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独行法反対首都圏ネットワーク

☆公立大事情 問われる「競争力」  
.[he-forum 3025] 毎日新聞12/03-up12/6-
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『毎日新聞』2001年12月3日付

公立大事情 問われる「競争力」 
 
 地方で公立大学の新設ラッシュが続いている。若者の流出を食い止め、地域
振興に結び付けるのが狙いで、この10年間に開学した公立大は計35大学に
のぼる。今までにないユニークな教育方針を掲げ、高い人気を誇る大学もある
が、少子化で大学経営には逆風が吹く。学生は集まるのか。卒業生は地元に定
着するのか。既設の公立大の中には競争力強化を目指し、合併や独立法人化を
模索する動きもある。転換期の公立大事情を追った。【伊地知克介】

★地元出身入学者6割/子供の体験学習計画−−密着型で流出歯止め

 ●新設ラッシュ

 白衣姿の講師が液体窒素の入った容器から、かちかちに凍ったバナナを取り
出す。周りを取り囲んだ大勢の子供たちが「ぼくにさせて」「ぼくに」と騒ぐ。
バナナを受け取った女の子は、緊張した表情で目の前の板にくぎを打ち始めた。

 10月21日、北海道函館市の公立はこだて未来大で開かれた学園祭。地元
の小学生を対象にした科学教室である。学園祭では、このほかサッカーをする
ロボットを操作させるなど、子供を相手にしたイベントが数多く企画された。

 「子供の理科離れを防ぐのと、早いうちから未来大の存在を意識してもらう
ため」と伊東敬祐学長は話す。子供のころから未来大に親しみ、将来は進学し
てもらうのが狙いだ。このほか、年末にも小中学生にロボット作りなどを経験
してもらう地域密着型の催しを計画している。

 はこだて未来大は函館市と周辺4町でつくる広域連合が昨年、設立した。函
館市の人口は約20万人。不景気は深刻で、駅前にも閉鎖した商店が目立つ。
理系の大学が近辺になく、若者の流出が続く地元にとって大学設立は悲願だっ
た。

 情報技術、情報科学に加えてロボットづくりやコンピューターグラフィック
スなども扱う「システム情報科学部」の単科大学で、構内情報通信網(LAN)
を張りめぐらし、学生は学内の730の席から24時間、パソコンでインター
ネットに接続できる。

 同市職員出身の佐藤弘明・事務局長は「学生の間に起業への関心も強く、ベ
ンチャービジネスを研究するサークルもある。地域密着と研究の高度化を両立
させることで、地域の活性化に役立ってくれる人材が出てくると思う」と話す。

 新設初年度だった昨年度は、入試が他の国公立大と重ならない別日程で行わ
れたため、併願者の人気を集め、一般入試で12倍という高倍率を記録した。
今年度の入試は他の国公立大と同じ日程だったが、それでも4倍の志願者が集
まった。

 入学者の6割が北海道の高校出身者で、2割は広域連合をつくっている1市
4町の出身者だった。同大では「順調な滑り出し」と評価する。

 だが、函館市周辺に卒業後の学生を受け入れられる職場は少ない。今後、卒
業生をどれだけ地元に引き留められるかは未知数だ。

★地元就職少なく、コストの議論も

 東北地方では、93年に福島県立会津大と青森公立大が新設されたのをはじ
め、97年には宮城大、98年に岩手県立大、99年には秋田県立大――と公
立大が続々と開学している。秋田県はさらに04年春、県立の国際系大学の設
置も検討しており、自治体による大学新設ラッシュが続いている。

 しかし、卒業生の地元への就職率は高くない。宮城大の今年の県内就職率は
看護学部で55%、事業構想学部で37%。会津大のコンピュータ理工学部で
は22%程度である。各大学の中には「少子化の時代にあえて県予算で作った
のに、これでいいのか」という議論もある。

 公立大は、コストに見合う成果を上げているのか。

 岩手県では同県立大について「学生1人当たりに1年間にかかるコスト」を
試算した。備品にかかる費用まで厳密に計算し、「375万円」という数字を
はじき出した。

 同県の小川明彦・行政システム改革監は「成果が上がっていれば、コストが
多少高くても問題はない。しかし、税金を使う以上、大学といえどもコストを
意識することは必要だ。他県でも公立大のコストを計算しようという動きはあ
る」と話している。


★合併し研究強化/独立法人化・・・独自カラーを前面に

 ●既設大、危機感

 新設が相次ぐ一方、既設の公立大の間には、危機感も高まっている。少子化
で入学希望者が減る一方、自治体の財政は悪化しており、公立大学も存在意義
を問われるからだ。統合、再編の方針が決まっている国立大と同様、統合によっ
て教育、研究の競争力を強化したり、独立法人化して予算、人事面の裁量を拡
大し、独自カラーを打ち出そうとするところもある。

 兵庫県は県立の神戸商科大、姫路工業大、看護大を合併して04年に新たに
一つの大学を作る方針を打ち出した。学生の定員は減らさず三つのキャンパス
もそのまま残し、衛星通信などを利用した遠隔授業を多用する。

 別のキャンパスの授業をほかの二つのキャンパスで受講できるので、学生は
多くの科目を受講できるようになる一方、教員の負担は減る。これで浮いた予
算や人員を先端科学に重点的に投入することもできるという。

 同県の県立大学改革室は「姫路キャンパスでは注目されている放射光の研究
などで、国の重点投資が受けられる『トップ30』の指定を狙うなど、より高
いレベルの競争に挑みたい」と話す。

 東京都も都立大、都立科学技術大など4大学を合併して05年に新大学をつ
くる構想を明らかにしている。夜間部を廃止する一方、新産業創出やベンチャー
育成を手がける「産学公連携センター」(仮称)や、大学院の先端科学技術研
究科(同)を新設し、社会に貢献する大学づくりを目指すという。

 東京都はすでに新大学を独立法人化する方針を明確にしている。公立大学協
会(会長、児玉隆夫・大阪市立大学長)も、11月16日の臨時総会で「公立
大が法人格を持てるようにする法整備に向けて各界に働きかける」とする決議
を行った。

 「法人化した方が人事や予算面で自由度が上がり、競争力を持てると考える
大学や自治体は出てくる。国立大法人化が法制化される際に、公立大について
も明文化されるべきだ」と加藤祐三・同協会副会長(横浜市立大学長)は話す。

 同協会はこれまで各大学が持ち回りで事務局を担当していたが、「これでは
問題に即応できない」として今年、東京都港区に独立した事務局を設置した。
各大学が行っている地域貢献活動について調査するなどして、公立大独自のあ
り方を模索するという。