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独行法反対首都圏ネットワーク

年頭所感 ―府大にルネッサンスを―
.[he-forum 3211] 大阪府立大学長年頭所感

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年頭所感 ―府大にルネッサンスを―

学長  南  努

皆さん、明けましておめでとうございます。新年をどのようにお迎えになられ
たでしょうか。御家族お揃いで、希望を胸に新しい年を迎えられたことと思い
ます。

年頭に当って、一言ご挨拶申し上げます。

まず全般的なことから始めて、法人化の問題、大学統合の問題、トップ30と競
争的研究資金の獲得、老朽学舎の問題等について、私が日頃考えていることの
一端を述べさせて頂きます。

昨年2001年というのは、申すまでもなく、21世紀開幕の年でした。21世紀を考
える前に、少し20世紀を振り返ってみます。20世紀というのは、一言でいえば、
まさに「科学技術の時代」であったと言えると思います。

 そのことを最も象徴的に表現していると思われる読み物をご紹介します。20
世紀が始まったばかりの、1901年1月2日付で、当時の「報知新聞」に村井玄斎
という方が書いた記事です。「20世紀の予言」というテーマで、23項目挙げら
れています。23項目中、実に18項目がほぼ的中していて、その的中率の高さに
驚かされます。文章を口語に改めながら、いくつかをランダムにご紹介します。

 1つ目は、マルコニーが発明した無線電信が世界中に普及する。
 2つ目は、東京にいながら、ヨーロッパの状況を天然色で見ることができる。
 3つ目は、当時50日かかっていた世界一周が、7日間で可能となる。
 4つ目は、新しい装置が発明されて、気温の調節ができ、暑さ寒さを知らなくてすむ。
 5つ目は、10里を隔てていても、会話ができる。
 6つ目は、馬車がなくなって、自動車の世の中になる。
 7つ目は、列車内は温度調節され、東京―神戸間は2時間半で走る、等々です。

 首尾一貫性のない項目が羅列されているので、とりとめのない話ですが、こ
ういうことをご紹介しましたのは、少なくとも100年前、20世紀初頭には、人々
はバラ色の将来像を描いていたと感じられるからです。人々は科学技術の進歩
に期待し、その期待が実際実現していったと解釈できます。20世紀は「科学技
術の時代」であったと申し上げたゆえんです。

 上に述べました村井玄斎さんの「20世紀の予言」につきましては、森谷正規
著の「21世紀の技術と社会」(朝日選書)という本にも詳しく紹介されています
し、丁度1年前の昨年1月4日にNHKの「ときめき歴史館」でも放送されまし
たので、ご存知の方もおられると思います。


それでは21世紀はどうなるかということです。昨年も正月に随分注意して、こ
の種の記事がないかを探しましたし、今年も気にしながら丹念に見ましたが、
見つけることができませんでした。

 人々の空想力とか想像力が衰えたとは思えませんが、こういう単純な予測を
することができない程、複雑で不透明な時代になったということではないかと
思います。

 私の知る限りでは、21世紀を表現する一つの重要なキーワードは「知」とい
うことです。21世紀は「知の時代」とか、「知の創造」ということがよく言わ
れます。

 論理に少し飛躍をお許し下さい。私個人は人間の叡知を信じたいと思います
が、人間の叡知をもってしてもなお、人々の間の争いや戦いを無くすことはで
きないということを、世界中につきつけた象徴的な事件が昨年9月11日のあの
テロ事件ではなかったかと思います。21世紀の人類が真正面から受け止めるべ
き、新たな試練の象徴であるように思えてなりません。人類は地球上に本当に
平和を構築できるのかということが問われていると思います。2001年9月11日
を境にして、価値観の大きな変革が起こりつつあるように思えてなりません。
力だけで平和を実現することはできません。

次に、大学全般の状況、大阪府立大学の状況に話を移します。

 大学がこれまで経験したことのないような、激動の時代、困難な状況に置か
れているのではないかと思います。独立行政法人化、世界に通用する大学、そ
れに伴う大学の統廃合というような問題が、昨年急に具体性を帯びるようになっ
てきました。

 独立行政法人化という問題は、原理原則に照らして考え出されたものではな
く、市場原理にもとづいて、行政改革の一環として出てきたという点で、私は
個人的には賛成できません。しかしながら、あれだけ激しく反対していた国立
大学協会も同意し、国立大学は平成16年度から法人化されることが決まりまし
た。公立大学協会は、公立大学の法人化への画一的移行ということは考えてい
ません。それぞれの大学の設置者と大学の意思にまかせ、従来型の直営方式を
とることも、法人化することも自由であるという立場をとっています。ただ、
法人化をしようとした場合に、法律の整備がなくてはだめだとの認識のもとに、
公立大学の法人化を可能にする「法整備」を行うよう、総務省をはじめ、関係
機関に働きかけています。

 こういう歴史の流れを見ますと、大阪府立大学もむしろ、法人化を積極的に
検討すべきではないかと考えるに至っております。新聞報道をそのまま信用す
るわけではありませんが、設置者である大阪府も、本学の法人化を望んでいる
と推察されます。

 まだ、具体的な取り組みにまでは至っておりませんが、学長補佐会議の中で
検討を始めております。今月22日には、学長補佐会議主催で、「大学シンポジ
ウム」が開催されますので、御出席下さいますようお願い申し上げます。

 府大学の統合という問題も避けて通れなくなりつつあります。

 しかしながら、この問題を単に大阪府立大学と大阪女子大学との間で、これ
また行政改革の一環としてだけで処理すると、歴史に禍根を残すおそれがあり
ます。上に述べた法人化のことと関連して考えますと、大阪府の大学として、
複数の法人が存在するということは考えられません。一法人ということになり
ます。そうしますと、一法人で複数大学という状況を作ることは、大阪府にお
ける大学の位置付けとして、決して好ましくないと思います。一法人一大学と
して、世界に通用する大学を目指すべきであると思います。

 このことは、設置者サイドでなかなか理解されないようです。単に所管が違
うという理由で、未だ三大学で十分議論できる状況にないのは残念です。50年
後、100年後の大阪府の大学としての役割を考えたとき、一法人一大学と言う
形態を目指すべきだと思います。どのように話がまとまっていくのか見通しは
立ちませんが、府大学の法人化ということに対する私の基本的な考えです。


トップ30と競争的研究資金獲得の話題に移ります。

 世界に通用する大学、いわゆる遠山プランあるいはトップ30というキャッチ
フレーズで呼ばれるこの問題は、昨年唐突に出てきたという印象があります。
このレッテル貼りは、日本の大学を、良いレッテルを貼られた大学と、無印の
大学とに分ける作業であって、世間も大学当事者もきっと中身の差以上にプレ
ミアをつけて評価することになるだろうと推察します。その結果、良い大学と
悪い大学という極端な二極構造ができるだろうと思います。そうしますと、選
ばれない無印の大学が圧倒的に多いわけですから、10年後、20年後に、トータ
ルとして日本の大学の活力、ひいては日本の社会全体の活力が低下する可能性
が大きいのではないかと、私は危惧しています。

 しかしながら、直接の当事者である我々は、このトップ30に対して手をこま
ねいて見ていることはできません。何としてもトップ30に選ばれることが、本
学が研究型大学を維持するための必須要件であり、そのために、先生方と力を
合わせて頑張らなくてはならないと思っています。

 近々、先生方全員の業績を提出して頂くつもりをしています。どういう形で
各種の業績を集めるかについて、学長補佐会議で具体的な作業をつめて頂いて
おります。是非御協力をお願いします。先生方の方では、この業績提出と併せ
て、どの分野に申請するか、よくお考え頂きたいと思います。「こういう分野
に申請する」というお申出をもとに、ヒアリングを行って、申請分野を決めた
いと思っています。今年度の募集が行われる5分野もまだ公表されていません
が、短期決戦になりますので、何卒よろしくお願いします。

 このトップ30に限りませんが、競争的研究資金の獲得に関しては、研究者と
して、第一義の事項とお考え下さい。平成13年度から始まった第2期科学技術
基本計画(5ヶ年間)で、24兆円が科学技術の研究に投入されます。平成8年度か
ら12年度までの第1期科学技術基本計画においては、17兆円がすでに投入され
ました。このように多額の国費が科学技術の研究に投入されることは、かつて
なかったことです。

 ただし、これらの資金は純粋に競争的研究資金としてだけではなく、国立大
学の施設、設備の更新や改修にも使われます。そのため、この5年間で、国立
大学と公立大学の間に大きな格差が生じたことは、先生方が実感されていると
おりです。どの国立大学に行っても、建物や設備の新設、更新のラッシュとも
いえる状況を見ることができます。これからの5年間で、さらに格差が広がる
ことを恐れています。

 科学技術基本計画は、数値目標が揚げられている点が特徴です。第1期の分
では、国立大学の狭隘化の解消及び老朽施設の改築・改修のために、1200万平
方米の整備を行うことが計画されました。実際には300万平方米しか整備され
ませんでした。そこで第2期の分では1兆6000億円の費用を投入して、緊急度の
高い600 万平方米の新築・改築・改修が計画されています。

本学では、平成7年に先端科学研究所が建てられて以来、科学技術共同研究セ
ンターと生物資源開発センターの増築が行われているだけであることを考える
と、いかに格差が広がっているかは、歴然であります。せめて、競争的研究資
金を少しでも多く獲得して頂いて、研究の質における差が開かないように、頑
張って頂きたいと思います。

 これに関して、明るい話題を一つさしはさみます。科学研究費の総額が1600
億円を超して、科研費だけではありませんが、大型研究の分には、間接経費が
認められるようになり、何人かの先生方がそれを獲得して下さっています。大
変嬉しいことです。さらに、科研費の審査員が今年度、大阪府立大学として22
人になっています。その中には教授でない方さえ1名おられますが、簡単にい
えば本学の教授220名中21名の審査員がおられるということは、各専門分野で
本学の先生方がいかに活躍しておられるかの重要な証拠であると思います。部
局によっては、実に教授全体に対して、20%を越す先生方が審査員になってお
られます。科研費の採択率が20%強であることを考えますと、これは本当に驚
くべき数値であります。

 最後に老朽学舎の話題に移ります。

 本学にとって、老朽学舎の改築、改修は、最もさし迫った頭の痛い問題です。
このまま推移しますと、教育・研究上に支障を来すだけではなく、質の高い学
生を獲得できなくなります。主要な国立大学との間の格差がますます拡大する
ことも、先程述べたとおりです。

 ここでまた、一つの小さな話題をさしはさむことをお許し下さい。ある大学
というように、少しぼかして表現しますが、ある大学の工学部長の御子息が大
阪府立大学を受験しました。ところが、試験を受けて帰ったその日お父さんに
「府大には合格しても、絶対に行かない」と言ったそうです。なぜかと聞くと、
「あんな汚い大学に行きたくない」と答えたそうです。この人が入学したのは
北海道大学でした。もう10年余り前のことです。これは象徴的な一例と考える
ことができます。このままでは、せっかく入学を希望してくる優秀な学生に申
し訳がたたないようにさえ思われます。

 工学研究科老朽学舎建て替えの問題は、このような難題を解く第一関門であ
ると位置づけています。これを一歩踏み出さないと、全体に対する答えは当分
出そうにないと思います。極めて厳しい境界条件のもとで解を出さないといけ
ませんので、大変悩んでいます。教職員の皆様の御理解と御支援を頂きますよ
うお願い申し上げます。

 このように難問が山積みしておりますが、これらの問題に対して、大学が主
体的に取り組むためには、何よりも先生方が優れた研究成果を挙げて下さって、
社会にその存在をアピールして頂くことが最も重要であります。何卒よろしく
お願い申し上げます。

 簡単に結びをさせて頂きます。

 大阪府もかつては大変豊かでしたし、大阪府立大学も大変恵まれた状況にあ
りました。そこで、大阪府の復権、ひいては大阪府立大学の復権、言葉を変え
て、大阪府ならびに大阪府立大学のルネッサンスを願い、しかも午年にちなん
で、飛躍の年になることを願って、年頭の挨拶とさせて頂きます。御静聴有り
難うございました。