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独行法反対首都圏ネットワーク

☆大学の研究評価 トップ30の行方 
[he-forum 3078] よみうり教育メール12/17.-
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よみうり教育メール  2001年12月17日付

 
◆大学の研究評価 トップ30の行方
 
 
 世界最高水準の大学づくりを目指し、文科省は来年度から「トップ30」政
策を実施する。第三者評価により国公私の大学院のトップ十―三十件を選び、
予算を重点配分する。大学院の充実度で大きな差がある旧帝大と他大学で、公
平な競争になるのか、また評価は客観的に行なわれるのか、本当にトップ30
づくりにつながるのか――など、様々な疑問を抱えながらも、各大学は対応を
迫られている。

 「トップ30大学といっても、旧帝大などは当然入るから、地方国立大は残
された枠を争うしかない。うちは、ぎりぎりぐらいかもしれない」

 こう話すのは、埼玉大学理学部の町田武生教授。同大は理化学研究所との密
接な連携が特徴で、バイオや建設工学、応用化学などでトップ30入りを狙え
るという。十月に専攻再編の話が持ち上がったのも、こうした危機感からだ。

 当初の文科省案では、トップ30への申請は「専攻単位」とされていた。と
ころが、同大理工学研究科の四専攻は、境界領域的な研究を目指して、異なる
分野を組み合わせる意欲的な取り組みをしてきたため、文科省が示した分類に
該当しない。「このままでは不利だ」と、実績ある分野を中心に新しい専攻を
作ろうと模索してきた。

 ところが十一月、文科省方針がころりと変わった。

 この案では、複数の専攻を組み合わせたり、一つの専攻を複数分野に申請で
きるなど申請方法が柔軟になり、専攻再編の必要性が薄れてしまった。

 同大の論議は棚上げになり、国の方針がはっきりするまで「静観状態」だ。

 トップ30は理系分野が中心だけに、施設面で私立大は不利だ。関西大学は
十月に「トップ30プログラム戦略会議」を設置。永田真三郎学長は「前向き
に受け止めたいが、研究環境を拡充し、これから特化した分野を育てようとい
う時に、研究状況を評価されるのは厳しい」と話す。

 トップクラスの大学でも、安穏としていられない。東京工業大学も十一月、
国立大初の研究戦略室を設け、評価対策を進めている。

 研究実績では東大、京大に次ぐレベルだが、戦略室長の下河辺明・副学長は
「大学のステータスとしてトップ30は軽視できない。四十三専攻すべて申請
する。十数件になると思う」と意欲的だ。

 大手予備校・河合塾のランキングでは二十六位だった東京農工大は、全教員
に個人調査表を書かせている。項目は、過去五年間の論文や科研費、各賞、審
議会への参加記録など。この調書をもとに、大学評議会がトップ30への戦略
を練る。論文が引用された回数も評価対象になるため、引用回数を調べるソフ
トも、数千万円かけて購入する予定という。宮田清蔵学長は「トップ30は受
験界への影響が大きい。30入りすれば高校生にはあこがれ、卒業生には誇り
になる。四分野に一件ずつ位は申請したい」と話す。

 総合トップの地位は固いと思われる東京大学はどうか。同大理学部の中村栄
一教授は「国立大の科研費に東大が占める割合は二割。それに見合うだけは、
トップ30入りしないといけないだろう」とみる。ただ、評価基準の狙いが分
からないという。

 「科学研究費は客観的な評価スケールだが、これはあまり重視されていない。
将来構想も評価対象になるというが、現在の選考方法で、はたして実力を伴う
トップ30が選べるのか?」と首をひねる。

 大学現場を歩くと、「競争的な政策で、長期的研究や教育が圧迫される」
「審査委員も東大や京大出身者ばかりになるのでは?」など疑問の声も根強い。
予算も当初の半分に減っている。それでも無視できないのは、結果が「評判」
に直結するからだ。

 大学が組織的に研究戦略を練るということはこれまで少なかっただけに、トッ
プ30は良い刺激策かもしれない。しかし、目に見える成果にばかり心を奪わ
れて、短期的には評価できない教育機能をおろそかにしてはならないだろう。