☆迫られる大学改革 中 トップ30 有力校ますます強く
[he-forum 3089] 朝日新聞12/18.-
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『朝日新聞』2001年12月18日付
迫られる大学改革 中
トップ30 有力校ますます強く
「どんな論文を書いたか。何回引用されたか、在外研究歴、受賞歴まで50項
目ほどある。古い資料をひっぱりだし、あちこちに電話してやっと完成させ
た」。広島大の理系教授が語る。
教育系の教授は、すべてのデータをパソコン入力するのにほぼ1週間費やし
たという。
広島大ではいま、約1700人の教官総がかりの、個人別実績リストづくりが進
む。すべては「トップ30」のためだ。
国立大の大胆な改革を目指す「遠山プラン」では、世界最高水準の大学づく
りが打ち出された。その具体策が「トップ30」だ。国公私立を問わず生命科学
など10の分野ごとに最多30の大学院(専攻)を選び、それぞれに年1億〜5億円を
5年間配分する。
全10分野で「30」入りをめざす広島大は来春からの文部科学省への申請に先
立ち、十分な学内審査をするためにリスト作成に乗りだした。
予算規模、教官数などで、広島大は東大、京大など旧帝大グループのすぐ後
ろに続いている。
「東大、京大あたりはおそらく各分野で複数選ばれる。われわれは相当努力
をしなければ外れる。みんな、危機感をもっている」と文系の助教授はもらす。
山西正道副学長は率直だ。「30に入れば、ピカッと光る看板になり、優秀な
学生が自然に集まってくる。世界トップレベルの総合研究大学に飛躍する土台
を築くうえで、この看板は配分金以上に大きな意味をもつ」
■
東京工業大の学長室の近くに先月、新しい部屋ができた。
入り口に「研究戦略室」とある。「世界最高レベルの理工系総合大」をめざ
す司令塔の役割をになう。初仕事がトップ30への対応だ。
「43ある大学院の専攻間で調整してもらい、最終的には戦略室の判断で東工
大にふさわしい候補をしぼり学長に具申する」。副学長でもある下河邊明・同
室長は話す。
北海道の北見工業大では、ユニークな寒冷地工学で実績を積んできた。「地
域に役立つ研究や新しい教育法の工夫では先端をいっている」。厚谷郁夫学長
は胸を張る。
しかし、国立大99校の中で予算規模は下位グループ。国立大予算の7割を旧
帝大などの有力校が使う現状を挙げ、心配を口にする。
「論文数などの比較ではトップ30は大規模な伝統校で埋まり、序列の再確認
に過ぎなくなる」
■
11月末、文科省のキャリア官僚が、遠山敦子文科相の手紙を携えて、私学の
トップを訪ねた。千葉商科大の加藤寛学長。「ご指導を承りたい」。手紙は丁
重な内容だったが、加藤氏はすぐ意味を悟った。
小泉純一郎首相の有力ブレーンでもある加藤氏は、「トップ30」に厳しい批
判を続けている。
「国立、私立間の格差をそのままに、一緒に競わせるのは筋違い。国費を使っ
た大学の格付けは、民営化、自立化をめざす小泉改革に反する」
手紙は、こうした発言への「けん制球」だった。
私立の側には「トップ30は国立勢に有利」との見方が多い。国私の格差で典
型的な一つが、文科省の科学研究費補助金(科研費)だ。私立大への配分は国立
の5分の1でしかない。
一方で、関西大はトップ30に備える「戦略会議」を設けた。上智大の高祖敏
明理事長はトップ30を視野に入れた学内改革を呼びかけている。
「研究大学に資金を重点配分する構想は間違いでない」」という法政大の清
成忠男総長は「公正に評価できる審査組織をつくることがポイントになる」と
みる。
■
トップ30からは分野の問題も浮上している。理系、とくに成果の見えやすい
分野に重点が置かれ、人文科学、社会科学は各1分野しかない。
大学の歴史にくわしい喜多村和之・私学高等教育研究所主幹は「哲学、考古
学、芸術など、競争になじまず、すぐには結果の出ない分野の研究者も抱えて
いるのが大学の長所。基礎の学問を軽視する風潮は長い目でみるとマイナスだ」
と話す。
国公私あわせ670ある大学のうち、各分野でトップ30の射程内にあるのは2倍
の60くらい、と文科省は読んでいる。
すでに5年ほど前から、旧帝大を中心に大学院重点化が進む。「特定の少数
校が一層輝き、その他はかすむ・・・」という声も少なくない。
影響は、大学進学動向にも及ぶ。
河合塾顧問の丹羽健夫氏は、ブランドより中身を吟味する受験生が増える傾
向と重ね、予測する。「国立理系への傾斜が激しくなるだろう」
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付表 「科学研究費補助金の大きい大学」「『トップ30』10分野 大学院・専
攻などの数」は省略