トップへ戻る   東職HPへ戻る
独行法反対首都圏ネットワーク

☆[理系白書]第一部 研究とカネ “狭き門”に研究者殺到 
. [he-forum 3246] 毎日新聞01/21
---------------------------------------------------------------

『毎日新聞』2002年1月21日付

[理系白書]第一部 研究とカネ “狭き門”に研究者殺到

 ◇競争主義で貧富の差拡大

 「当たった」「今年はダメだった」――。宝くじの話ではない。

 研究費の工面は大学教授の重要な仕事だ。国が支給する校費(研究室の運営
費)の額は、研究には不十分だ。文部科学省が主管する公募制の科学研究費補
助金(科研費)が頼りだが、その採択率は23・1%(01年度)。単純計算
では全国の大学研究者約17万人のうち4万人しか受けられず、冒頭のやりと
りが毎年交わされる。

 「高い採択率には秘けつがある」と、東京大アジア生物資源環境研究センター
の飯山賢治センター長(59)は語る。同センターは、科研費の採択率が平均
の2倍超。これまで98件申請し、59件が採択された。

 難しいことではない。他分野の研究者とも議論し、長いものは1年かけてテー
マを練り上げる。申請書は、できるだけやさしく書く。「環境という今日的な
領域であることも好材料」と飯山さんは明かす。他学科の教授に秘策を伝授す
るほどだが、「油断すると、いつ干上がるか分からない」と言う。

  ■   ■

 東京理科大の笛木和雄教授(74)は、東大工学部教授だった86年暮れ、
世界記録を7度上回る絶対温度37度(セ氏氷点下236度)で超電導を起こ
す新物質を見つけた。専門は「金属の酸化」で、超電導とは無縁だった。銅酸
化物のセラミックスで超電導が起きるという海外の成果を知り、蓄積を生かし
て研究に着手。半年で世界一の成果を導き、超電導フィーバーに火を付けた。

 研究を続けるには300万円分の測定機器が必要だった。ところが研究室に
は、年300万円の校費しかなかった。新規参入の笛木さんが科研費を受け取
れる可能性は低い。窮状を救ったのは、元院生が勤める企業の寄付だった。
「本当に必要なのは、実績ができる前のお金。ありがたかった」。5000万
円の科研費が認められたのは翌々年のことだ。

  ■   ■

 95年の科学技術基本法施行で、国の研究投資は増えた。科研費の総額は6
年間で1・7倍に。大型の助成も増えた。

 1件あたり年間5000万〜2億円という「戦略的基礎研究推進事業」の審
査を担当する山本明夫・東京工業大名誉教授(71)は就任当時、文部省幹部
から言われた。「成果が出ない理由を、研究費不足のせいにできた時代は終わ
りです」

 これまで、山本さんの専門分野で採択された19件の研究から10人以上が
学会賞などを受けた。「カネをかければ、見合った成果は出やすい」と山本さ
んは言う。

 しかし、将来性のある研究にカネが公平に配分されているかというと、疑問
の声もある。科研費のある審査委員は「助成額が大きいほど審査は慎重になり、
実績を重視する。その結果、富む者はますます富む」と打ち明ける。

 31学協会で作る化学関係学協会連合協議会は00年秋、全国119大学の
理系255学科・研究室に実態調査をした。95年の基本法施行後に研究費が
「増えた」と答えたのは旧帝大が中心で、その他の国立の56%、私立の71
%が「変わらない」と答えた。

 明暗を分けた一つは科研費だ。旧帝大が平均900万円を獲得していたのに
対し、私立は0〜100万円程度だった。貧富の差は校費にも及ぶ。文部科学
省は300万〜500万円の均等配分を改め、大学の裁量で差をつけるよう求
めており、存続が危うい研究室も出る。「100万円の校費で研究とは、死ね
ということ」という声も寄せられた。

 調査を担当した企画室長の松井良業さん(59)は「現状では、成果に直結
しない基礎研究がすたれる。優れた目利き(評価者)と校費の増額が不可欠」
と話す。

 先端研究を育てるには競争主義がいい。しかし、それが研究のすそ野を細ら
せ、気がつけば砂上の楼閣、という事態を招きはしないだろうか。【元村有希
子、田中泰義】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ◇大学の研究費◇

 研究室の収入源は(1)校費(2)科研費(3)他省庁の公募研究費(4)
財団・企業の助成や受託研究費。黙っていてももらえるのは校費だけで、ここ
から図書費、学会出張費、光熱費などを払う。大学と企業の格差も激しく、研
究者1人あたりの研究費は大学の1206万円に対して企業は2502万円
(いずれも99年度、年間)と2倍を超える。競争率の高い科研費について
「額を少なくして広く薄く」という要望も多い。