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教育学部再編 どうなる四国の4大学 存続VS統合 足並みそろわず
.[he-forum 3132] 四国新聞12/24 .-

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『四国新聞』2001年12月24日付

教育学部再編 どうなる四国の4大学

存続VS統合 足並みそろわず

 存続か、統廃合か―。国が打ち出した教員養成系大学・学部の再編構想が四
国の関係四大学に波風を立てている。香川大など三大学が「地域と密接な関係
がある」として教育学部の存続を訴える一方、鳴門教育大は「一校にまとめ、
機能を充実」と独自の統合構想で対抗。協議は暗礁に乗り上げたまま年を越す
ことになった。数の上では存続派優勢だが、「統合が前提」と文部科学省。多
数決で決着とはいきそうにない。

A案とB案

香川大「地域密着が不可欠」

鳴教大「一体化で機能充実」


 教員養成系大学・学部の在り方を検討してきた文部科学省の懇談会(以下
「在り方懇」)は十一月、一年半にわたる協議の結果を最終報告にまとめた
(図表参照)。

 注目の再編・統合の形態についてはA、B、Cの三案を列記したうえで、
「複数の統合が基本」とするA案を提言。戦後続いてきた「一県一教育学部」
原則を放棄し、全国四十八の大学・学部を統廃合で半数以下にする方針を明確
に打ち出した。

●「小学校」残す

 最終報告から一週間後、四国の国立大学学長懇談会は教育学部の存続を前提
に再編を検討していくことを申し合わせた。

 確認事項には<各大学に小学校教員養成機能を残すことを原則><教科の特
化を視野に入れ>とあり、在り方懇のB案に極めて近い内容。事実上の統合拒
否宣言だった。

 「各県それぞれ歴史や風土に根差した教育観があり、地元で教員を育成する
ことに重要な意義がある。教育学部の廃止は影響が大きい」。近藤浩二香川大
学長は「特に地域密着の度合いが高い小学校教員の養成機能は守りたい。それ
が懇談会の大勢」と基本合意の背景を説明する。

 愛媛大、高知大もそれぞれ「具体案を検討中」としながら、学部存続の姿勢
では香川大と同一歩調。ところが、鳴門教育大だけがこれに応じず、協議は立
ち往生を余儀なくされている。

●四国は一つ?

 「四国教育大学(仮称)を設立したい」。四国で唯一の教育系単科大学でも
ある鳴門教育大は今年八月、関係四大学・学部の統合構想を文科省に提出した。
「国立大学の再編・統合を大胆に進める」とした「遠山プラン」が六月に示さ
れ、「統合は不可避」とみて先手を打った形だ。

 「一つになることで大学運営の効率化や教育研究の充実が図れる。他の大学
は従来の姿に固執しているだけ」と溝上泰学長。「文科省から四国は一つでい
い、他大学を説得してほしいと言われている」とも付け加えた。

 在り方懇の統合方針は「近隣の複数の都道府県を単位」としただけで、組み
合わせや数値目標は示していない。が、大学関係者の間には「四国は一つにさ
れる」との警戒感が広がっている。

 教員養成課程の学生定員は全国で約一万人。統合で大学・学部が半数の二十
四に減った場合、一学部あたり四百人程度になる。四国の四大学の教員養成系
定員は計四百五十人。単純換算で「四国は一つ。良くて二つ」との読みが成り
立つ。

 当の文科省は「具体的な枠組みに言及したことはない」(教育大学室)と
“四国一校説”を全面否定。憶測が一人歩きしているのが実情だ。

●バックアップ

 教育学部の「空白県」になるかもしれない―。在り方懇の最終報告は学外の
教育関係者や父母にも波紋を広げた。

 十一月県議会。「地域に貢献できる大学が(教育学部生き残りの)重要なポ
イント」。こんな指摘に、折原守県教育長は「早急に教育学部と協議会を設け、
連携・協力について意見交換したい」と応じ、バックアップの姿勢を強調した。

 県教委は本年度、児童・生徒の個性や能力に応じたきめ細かな指導を行うた
め、教師を増員配置する「香川型教育」に着手したばかり。教育学部から指導
体制の助言や評価を仰いでおり「香川の教育事情をよく知る人材と研究拠点を
失えば、その打撃は計り知れない」(折原教育長)。

 十二月高松市議会でも教育学部の再編・統合問題が初めて取り上げられた。
増田昌三市長は「香川大教育学部が県民、市民の要望と期待にこたえてきた貢
献度は極めて大きい」と評価。「なくなることがあってはならない」と力を込
めた。

 「子供を受験させたいが、付属(小・中学校)はなくなるのか」。教育学部
には問い合わせの電話が相次いだ。学部が消えれば付属校も廃止か地方移管の
検討対象になるだけに「保護者の関心は予想以上に高い」と学部関係者は言う。

●残り1カ月

 今月十三日、学長懇談会が下部組織として設けた教育系専門協議会が高松市
内であり、関係四大学の学部長らが集まった。ここでも鳴門教育大は統合推進
の構えを崩さず、協議は物別れに。一月下旬の文科省のヒアリングをにらみ、
関係者は年明けに再度、協議のテーブルにつく。

 「四大学が合意できないままヒアリングに臨めば、四国は何をやっていると
言われ、文科省から一方的に統合案を示されかねない」。近藤学長は「期限内
に四国としての主体的な再編案をまとめたい」と話すが、打開策はまだ見えて
いない。


再編の背景

低迷する教員採用


 少子化に伴う新規採用者の減少で、教師を目指す学生には冬の時代が続く。
七〇年代には80%近かった教員養成系大学・学部の卒業生の教員就職率が、
昨年度は34%にまで低下。教員養成課程の定員もピーク時の約二万人から、
一万人弱へと半減している。

 文科省は八六年以降、教員免許取得を義務付けない「新課程」を作って定員
を振り替え、「一県一学部体制」を維持してきた。この影響で、新課程の定員
が今では全体の四割を占め、逆に教員養成課程は定員二百人以下の大学が四十
八校中、三十二校に上っている。

 在り方懇は、こうした現状を「小規模化で学生の活力を引き出すのが困難。
学部の性格も揺らいでいる」と指摘。統合を求める論拠とした。

●教官は3倍

 香川大も全国と同じ流れの中にある。昨年度、教員養成課程を卒業した二百
六人のうち教員になったのは六十二人。教員就職率は過去三年間、30%前後
で推移している。

 県内公立学校の教諭採用数に占める同学部卒業生のシェアもここ数年、20
%前後と低迷。小、中学校で低下傾向が著しく、新卒者に限ると昨年度は採用
ゼロだった。

 九八年度から入学定員二百人のうち七十人を新課程の「人間発達環境」に振
り向けたため、教員養成課程の定員は現在百三十人。中学は十教科に分かれ、
学生が数人の講座も珍しくない。

 一方、教官は百十四人の大所帯。学生定員が同数の経済学部の教官が三十七
人だから、約三倍。「効率が悪い」とみられるゆえんだ。

●学内事情

 〇四年度の独立行政法人化に向け、香川大では各種研究支援センターや大学
院の新設など差別化を図る施策がめじろ押し。しかし、教官の定員増は望めず、
法科大学院(ロースクール)の設置構想を持つ法学部のある教授は「教育学部
の再編統合で浮く教官定員をロースクールに充ててくれればありがたい」と本
音を漏らす。

 「大学の再編・統合が本格化すれば、四国の大学間で学部のすみ分けも必要
になってくる。香川大にとって何が売りになるのか。全体像を描く中で、教育
学部の存廃も検討していくべきではないか」。学内からはこんな声も上がって
いる。

インタビュー

香川大教育学部長・妻鳥 敏彦氏

効率論なじまない

 ―国は統合を求めている。

 妻鳥学部長 はい、分かりましたと言うわけにはいかない。そもそも、文科
省の在り方懇は「初めに統合ありき」とはしないとしてスタートしたはず。と
ころが途中で、教員養成系を再編・統合の筆頭に掲げた「遠山プラン」が出て、
着地点が決まってしまった。最終報告は規模の適正化を挙げているが、現状の
どこに支障があり、どの程度の規模なら適切かの分析がない。単なる数合わせ
の統合は認めがたい。

 ―効率論を教員養成の場に持ち込むなと?

 妻鳥 そう。教育は今後ますます力を入れていくべき分野。二十一世紀の日
本は教育立国の基盤づくりが最重要テーマになる。未来を担う子供たちへの教
育投資は優先度が高いはずだ。幸い、香川には教育熱心な風土がある。そうし
た風土の中で教員を育て、地域の教育を支える人材として送り出すシステムを
大切にしたい。

 ―地域密着を言い出すと、どこも事情は同じ。今のまま全部残せという話に
なる。

 妻鳥 いや、児童・生徒の減少を考えれば、一定程度の縮小はやむをえない。
だから、せめて小学校教員の養成機能は残したいと。中学の十科目は各大学で
役割分担して専門化していけば、充実した内容になる。

 ―大学統合さえ進んでいる状況下で、学部存続案は認識が甘いとの批判があ
る。

 妻鳥 在り方懇は「大学や地域の実情も勘案しながら弾力的に検討」と付記
している。何がなんでも統合とは言っていない。文科省も来年度中に統合計画
をまとめる予定というが、全国各地で異論が噴き出している。もう少し時間が
かかるのではないか。

 ―教員就職率が低迷し、県内で教師になる卒業生は少数。地域密着は説得力
に乏しい。

 妻鳥 確かに、今は少子化の影響で低迷しているが、これは採用側の事情に
左右されるところが大きい。現に「香川型教育」が始まった本年度は卒業生の
教員採用が倍増した。これから退職者も増え、大幅な補充が必要。教員就職率
は50―60%に回復すると思う。今の断面だけとらえて、教育学部を切って
しまうと、将来の人材供給に支障をきたしかねない。

 ―学級崩壊やいじめ問題にきちんと対処できない教師が少なくない。先生の
質が問われている。教員養成システムが時代の変化に対応できていないのでは
ないか。

 妻鳥 反省すべき点はある。いじめや不登校、総合学習への対応、子供の発
達過程に応じた教科教育の専門性など、諸課題に対応できる多様な資質が教員
に求められている。教員養成のカリキュラムを再構築するとともに、県教委と
連携して現職教員の再教育にもっと力を入れていきたい。その意味でも地元に
教育学部が必要だ。大学が遠くなれば、現職教師は研修を受けにくくなる。

 ―在り方懇はサテライト教室を置き、遠隔授業で対応としている。

 妻鳥 すぐに相談できる教官がそろっていて、専門資料もあるのが大学のい
いところ。フェース・ツー・フェースの対面教育があくまで基本。

 ―教育学部は学生数に比べ教員が多く、非効率といわれる。

 妻鳥 教科数が多いし、教育実習などにはきめ細かな指導が必要。単純な数
の比較は意味がない。

 ―教育学部が残っても、新課程は置けない。

 妻鳥 教員養成に特化せよということだが、これにも不満を感じている。再
編後の教育学部には、基本的に「教員志望者」しか入学してこず、同質の人間
ばかりになる。いろんな考えの学生がいる中で人間性を培うことが、幅広い視
野や柔軟な思考につながる。

 泉川誉夫が担当しました。