☆特集 教育の大地 どこへゆく教育系 「清算事業団」に現実味
[he-forum 3148] 読売新聞中部版12/24.
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『読売新聞』中部版 2001年12月24日付
特集 教育の大地
どこへゆく教育系
「清算事業団」に現実味
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「これでは、まるで、最初にリストラありきではないか」
愛知教育大が九月に開いた定例教授会は、いつになく紛糾した。同大の「大
学改革推進委員会」が再編・統合を想定したプランを示したからだ。
プランには、静岡、岐阜、三重の各大学の教育学部を愛教大に統合する「東
海教育大学」構想、名古屋大の教育学部に併合される「大名古屋大学」構想な
ど、委員会が検討した六つのシナリオが列挙されていた。出席者を動揺させた
のは、その中にあった「清算事業団」の五文字だった。
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愛教大には、本来の教員養成課程のほかに、情報教育や生涯教育など教員養
成を目的としない四つの「学芸課程」がある。大学を再編し、教員養成専門の
大学として生き残るとすれば、学芸課程を手放すことになる。「清算事業団」
はその場合に備え、余剰教員を高校などに非常勤で派遣する組織として、委員
会が提案したものだった。
かつての国鉄民営化での大胆な人員整理をほうふつさせる表現に、出席者か
ら憤りの声が上がった。あまりの反発の強さに、委員会は「清算事業団」の表
現を撤回した。ただ、これをきっかけに、学内の改革論議が活発になり、
「ショック療法の意味はあった」と、プランの作成に携わった教授は振り返る。
* * *
国立大には、教員養成のための大学と学部が、全国に四十八ある。文科省が
六月に発表した「大学の構造改革の方針(遠山プラン)」では、これら四十八
の大学や学部について、再編・統合すべしとしていた。
少子化で児童や生徒が減るのに伴って、教員の採用数自体が激減している。
その一方で、多発するいじめや学級崩壊などの問題に対応できる教員の育成に
は、小規模の教育学部では限界がある、というのだ。
十一月末には、国立の教員養成大学や学部の将来の在り方を検討してきた文
科省の懇談会が、より具体的な再編・統合の方針を打ち出した。全都道府県に
一校はある教員養成のための大学と学部を、隣接県同士で統合する。そのうえ
で、統合してできた大学は教員養成だけに絞り、それ以外の課程は無くすとい
う内容だ。
かなりの県から教育学部が消える可能性が強くなってきた。そして、愛教大
も教員養成に特化すれば、学芸課程はなくなる。消えたはずの「清算事業団」
が現実味を帯び、学芸課程の教授の一人は「すっと首筋が寒くなっていくのを
感じた」と話す。
* * *
今月七日、岐阜駅前にあるホテルの会議室で、愛教大と岐阜、三重、静岡の
各大学教育学部の幹部ら約四十人がテーブルを囲んでいた。教育大学や学部が
抱える問題を協議する定例の会議だったが、懇談会報告が出された後だけに、
再編・統合問題が話題になった。
静岡大教育学部の幹部が、文科省の教育大学室を訪ねた時のことを打ち明け
た。
「単独で頑張りたいと申し上げて反応をうかがったら、『二百六十という数
は微妙ですね』と言われた」。静岡大の教員養成課程は定員二百六十人。その
規模で、単独生き残りが微妙だというのである。
岐阜大の定員は二百十五人、三重大は百人だ。岐阜大の黒木登志夫学長は
「教育学部を残すことは最大の優先課題」、三重大の川口元一教育学部長は
「単独での存続を目指している」と言うが、単独で生き残れる確証はない。
会議は結局、互いの腹のさぐり合いに終わり、四校間の具体的な統合・再編
話は出なかった。「仲人がいなくては、うまくいくわけがない」と、岐阜大の
黒木学長は統合の難しさを口にする。リストラ含みだけに、今後も一筋縄では
いきそうにない。