自治という基本思
想と相俟って学問の自由が守られてきたことを忘れてはならない。学問の自由
は、決して大学教員のために存在するのではなく、憲法23条に明記されているよ
うに国民の基本的権利の一つである。この学問の自由、具体的には教育・研究の
自由の重要性を示す具体的な例として、現在非常に役立つ研究とされている「遺
伝子組替え技術」を挙げることができよう。この研究も、当初は「人類の役に立
つ技術」として研究され始めたわけではなく、学問の自由によってのみ保証され
うる、知的好奇心を押し進めることにより、初めて見出されたものである。ま
た、ここ2年続いたノーベル化学賞の受賞者も、「研究の出発点は知的好奇心で
あった」と話をしていることからも、教育・研究の自由の重要性は理解できるこ
とであろう。さらに、教育公務員特例法が事実上の規範となって、身分保障の在
り方が私立大学教員に及んでいることにも留意しなければならない。我々が、非
公務員化に反対し、教育公務員特例法の適用を要求する第2の理由はここにあ
る。
 第3に、大学の教育研究支援業務を担っている行政職員は、公務員としての地
位が保証されることを前提として定員削減の厳しい状況下でも勤務に精励して来
た。現在企図されている非公務員化は雇用に対する不安を引き起こし、業務の停
滞を招く危険がある。我々が非公務員化に反対する第3の理由はここにある。


以上述べたような重大な問題がある以上、来る3月6日の文部科学省調査
検討会議連絡調整委員会では、 最終報告を取りまとめることはせずに、
広く大学の意見を聞くように要望します。