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☆特集  教育の大地 新ブランド「トップ30」  生き残りへ一直線
[he-forum 3146] 読売新聞中部版12/21.
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『読売新聞』中部版  2001年12月21日付

特集  教育の大地
 
新ブランド「トップ30」
生き残りへ一直線
 
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 「トップ30をめぐって、世間は大騒ぎになっていますが、名大がこれから
外れることは言語道断です」

 名古屋大で先月二十八日に開かれた、総長と教職員との対話集会で、松尾稔
総長(65)はきっぱりと言った。会場の大教室には、教員や大学院生ら約二
百人が集まり、松尾総長の意気込みのこもった言葉に耳を傾けていた。

 「学内の研究、教育にゆがみをもたらすのではないか」

 教職員からの疑問に対し、松尾総長は「トップ30は大きな意味を持つ。名
大は国際的に、どの分野でも二十番以内に入ることが重要なんです」と、すべ
ての学問分野での「世界二十位入り」を公言した。

 名大の安彦(あびこ)忠彦教育学部長(59)も、松尾総長の意向を受け
「トップ30入りは至上命令です」と顔を引き締める。現在、申請に向けての
準備をしているが、「手の内は明かせません」と、すでに他大学との間で、し
烈な競争が始まっていることをうかがわせた。

* * *

 「トップ30」とは、世界最高水準の大学をつくるため、文部科学省が打ち
出した政策だ。来年度から、世界のトップレベルになる可能性のある大学に、
国の予算を重点的につぎ込んで、育成する考えだ。

 国立大学だけでなく、公立、私立も含んだ大学院博士課程の専攻レベルが対
象になる。

 申請は各大学の学長が行い、専門家らによる第三者評価機関が選ぶ。生命科
学、医学、人文科学など十の学問分野から、十―三十の専攻をよりすぐり、年
間一―五億円程度の支援を五年間続けるのだ。配分する金は使い道をあまり限
定せず、五年たったら、成果を評価し、順位の入れ替えをする。

* * *

 名古屋工業大では、柳田博明学長(66)が学長補佐の結城康夫教授(60)
をトップ30担当に命じ、全教官約三百七十人の業績リストを作り始めた。

 研究論文の発表数、専門書の執筆数をはじめ、博士課程を設置した一九八五
年以降の卒業生の活躍状況まで調べている。

 来年一月までにはデータを集め終え、これまでに蓄積のある分野、将来伸ば
すべき分野などを分析したうえ、学長を中心に、どの分野で申請するか戦略を
練ることにしている。

 結城教授は「自由に使えるお金が、五年間ももらえるのはありがたいが、お
金より名誉の問題だ」と言い切る。そして、こう続ける。「生き残りのために
は、名工大は絶対に、トップ30に入らなければならない」

* * *

 三重大や豊橋技術科学大などの国立大はもちろん、名古屋市立大、愛知学院
大など公立、私立大もトップ30入りを目指している。

 しかし、一方で、選考する時に客観的な評価が行われるか、一―五億円程度
で本当に国際競争力がつくのか、教養教育がおろそかにならないか、など問題
点を指摘する声もある。

 岐阜大の黒木登志夫学長(65)は「結局、旧帝大の七大学が大半を持って
いくことになるだろう。『トップ30』という新たなブランドだけが独り歩き
し、大学間の格差を助長することになるのではないか」と懸念する。

 旧帝大はこれまで、文科省から研究費などで重点的に支援を受けてきた。そ
の他の大学とはスタート時点でかなりの体力差があり、「短距離走で、カール・
ルイスと素人が競走するようなものだ」という教授もいる。

 しかし、岐阜大もまた、「トップ30の趣旨には賛成だ。うちも理系を中心
に狙っていく」(黒木学長)のである。

 疑問を抱えながらも、各大学は新たなブランドを目指し、一直線に走り始め
た。