☆迫られる大学改革 上 圧力 「激変」求める動き次々
.[he-forum 3084] 朝日新聞12/17-
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『朝日新聞』2001年12月17日付
迫られる大学改革 上
圧力 「激変」求める動き次々
99の国立大学長が居並ぶ前で、遠山敦子・文部科学相は辛口のあいさつをし
た。「タックス・ペイヤー(納税者)の目は厳しい。ぜひ自覚しリーダーシップ
を」。11月14日、東京・一ッ橋の学士会館。国立大学協会のパーティーの冒頭
だった。
翌日、再編統合の方針を説明した同省側に学長らの質問が飛んだ。
「方針の再検討は?」「(地域で協調してきた)地元教育委員会との関係は?」
すかさず同省側は切り返した。
「時間をかければいいというものではない」
「地元密着を強調するなら旧師範学校のように県立でやってもらいましょう
か」
学長の一人には「計画見直しの根本議論を許さない雰囲気」と映った。
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「伏線」「先鞭」「火種」
いま、文科省と経済産業省の幹部がそう呼んでいる会議が3月14日に文科省
の副大臣室であった。同省の大野功統氏、経産省の松田岩夫氏ら副大臣数人が
同席した。
経産省側は「大学改革」と「産学官の連携強化」を切り出した。迫る経産省、
抵抗する文科省。両者で激しい議論が続き、大学改革は切り離され「連携強化」
の提言のみがまとまった。
同じころ、伊藤達也・自民党経済産業部会長も、大学の規制緩和や産学連携
を議論しようと小野晋也・同文部科学部会長に持ちかけた。動きは小泉内閣の
発足で爆発的に加速した。
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5月11日の参院本会議では、小泉首相が大学への競争原理の導入を訴え、国
立大学の民営化や地方委譲に踏み込んだ答弁をした。遠山氏にも、「国立であ
る以上特色がないとだめ。(国立大学は)99もいらんだろう」「あなたの責任で
国立大学の構造改革を」と伝えたという。
5月末。今度は平沼赳夫・経産相が文科省の遠山氏に文書を手渡し、説明し
た。トップ項目には大学の学部学科編成の自由化のほか、国立大学の早期の独
立行政法人化などが明示されていた。
文科省側は敏感に反応した。首相の指示に対してはA4版の「大学の構造改革
の方針」が、平沼氏の文書に対してはA3版の「大学を起点とする日本経済活性
化のためのプラン」が、遠山氏の指示でまとめられ、6月、発表された。
この2案が大きく動き出した国立大改革の土台にある。このうち、再編統合
などに踏み込んだ「方針」が「遠山プラン」と呼ばれるようになり、大学を揺
さぶった。
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11月19日、尾身幸次・科学技術担当相が手がけた産学官連携サミットが東京・
大手町の経団連会館であった。「産業発展のため大学の頭脳を使いたい。日本
は国立大学中心の硬直的制度。使い勝手が悪い」と尾身氏は発言した。
大学活用論の底流にあるデータも説明された。スイスの国際経営開発研究所
(IMD)が01年に発表した49カ国の世界競争力ランキングでは、大学教育が競争
経済のニーズに見合っているかどうかという点で日本は49位だった。
尾身氏は、産業活性化のカギを握る産学官連携の強化のためには大学制度の
見直しが不可欠と閣内で説く。
「改革はまだ階段を一段上がった程度」と現状をみる。「国立大学も非公務
員型にして競争させたい。学生が集まるかどうかで自然淘汰するのがいい。民
間から金を集めないとやっていけない仕組みにするとか。100%国から金が出
るから文科省の役人にばかり顔を向ける」と激しい。
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文科省内でも、大学の組織運営改革や規制緩和、競争原理の導入は、90年代
から審議会で時間をかけて積み上げてきた課題だ。
同省幹部も入った旧7帝大の総長会議で、平等主義をやめ30程度の大学に予
算を重点配分すべきだと真剣に議論されたことがある。国立大学の独法化決定
後、国立大学が99のままでは立ちゆかないという認識もあった。
「自発的に大学の潜在力を引き出す方がいい成果が出る。単純な民営化では
国力が落ちる。その立場で構造改革の流れに乗ることが大切」と遠山氏は語る。
外部の要求と、それを奇貨として一気に旧来の課題を解決しようとする文科省。
国立大学への改革圧力はとどまりそうにない。
◇
小泉改革の一環で変革を迫られる国立大学。その背景と現状を追った。