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独行法反対首都圏ネットワーク

特集  教育の大地   国立大の法人化   経営マインド習得急げ 
.[he-forum 3149] 読売新聞中部版12/25
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『読売新聞』中部版  2001年12月25日付

特集  教育の大地
 
 
国立大の法人化
経営マインド習得急げ

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  名古屋大の伊藤正之副総長は、国立大の会計の実情を小遣い帳に例える。

 「これまでの会計制度なんて、そんなものですよ」

 名大の年間予算は約八百億円に上るが、国から細かく項目別に支給され、大
半の使い道が事前に決まっている。大学は、それを過不足なく使って、国に報
告するよう求められてきた。伊藤副総長が「小遣い帳」と呼ぶのは、大学自身
の裁量が入り込む余地がないことを意味していた。

 しかし、その仕組みは間もなく一変する。全国立大が二〇〇四年にも、「国
立大学法人(仮称)」に移行するからだ。この法人化によって、予算や組織、
人事などが、各大学の自主的な運営に任せられる。大学がそのメリットを生か
して自立することで、大学改革を促そうというわけだ。

 名大はすでに、法人化を見据えて動き出している。今年九月、学内の部局長
クラスによる二つの小委員会を作ったが、その一つ、財務会計小委員会では、
経済学部の教員が、大学幹部に貸借対照表の読み方を講義したこともあった。

 「専門外ですから、ちんぷんかんぷんですよ。でも、これからは必要になる」
と伊藤副総長。法人化されれば、幹部は教育者や研究者の肩書だけでなく、経
営者の能力も求められるからだ。

* * *

 名大の事務棟一階に、今春、「評価情報分析室」という部屋ができた。大学
幹部の集まる中枢部に、わざわざ倉庫を改装して作ったのだが、これも法人化
をにらんだものだった。

 予算をどう使っていくか、企業のように中期目標を立てて、自前の戦略を練
る必要がある。分析室は、その基になる情報を集め、評価する情報システムを
作っている。

 こぢんまりとした部屋では、室長の池田輝政教授らスタッフが、数台のパソ
コンに向かっていた。

 学生一人あたりの教員数、入試難易度、学生の満足度など数十項目ものデー
タを蓄積している。旧帝大の七大学間での比較や、雑誌から引用した大学ラン
キングのたぐいもある。

 「あらゆる指標を使って『名大の強み』を表現するのが目的です。これを分
析して、強みをいかに伸ばしていくか、幹部が中期目標を立てる。これまでの
大学にはなかった発想です」と、池田教授は胸を張る。

 名大は法人化の準備で他大学より先行している。この分析室も全国初の試み
といい、京大、阪大、九州大など全国から見学に訪れている。

* * *

 三重大も、今年八月、学長ら幹部の大学改革会議をつくり、法人化に向けて
協議を始めた。来年一月には、法人設置準備室を設け、学内規定の制定などの
作業に取りかかる予定だ。

 大学独自に収入を確保する道も探っている。担当のある教授は「付属病院は
工夫すれば、収益を上げることができるかもしれない。寄付金や、同窓会など
もフル活用し、外部から資金を導入したい」と語る。

 学内の意識を高めるために、監査法人を招いての企業会計の勉強会や私大学
長の講演会も開く。

* * *

 法人化は、国の丸抱えだった国立大が、私大に近づくことを意味する。これ
まですみ分けしてきた私大にとっては、強力な競争相手の出現といえる。

 名城大の池原喜忠理事は「経営ノウハウのある私学が有利だと思っていたが、
名大の改革のスピードはすさまじい」と戸惑いを隠さない。

 三年前に、全国の私大では初の経営本部を設け、企業感覚を積極的に取り込
んできたが、「この勢いでやられたら、対抗できなくなる」と危機感をあらわ
にする。

 中京大の小川英次学長も「私学としての特徴をどんどん打ち出さないと後れ
を取る。しかも変化はスピードを要する」と警戒する。

 私大もまた、これまで以上に激しい競争の波にさらされようとしている。

 (この連載は、中村康生、柴崎憲三、井沢夏穂、八木さゆり、譜久村真樹が
担当しました)

(第三部おわり)