☆迫られる大学改革 下 焦る地方大 統合検討「手当たり次第」
.[he-forum 3098] 朝日新聞12/19-
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『朝日新聞』2001年12月19日付
迫られる大学改革 下
焦る地方大 統合検討「手当たり次第」
11月末、東日本のある国立大教育学部の教授会では、3時間近い議論が続い
ていた。
「文科省の指導に従って統合せざるをえない場合も出てくる。その場合、よ
い条件で統合できないかもしれない」
「急いで統合を進めた方がよい条件になるという保証はない」
国立の教員養成系大学・学部の在り方を検討してきた文科省の懇談会が、統
合を促す最終報告を出してから約1週間。この報告にどう対応するか。教授会
では本音がぶつかりあった。
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懇談会の論議は、昨年の8月に始まった。国立大学全体の再編統合を促し、
関係者に激震を走らせた。「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)の公表より
10カ月早い。「弱い立場の教育学部が突破口として狙い撃ちにあった」。教員
養成系学部の複数の教授は口をそろえる。
少子化で教員の採用枠は狭まり、教員養成課程の入学定員はピーク時の半分
の1万人。48校中16校は、入学定員が100人以下だ。「非効率だ」。国立大学の
代表のようにレッテルが貼られた。
「教育学部はこれまで国民が満足する教員を養成してきたか。答えはノーだ。
そもそも、国立大は、社会の役に立とう、社会の要請に敏感であろう、という
意識が薄すぎた」。懇談会のメンバーのひとり桐村晋次・古河電工顧問は手厳
しい。
メンバーのひとりで、大学・専門学校の経営専門誌「カレッジ・マネジメン
ト」の中津井泉・編集長も言う。「広域化・集約化しなければ、国の財政がも
たない。統合という刺激を与えて大学を強化し、質を高めていくしかない」。
ほこ先は国立大全体に向く。
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国立大の教職員は、全体で約12万人と公務員の中でも郵政職員に次いで多い。
再編統合は、財政難で公務員の25%削減をうたう政府によって、行政組織のス
リム化の一つの象徴として位置づけられたのが出発点だ。
早ければ04年度にも、国立大を国の直轄運営から切り離して法人格を与え、
独自に運営させる独立法人化が実施される。民間の経営手法の導入が促され、
その先には激しい競争が待っている。組織や財政基盤の弱い大学は、生き残り
をかけて統合相手を探さざるをえない。
静岡大と浜松医大は8月から懇談を続けている。今月13日、5回目の会合は両
校が統合の方向にあることを踏まえたうえでの話し合いだった。早くから統合
を提案していた浜松医大の寺尾俊彦学長は「この先、お互い単独で生きていく
のは難しそうだ。遠山プランに背中も押された」と話す。
大阪教育大は、近隣の大学に統合の話を次々と持ちかけてきた。「教員養成
の単科大のままでは生き残りは難しい」との判断からだ。
「『手当たり次第』みたいに言われて、ひんしゅくを買っているかもしれな
い。でも、いい統合をするために、いろんな選択肢を検討するのはむしろ当然
のことだ」と中谷彪学長は話す。
10月中旬、数回話し合いを持った和歌山大との話が「厳しい」とみると、交
渉を凍結し、別の大学に重心を移した。
近隣の大学と統合に向けて合意した東日本の大学の学長は漏らす。「根幹で
反旗を翻しても、文科省の既定方針通り進むだろう。戦国時代の小国の城主に
ならって『逆らわず、されど従わず』の条件闘争でいく」
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10月中旬、鹿児島大の田中弘允学長らが文科省で記者会見した。
地方の28の国立大学長の連名で、地域社会と地方国立大の関係を深め、問題
の解決には各大学が連携してあたるネットワーク構想を打ち出した。
田中学長によると、独立法人化の流れが強くなった昨年春ごろから数人の学
長で意見を交換。研修会も開いたうえで、今年7月に構想への賛同を35の地方
大学に求めた。
「地方国立大と地域社会との間に知的交流関係を結び、両者の相互活性化を
図る。1県1国立大制度は、この目的のために適切だ」。田中学長は言うが、厳
しい立場の地方大学はどこまで踏んばれるのか。
遠山プランの発表後、文科省のまとめ(10月上旬現在)では、12大学6組が統
合に合意し、16大学1短大の8組が統合に向けて協議中だ。その後も複数の大学
の統合への動きが浮上している。
(この連載は白銀泰、高橋庄太郎、山上浩二郎が担当しました)