☆宇都宮大農学部がJABEE認定目指す 地方大学の生き残りへ
.[he-forum 3058] 朝日新聞12/12-up12/13-
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『朝日新聞』2001年12月12日付
宇都宮大農学部がJABEE認定目指す
地方大学の生き残りへ
大学での科学技術の教育水準を外部の機関から客観的に評価してもらい、大
学改革の契機にしよう――。そんな取り組みに宇都宮大が乗り出した。世界基
準とされる太鼓判をこの機関から取るための審査を来年度、申請する。少子化
や大学再編もささやかれる厳しい時代。地方大学の生き残りもかけている。
(木村 英昭)
申請するのは、宇都宮大農学部の農業環境工学科。目指すは「JABEE認
定」。
JABEE認定は、83の学会と民間企業56社でつくる日本技術者教育認
定機構(JABEE=本部・東京都港区、99年11月設立)が出す認定で、
4年制を中心にした大学の学部や学科にJABEEの指定の科目をつくること
ができる。
JABEE指定の科目を取れば、技術者としての実務の最低限の条件・資質
を備えた学生、とみなされる。「研究」重視の大学教育に、技術者という「実
務」の息吹を吹き込むのも狙いだ。
●危機感
ところが科目を取るだけではダメ。「可」では話にならない。最低でも
「良」。当然、成績をつける教員にも何を基準に成績をつけたかが厳しく問わ
れる。
JABEEが厳しいのは、米国や英国、カナダなど8カ国の技術者の認定団
体でつくる「ワシントンアコード」に暫定加盟し、(1)国際的に通用する技
術者の養成(2)認定資格の国際的な相互承認――などを目標に掲げているか
らだ。
指定の科目を修了した学生は「修習技術者」として、海外でも通用する。
「博士号並みの難しさ」(石田朋靖・宇都宮大農学部農業環境工学科長)とい
う国家資格「技術士」の一次試験が免除される形だ。
定員割れの大学も出る中、地方大学の生き残り策の模索とともに、科目選択
を自由化したことが「卒業単位稼ぎ」になってしまったことへの危機感が背景
にある。
JABEEの認定は学生にとっても魅力は十分で、学部のステータスも上が
る――。関係者のそんな期待は大きい。
こうした認定の審査は来年度からだが、その準備のための試行審査がこのほ
どあった。化学、機械など理科系の14分野が対象になるが、農業環境工学科
ではこのうち「農業工学」のプログラムの認定を目指す。学者3人、民間企業
から2人の計5人が審査した。
●自己改善
審査項目は多岐にわたる。学生への教育の量や入試の選抜方法にはじまり、
研究設備の状況、そのための財源をどう確保しているかなど、11項目を1〜
5の5段階で評価される。5が最高。
事前に関係資料はすべて提出。教員、学生、事務員との面談もする。「一緒
にご飯を」と誘うと、「供与になる」と断られ、その場でつくった報告書を大
学側に提出するとすぐさま岐路に。客観性にとことん腐心するのが、「国際基
準」を自負するゆえんだ。
本番と同様、審査結果は非公開だが、対応にあたった石田学科長と後藤章教
授は、「たいへん厳しい指摘でした」。
例えば――。学生への教育を改善する財源を外部からも確保しているか。
「そういう制度は、日本では研究の分野にはあるが、学生の教育にはない。ど
うしようもないが、じゃあ日本の大学システム自体を変えなさい、となる」と
後藤教授。
だが、JABEEの指摘は大学の「自己改善」のきっかけになると前向きに
受け止める。
「教員の評価でも学生の教育への貢献度は考慮されなかった」と後藤教授。
石田学科長も「大学教育とは何かを問題提起するものだ」と語る。
農業環境工学科の2年生以下が対象になるが、8割近くの学生が手を挙げて
いるという。認定取得に向け、「技術者倫理」という科目を来年度新設するな
ど取得に向けた準備も進んでいる。