☆[会う・聞く・記す] 井上範夫・山梨大教育人間科学部長
.[he-forum 3196] 朝日新聞山梨版12/19
---------------------------------------------------------------
『朝日新聞』山梨版2001年12月19日付
企画特集1
[会う・聞く・記す]
井上範夫・山梨大教育人間科学部長
──文部科学省の懇談会が、全都道府県に教員養成学部を配置する原則を崩し、
近隣する大学・学部の統合を促す報告案を発表しました。
「報告案は納得しがたい。教育の将来像を見据えたものではなく、構造改革
の中で、経済効率の悪い部分を切り捨てる動きが背後に見えます。教育は地域
の住民を育てる重要な役割を持つ。教員養成学部がなくなれば、その地域で学
んだ教員がいなくなり、地域の伝統を子供たちに伝えられなくなる。地方の過
疎化にも拍車がかかる」
──山梨大は地域の発展にどう貢献してきたのでしょう。
「教員養成だけでなく色々な活動をしている。例えば、山梨の教育関係者を
メンバーにした教育研究協議会で、教員養成のあり方を考えている。大学主催
の教育フォーラムでは、一般の人の前でいじめなどの公開討論会をしている」
──しかし、山梨大の教員養成課程の定員はわずか100人。統合の可能性も
あるのでは。
「それは否定できない。だが、山梨で教員養成を担ってきた伝統がある。県
知事などで作る大学の運営諮問会議からも、教員養成をしっかりやってほしい
という激励を受けている」
──小規模の教員養成課程の良さは。
「先生1人に生徒が数人というきめ細かな授業ができ、学生の考えを聞きな
がら進められる」
──今回の報告案は志願者数に影響をもたらすでしょうか。
「それも心配している。教員養成学部が再編されれば、地域によっては教員
志望の高校生が他県に行かざるを得ない。生活費などの問題から、あきらめざ
るを得ないケースも出てくる」
──報告案では、教育学部内にありながら生涯学習課程など教員養成系ではな
い「ゼロ免課程」の独立か他学部への吸収が盛り込まれています。
「少子化や地方のニーズの多様化に対応し、山梨大でも国策に従ってゼロ免
課程を進めてきた。それなりに努力したのに、政策に一貫性がない。山梨大の
ゼロ免課程は100人だが、もし統合されても切り捨てることはしません。
(来年10月、山梨医科大との統合で生まれる)医学部も含め、3学部の教養
教育に組み込む形で保持したい」
──教員養成学部がなくなった地域には、遠隔教育で対応するとあります。
「双方向で教師と学生が向かい合うのが教育の基本だ。サテライトなどはあ
くまで補助的な手段で、教員養成課程の代役にはなりません。教員養成課程は
現職教員の再教育も担ってきた。経験の中での疑問をぶつけ、新しい知識が身
につけられる。しかし、遠隔教育になれば、現場の教師が再教育を受けたい時
に対応できません」
──少子化という逆風の中、私大も含め大学間の競争も高まります。山梨大の
戦略は。
「教員志望の学生の実力をつけることが基本です。子供たちと触れ合う時期
を早めて、実地での教育を深めるカリキュラム作りをしたい。入試のやり方も
考えなければいけないでしょう」
「最近は教員採用の際、教え方の技術に関する比重が増えましたが、やはり
それぞれの教科に対する知識や実力をしっかり身につけさせたいと思っていま
す」
----------------------------------------------------------------------
いのうえ のりお
東京都三鷹市生まれ、55歳。専門はフランス文学。東京教育大(現筑波大)
文学部卒業後、同大助手になり、77年から山梨大講師。助教授を経て91年
から山梨大教授。01年4月から現職。
----------------------------------------------------------------------
《取材を終えて》
少子化に伴い、教師の数も減少傾向にある。一方、総合学習の本格導入や少
人数学級が叫ばれる中、教師の力量が今まで以上に問われている。統廃合の是
非を含め、教員養成のあり方を教師の資質向上という観点から、県や高校など
も交えて考えて欲しい。
(広部 憲太郎)