☆山梨医科大と統合する山梨大の変革 単位不足の工学部学生101人に 退学勧告を発した理由
. [he-forum 3203] プレジデント12/17 .-
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『プレジデント』2001年12.17号
山梨医科大と統合する山梨大の変革
単位不足の工学部学生101人に
退学勧告を発した理由
山梨大学学長 椎貝博美 Hiroyoshi Shi-igai
1937年、東京都生まれ。工学博士。東京大学卒。東京工業大学、筑波大学な
どを経て98年より現職。
2年半前から統合の話は始まった
山梨大学は、山梨医科大学と来年秋に統合する予定である。統合後は教育人
間科学部、工学部、医学部の三学部から構成される新大学となる。
山梨大学に医学部をつくろうという話は、何も最近始まったものではない。
私が学長に就任して半年後の1999年6月にはすでに旧文部省に統合の意思を伝
えていた。ほぼ同時期に筑波大学が図書館情報大学と統合の協議を進めていた
が、当時はこれほどまでに大学再編のうねりが全国に広がろうとは思ってもみ
なかった。
山梨大学と山梨医科大学がなぜ統合するかといえば、そのほうが経済的だし、
お互いに協力できることが多いからだ。例えば、医科大の学生にとってみれば、
統合によって教養教育が充実するだろうし、山梨大の側からすれば、医学部が
できることで教育・研究の幅が広がってくる。統合の動機というのは、こうし
た素朴で単純なものである。教授や事務職員の数は現在のままとして予算を出
している。
歴史を振り返れば、二つの学校は戦後に二度、一緒になる機会があった。
戦後間もなく、師範学校と工業専門学校、医科専門学校を一緒にして山梨大
学をつくろうとしたが、戦災を受けた医専は再建が不可能であった。二度目は
昭和50年代前半、山梨大学は医学部創設の予算を上乗せして国に概算要求した。
しかし旧文部省の方針で医科大学を新たにつくることになった。
だから今回が三度目の正直で、私はこうした歴史的経緯を大事にしたいし、
それが、医科大との統合協議がスムーズに進む下地になっている。
工学部の学生への退学勧告と定員削減
この統合が、全国の大学再編の先陣として取り上げられることに戸惑いがあ
るが、そのことで国立大学全体に統合や変革の気運が高まってきていることは
確かである。
この10月、山梨大学工学部では、前期授業の取得単位数が一定基準に満たな
い学生、1年生から4年生の101人に退学勧告を出した。今回はあくまで勧告な
ので、退学するかどうかは学生の判断によるが、今年4月1日、学則を改正して
「学業成績不振により成業の見込みがないと認めた者には、退学を命ずること
がある」としたから、退学命令を発することもできる。ただ私としてはそうい
う事態になってほしくはないし、別に学生を脅しているわけでもない。せっか
く能力があるのに勉強の努力をしないというのでは、不幸であり、何とか単位
を取って、卒業できるように、大学としてお手伝いしようという気持ちである。
アメリカの大学では、ハーバードのように一流であればあるほど、手取り足
取り教える。「入学したときは優秀なのだから、成績が悪いのは教え方に問題
があるかもしれない」と一度は大学としての責任を考えるのである。
マサチューセッツ工科大は卒業に必要な単位を取れば、2年間でも卒業でき
るし、一方ハーバード大では「ジェントルマンズB」といって、何かのスポー
ツに打ち込んで成績はBというのが理想の学生像として語られる伝統がある。
いずれの大学も学生を大切にするという意味では同じである。しかし大学によっ
ては単位を取らない学生はどんどん退学させるところもある。
また山梨大学では来年4月から工学部の定員を580人から480人に減らし、そ
の代わり大学院工学研究科の定員を23人増員することにした。これは学部の学
生レベル維持を図るとともに、大学院生は私立大学の優秀な学生も入れ、学部
より大学院を重視した大学を目指す一歩である。
改革は大それたものではないが、足下から着実に進めている。