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独行法反対首都圏ネットワーク

財政難の波もろに ─ 公立大に法人化の試練 ─ 
. [he-forum 3147] 読売新聞中部版12/22
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『読売新聞』中部版  2001年12月22日付 

 
財政難の波もろに
─ 公立大に法人化の試練 ─

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 「新キャンパスに引っ越してきてから、教員たちの貧乏生活が始まりました」

 愛知県立大文学部児童教育学科の神田直子教授が、怒りを抑えながら語る。

 同大学は一九九八年四月、名古屋市瑞穂区から、万博会場隣の長久手町内に
移転してきた。新キャンパスは県が約三百九十億円を投じ、広々とした敷地に
豪華な施設を備えた。

 ところが、深刻な財政難に陥っていた県は、キャンパスが完成したその年に
財政危機緊急アピールを出し、「聖域なき削減」をスタートさせた。このため、
県立大の一人当たりの年間研究費は、三年前の六十一万六千円から四十二万七
千円にと約30%も減らされた。国立大のざっと三分の一だ。学会参加の旅費
も、今年は年間三万七千円と半分に削り込まれた。

* * *

 英文学科の鵜殿悦子教授は今年、盛岡市で開かれたアメリカ文学会と東京で
開かれた英文学会に参加した。もちろん旅費は自腹を切った。九九年度からは
国外留学費はゼロになっている。

 「外国語学部を持つ大学とはいえ、これからは、教授よりも学生の方が海外
通になるかもしれません」

 こう自嘲(じちょう)気味に語る教授もいる。

 さらに県の10%人員削減計画で、百八十二人の教員定数を、来年から六年
間で十七人減らさなくてはいけない。学科一つ分に相当する人数だ。

 神田教授と鵜殿教授は、今年から県立大教員組合(百五十三人加盟)の委員
長、書記長を務め、大学を所管する県の県民生活部文化学事課と交渉した。

 「年間三万七千円ちょっとの旅費では、東京へ一泊の出張もできない。例え
ば北九州市立大の十八万円に比べ、あまりにも少額だ」と迫る神田教授らに、
県側の回答はにべもなかった。

 「大学だけを特別扱いできない。相互に貸し借りして工夫してほしい。なる
べく招へい先から出してもらうように」。組合発足以来初の女性コンビも、あ
ぜんとするほかなかった。

* * *

 公立大は、国立大に続いて法人化される見込みだ。自治体頼みの運営資金を、
ある程度自前で調達しなければならない時代がやってくる。国立、私立との競
争も一層激しくなる。三兆円を超す負債を抱える愛知県は、今月十七日に発表
した行革大綱で、県立大、看護大、芸術大の県立三大学は「法人化などの幅広
い検討を始める」とした。

 公立大学協会(全国七十四大学参加)が十一月十四日から三日間、宮崎市で
開いた学長会議でも、法人化への対応が論議の中心だった。四兆円を超す赤字
を抱える大阪府が進める府立三大学の統合をめぐる議論も紹介された。「今が
どういう時期か、出席した学長たちもみんな知っていた」と、協会の法人化問
題特別委員長の森正夫・愛知県立大学長は語る。

 一方、行革大綱発表を前に、自民党県議団は「県立大学の存在理由を明らか
にすること」「三大学の統合による事務合理化を進めること」などの提言を神
田知事に提出し、県立大学のあり方に注文をつけた。

* * *

 これから本格的になる法人化論議を前に、大学を去った教授もいる。愛知県
立大外国語学部を辞め、来年度から同県内の私大法学部に移る田中正人教授
(フランス政治史)は、県立大将来計画会議の中心メンバーでもあった。

 「移転の時もそうだったが、教授会で論議をまとめるには相当なエネルギー
がいる。法人化をめぐっても、学内意見がまとまれば、今度は県への説明。さ
らに県担当者を伴って文部科学省への説明に出向くことになる。学長には申し
訳ないが、研究する時間がほしい」

 設置者である自治体が財政難にあえぐ中での大学改革。公立大も大きな試練
の時期を迎える。