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独行法反対首都圏ネットワーク

☆大学「トップ30」の波紋 
.[he-forum 3194] 東海新報01/10
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『東海新報』コラム世迷言2002年1月10日付

大学「トップ30」の波紋


 構造改革の流れが、"象牙の塔"と言われた大学にも押し寄せている。

 少子化や国際競争激化を背景に、文科省は全国に九十九ある国立大学を独立
行政法人化する構想を早くから打ち出していた。その大学再編を加速させたの
は昨年六月、遠山敦子文科相が発表した、いわゆる"遠山プラン"だ。

 国立大学を早期に独立行政法人に移行。教員養成系学部は半減し、単科大学
は他大学との統合を進める。県域を越えた大学の再編も積極推進の姿勢で、国
立大の"一県一大学"制を根本から揺るがしている。

 特に切実なのは教育学部。急速な少子化で教員採用枠が減っている現状から、
早ければ平成十五年度にも具体的な再編が実施される運び。

 国立大の大幅削減と合わせ、遠山プランでさらに注目を集めたのは国公私大
「トップ30」の育成。

 全国に約六百七十ある四年生大学のうち、5%弱の三十大学を選抜して「世
界最高水準に育成」する計画だ。そのため最先端の研究施設を重点整備し、研
究資金も五年で倍増させるとしている。

 世界水準の大学育成には、大学発ベンチャー創出も盛り込まれた。特許取得
を年間百件から十年後は約千五百件に、特許の企業化は七十件から五年後に約
七百件とする。企業の委託研究費は五年で十倍にするなど、産学連携もいっそ
う推進していく。

 しかし遠山プランには、大学側から反発の声が強い。「トップ30重点化の地
方しわ寄せは承服できない」「大学には目先の貢献にとらわれない長期的研究
も大切」「数値把握が困難な人材育成の努力はどう評価するか」「研修の核が
なくなれば地域の教育力が低下する」――など。

 このため、プランの即実行は疑問視されるが、一方で少子化や大学間競争激
化の現実問題から逃れることもできない。

 酒田短大の例では、生徒減の切り札として一昨年から中国から留学生を受け
入れた。定員の96%が留学生で占められ、経営安定に結びつくかに思われた。

 ところが、学生の親は入学金や授業料を負担するのが限度。学生の生活費は
アルバイトで賄わなければならないが、人口十万の酒田にはバイト先が少ない。

 やむなく、学生たちは首都圏にバイト先を探すことになり大学を離れた。こ
のままでは留学生が不法滞在者となりかねない。"金満日本"が、二年の勉学期
間を終えて帰れば故国の指導的立場に就き、日本への良き理解者にもなるであ
ろう学生たちを見殺しにするのだろうか。

 県内でも、大学再編を見越した動きが始まっている。岩手大学では、弘前・
秋田両大学に統合を働き掛け、第一弾として教育学部の先行統合も視野に入れ
ている。

 また、岩手大、県立大、岩手医大、盛岡大、富士大の県内五大学は、図書館
の相互利用をできるようにし、今年四月からは単位互換も実施する。

 構造改革を迫られる国立大と、入学者減で経営が厳しさを増す私大が連携。
他大学の講義や図書館利用など、より魅力あるキャンパス生活を訴えることで、
県内大学への志願者増を目指している。

 大学改革の進展は、気仙地域としても注視したい。それは大学と企業、地域
との連携が、時代の要請やIT革新でますます進むからだ。

 盛岡周辺に偏在する県内大学だが、企業や生涯学習の要請に共同研究や遠隔
講義にも前向きだ。宮古短大には「三陸総研」というシンクタンクもあり、こ
れらを活用できる体制を充実したい。

 地元気仙にある北里大学水産学部との関係も強化。三陸沿岸出身の在籍者が
数人という現状から、水産振興や水質変化に問題意識を持った気仙出身者を、
もっと入学させることができないかも工夫したい。

 大学を、単に子どもたちの進学先として考えるのでなく、企業も行政も住民
もその活用を考える時代を迎えた。大学再編の動きを好機と捉え、連携を強化
する具体的対応が求められている。(谷)