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☆教育学部再編 地域支援の視点忘れずに 
.[he-forum 3062] 熊本日日新聞社説12/12-up12/13-
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『熊本日日新聞』社説  2001年12月12日付

 教育学部再編 地域支援の視点忘れずに

 国立の大学教育学部、教育大学の数が、近い将来減少する見通しとなった。
文部科学省の「国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会」が報告
書をまとめ、県境を超えた再編統合を提言したからだ。

 提言が実行されると、どの都道府県にも、教育学部など教員養成学部を置く
という戦後からの方針の大転換となる。

 現在、全国に十一単科大と三十七総合大合わせて四十八の教員養成学部があ
る。入学定員は昭和六十一年度には二万人だったが、教員採用数の減少に伴い、
本年度は一万六千人となった。学部内には教員免許を義務づけない新課程が置
かれるようになった。新課程は、教職以外の就職に対応するために設置され、
現在の入学定員は六千人で学部全体の38%を占めるまでになった。

 少子化の影響を受け新規教員採用数も激減。昭和五十年代、80%近くあっ
た卒業生の教員就職率は、昨年度は33%に落ち込んだ。

 学部内の再編・細分化が進み、学生の活力が十分引き出せなくなっている。
新課程の増加で学部の性格が揺らいでいるとの指摘もある。学部の再編統合に
よって規模を拡大させ、充実した教員養成を目指すことは自然な流れとも思え
る。

 だが、教員養成学部が果たす役割は、単に教員を養成するだけではないはず
だ。小・中学校、教育委員会と連携しながら地域の特性に合った教育を実践す
ることや、学校に講師を派遣し教師へアドバイスをすることも重要だ。

 現職教員の再教育の場としての存在も大きい。学校現場では、学級崩壊、い
じめ、不登校などに対処できないケースが増えてきた。一方で、豊かな個性を
はぐくむ質の高い教育が求められている。大学で学んだだけの知識では、通用
しなくなっていることも確かだ。

 文科省の教員養成審議会が二年前、「可能な限り多くの現職教員に修士レベ
ルの教育機会を」と答申したのも、教員の質を高めたいとの思いが背景にあっ
たからだ。答申は、今後十年間に四十歳未満の15〜25%、毎年五千〜九千
人の教員に修士の機会を与える試算までしたうえで、大学の果たす機能の重要
性を示している。

 報告書は具体的な統廃合には触れていない。ただ、学部が消える“空白県”
に対しては、総合大学の一般学部でも教員免許が取得できるようにし、教委と
の連携のため教職センター(仮称)を置くとした“救済措置”を提言している。
だが「あまり過大にならないように」との条件を付けており、十分な地域支援
機能を想定しているとは考えられない。

 統合した養成大学のサテライト教室も設けるとしているが、現職教員の研修
ニーズを満たすほどの広範なカリュキュラムを用意できるわけではあるまい。
情報通信技術による遠隔教育の活用も、カウンセリングなど現職教員の関心の
高い分野は、対面教育が不可欠であることを考えると、限界がある。

 懇談会は平成十二年に設置され、これまで十八回の会議を開き検討を重ねて
きた。報告書は「国立大の独立法人化、構造改革の一環として進められている
大学の統廃合とは切り離して検討した」と強調している。

 だが報告書は、教育を取り巻く今日的状況を踏まえたというより「はじめに
再編統合ありき」の感が否めない。何よりも地域からの視点が欠けているから
だ。各大学で来年早々にも具体的な構想に向けた検討が始まるが、大学が果た
す地域支援機能という視点を忘れてはならない。