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☆日本総研研究員の見解 
.[he-forum 3012] 日本総研研究員の見解 .-

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http://www.jri.co.jp/consul/column/data/index-16_shimogaito.html
(pdfファイルあり)

大学における組織人事改革のすすめ

2001年12月3日

作者   下垣内 智(しもがいと さとし)
人事戦略クラスター 研究員
専門:人事管理、組織人材マネジメント
 
本文

 今年の6月、全国の国公私立大学に激震が走った。小泉内閣の構造改革の一
環として、文部科学省から打ち出された「遠山プラン(大学構造改革プラン)」
の内容が、各大学機関に「競争時代の幕開け」を宣言するものであった事がそ
の理由だ。なかでも、(分野別に)優れたトップ30の国公私立大学に予算を
重点配分する「トップ30政策」は、短期的に各大学の補助金に影響を及ぼす
だけでなく、中長期的に大学間の優勝劣敗に繋がる事を予測させる政策である
ため、一気に議論が巻き起こって来た。

 そして現在、「トップ30」というセンセーショナルな言葉だけが一人歩き
をしている状況であるが、本質は別の所にあると言うことを見落としてはいけ
ない。1つは、「自らの大学の強みや弱みを認識し、戦略的にプライオリティー
の高い分野にヒト・モノ・カネを投入する」、いわゆる経営マインドが必要不
可欠になって来ていると言う現状である。そしてもう1つは、「構成員が誰に
対して何をするのが自分の役割なのかを明確に認識出来ている状態」、すなわ
ち有機的な組織体制作り急務になって来ているという状況である。

 これらの発言に対して大学関係者から、「大学は民間企業ではない」と言う
意見を頂戴する事もあるが、今後海外の大学と同じ土俵で競争することを想定
した場合、それは意味のない議論になり得る可能性もある。なぜなら、世界最
大の大学産業を有するアメリカにおいて、「経営できる組織体系の確立」など
既に常識的な事として実践されているからである。そればかりか、大学の競争
力に大きな影響力を及ぼす教員に対しても、明確な人事システムのフレームワー
クが明示されており、組織に対して貢献しているかどうかを判定出来る基準も
共有されているのが現状なのである。

 このような状況を受け、筆者自身今年の8月に、同僚の研究員と共にカテゴ
リー別に異なるアメリカの5つの大学を訪問し、特に教員にフォーカスを当て
て、組織人事面からのヒアリングを重ねて来た。そして、そこで見えてきたも
のは、「多様性を認め、かつ求める」というアメリカの大学組織のもう一つの
強みであった。具体的に言うと、日本の大学教員のように業務をする上ですべ
ての項目(研究・教育・行政サービス領域)の実施を要求されないし、かつそ
れで評価されることはない。つまり、「組織がその教員に期待し必要としてい
る項目と、教員自身が希望する役割を十分加味した上で契約関係を結ぶ」と言
うカラクリが、システムとして内在されている訳なのである。

 更に、帰国後実施したセミナー(大学経営改革のためのアメリカ教員評価と
その展開セミナー)において関心を集めた「教員人事システムのフレーム案」
について、ここで簡単に説明したいと思う。最大のポイントは、「組織に必要
な人材を機能区分し、異なる機能を持つ人材の特徴を活かした採用・配置・人
事開発・処遇」を実施するという事である。いわゆる複線型人事システムの形
を取るわけであり、ここでは「行政系・研究系・教育系・実学系」の合計4タ
イプに分ける事が出来る。具体的に見てみると、研究系の大学において研究実
績に重点が置かれる事は今後とも変わらないが、一方で研究実績をベースとし
て教育的展開をする人材,実務の面から検証・具現化する人材も重要視して行
くのが、大きな特徴である。つまり、自分の強みをどの分野で発揮するのかを
自己選択により決めてもらう狙いが含まれているのである。

 さて、それでは今後日本の大学において、どのような改革が展開されていく
のであろうか?実際、組織人事面においては、まだ改革の入口段階に立ったに
過ぎない訳であるが、ある程度「目に見える成功例」がでて来た場合、想像よ
り速いスピードで具体的改革が進んでいく事も十分に予想される。

 卑近な例として、2つの国立大学における取組みを取り上げてみる。組織全
体の取組みではないものの、来年度から大阪大学において、「国や企業から得
た研究費を自らの給与に充てるだけでなく、その資金で講師を雇い授業を代行
してもらう事で、自ら研究活動に専念する事」が許可される。また、東京大学
において、「大きな成果を挙げた研究者に対して、外部評価に基づき最大で学
長を超える給与も支払う制度の導入」を検討するなど、新しい取組みが実施さ
れる予定である。これらは、文部科学省が国立大学の独立行政法人化後の運営
モデルになり得るとして後押ししているものであり、注目すべき改革だと言え
る。

 いずれにせよ、小手先の改善だけでこの競争環境を乗り切る事は、困難だと
言わざる得ない。そして、大学改革を本気で進めて行けば、最後に必ず構成員
の意識改革の必要性に直面する。その組織人事改革の時に備え、前もってしっ
かりと必要な準備をしておく事をおすすめする。