☆特集 教育の大地 名大・総長補佐9人 「トップダウン」へ布石 名工大・企業元役員 競争原理 導入先取り
.he-forum 3145] 読売新聞中部版12/20
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『読売新聞』中部版 2001年12月20日付
特集 教育の大地
求む 大胆発想
名大・総長補佐9人 「トップダウン」へ布石
名工大・企業元役員 競争原理 導入先取り
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「総長補佐」の肩書を持つ八人の教授が先月七日、名古屋大事務棟五階の会
議室に集められた。四十歳代から五十歳代前半の将来の幹部候補ばかりである。
八人は総長直属スタッフとして十一月一日付で辞令を受け、教養教育のカリ
キュラムなどを考える教育改革担当や、キャンパス・施設担当など、それぞれ
担当が決められていた。世界で二十位に入るような大学を目指し、直面する課
題について、来年三月までに答えを出すのが仕事だ。
補佐たちとテーブルを囲んだ松尾稔総長(65)は、「責任は全部、わしが
取る。しっかり頑張ってほしい」とはっぱをかけた。総長補佐はその後、一人
加わって九人になった。松尾総長は「大学も、トップダウンに変わらなければ
ならない。その第一歩だ」と説明する。
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国立大は、早ければ二〇〇四年にも「国立大学法人」(仮称)に移行する。
これまで、与えられた予算で国が認める教育や研究をしてきたが、大学法人に
なれば、各大学が予算の範囲内で使い道を自由に決めることができる。教職員
の任用、昇給も、国から学長や総長に権限が移り、能力や業績に応じた給与が
可能だ。特許の実用化や付属学校の経営で、独自の収入が確保できる。学長に
は、経営者の能力と機敏な運営が求められる。
大学は教授会が動かしてきた。時間をかけ物事を決めてきたが、大学法人化
の時代になれば、民間企業と同様、速戦即決の運営が欠かせない。学長がトッ
プダウンで決断を下す場面は格段に増えるだろう。その時、名大の九人の総長
補佐が力を発揮することになる。
* * *
大学が法人化されると、学外の専門家を役員に登用する道も開かれる。その
動きを先取りしたのが名古屋工業大だ。柳田博明学長(66)は、民間企業の
役員経験者二人を、十月から学長特別補佐に招いた。非常勤だが、毎週開く大
学幹部らの運営諮問会議に月二回は出席し、自由に発言してもらっている。
就任して一年余り。柳田学長はいま、二人の助言を受けながら、組織を抜本
的に変えようとしている。各学科に所属する教員を、学科の枠を外して横断的
に再編成するつもりだ。教授のポストが空けば、直属の助教授が昇進するエス
カレーター方式ではなく、能力本位で競い合う余地が生まれることになる。
柳田学長は、各学科や専攻に自ら出向き、教員に直接、改革の必要性を訴え
てきたが、ある教員の質問にショックを受けた。
「今までは、教授の顔だけ見ていれば生きてこられた。学長の改革が実行さ
れたら、だれの顔を見ればいいのですか」
閉ざされた研究室にいて、世の中を見ようとしない「大学人」の姿だった。
学長特別補佐で、元トヨタ車体専務の神谷忠雄さん(64)は「自分たちの学
問が、世の中にどう役に立つのか、自分の頭で考えてこなかったからだ」と、
教員の意識を変える必要を説く。
* * *
変化の兆しは、豊橋技術科学大でも表れている。今月十二日に行われた学長
選で、名城大理工学部教授の西永頌(たたう)さん(62)が、副学長ら四人
の学内候補を破って次期学長に選ばれた。
西永さんは学長選にあたって出したリポートに、「蓄積してきた技術や特許
を武器に、企業との共同研究など積極的で組織的な展開を行う必要がある」と
大学の生き残り策を明示して、票を集めた。建築工学系の教授は「私学での経
験が、法人化に向けて生かされるのではないか」と期待する。
国立大には、法人化への移行と同時に、再編・統合という大きな波が押し寄
せている。公立、私立との競り合いも一層強まる。
名工大のもう一人の学長特別補佐、元三菱マテリアル副社長の尾野幹也さん
(68)は、こう予言する。
「何もできない学長は、即刻クビという時代が来るのではないか」