☆変革国立大
中)法人化へ「民間的経営」模索 死活を決める人材確保
.[he-forum 3005] 読売新聞12/03up12/3 .-
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『読売新聞』(Yomiuri On-Line) 2001年12月3日付
変革国立大
中)法人化へ「民間的経営」模索 死活を決める人材確保
競争原理に基づく民間的経営手法――。国立大学が、そんな未知の海に乗り
出そうとしている。各大学は早ければ2004年にも、国立大学法人(仮称)
に移行する。国の付属機関として、ヒトもカネも国任せだった大学の裁量は大
幅に拡大する。国際化、情報化の時代を乗り切るため、新しい大学像の模索が
始まっている。その一方で、法人化が本当に大学の自律性発揮に結びつくのか
懸念もあり、国立大学は期待と不安で揺れている。
厳しい社会の目
「ホンダが出している研究資金には、日米の大学で1けたの差がある」。先
月19日、東京・大手町の経団連会館で開かれた「産学官連携サミット」で、
ホンダの吉野浩行社長がパネリストとして、日本の大学に苦言を呈した。
大学に対する同社の研究委託費や寄付の1件当たりの平均は米国で2000―
3000万円。日本の大学へは200―300万円。研究費の海外流出は顕著
だ。吉野社長は「欧米では、まとまった人数でチームを作ってもらって実践的
な研究をお願いするが、日本は教授を中心に狭い範囲で研究してもらう場合が
多い」と、彼我の違いを述べた。
サミットでは、産業界との連携を是としない、日本の大学の雰囲気に、「学
尊民卑的な風潮がある」と注文を付ける提言が発表された。「大学への期待の
裏返しと考えたいが、社会の目は厳しいねえ」と、ある国立大の学長はうなる。
法人化が進められようとしている背景には、閉じられた世界に安住する大学
人への社会の不信がある。
説明責任の欠如
問われていることの1つに、大学の意思決定のプロセスがある。サミット主
催者団体に名を連ねた日本学術会議の吉川弘之会長(元東京大学長)は、「国
立大学での決定権は、各学部ごとの教授会にあった。だが、教授会は外からは
何も見えず、アカウンタビリティー(説明責任)もない」と手厳しい。
大学には新産業創出の役割も期待されている。そうした大学に国が法人化で
求めるのは、教授会などからのボトムアップではなく、学長を頂点とするトッ
プダウンの意思決定だ。
「意思決定のプロセスが学長を中心にうまく機能すれば、教育、研究の柔軟
性が上がる」と、吉川会長は期待する。そこには、研究資金だけでなく、一流
の研究者や学生の海外流出への懸念も示されている。
独自色求め始動
動き始めている大学もある。一橋大では、大学間の共同研究や交流を進める
「4大学連合」を東京医科歯科大などと結んだり、ビジネススクールを立ち上
げたり、いち早く個性化を打ち出している。
「法人化のメリットを認めてやるか、国から言われて嫌々やるか、法人化の
時点で、大きな差が付く」と、石弘光・一橋大学長(国立大学協会副会長)は
語る。人事や予算を大学が決めるようになれば、さらに独自の大学運営ができ
るとする。
学長像も変わらざるをえない。4大学連合の相手の1つ、東京工業大で今年
9月まで学長を務めた内藤喜之さんは、来月から大分大の学長に就任すること
が決まった。大分は郷里だが、大分大とは縁がなかった。しかし、同大関係者
から立候補の要請があり、先月6日の学長選で2人の学内候補を破って当選し
た。
理工系のトップ大学から地方大学へ。これまでにも例のない今回の就任に、
「大分医科大との合併問題を抱え、4大学連合をまとめる作業にかかわった経
験を買われたのでは」と内藤さんは話す。産業界との結び付きが強い東工大の
学長経験者に、地元の期待は大きい。
東京芸術大学長に日本画の大家、平山郁夫さんが返り咲くなど大学が強いリー
ダー像を思い描くようになった。法人化に向け、大学側が体制づくりに乗り出
している。
中間報告の内容
文部科学省の調査検討会議が9月に発表した国立大学法人についての中間報
告には次の内容が記されている。
〈組織業務〉学長を中心とする運営体制を確立する。運営には学外者も参加
する。経営と教学を一体化させるか分離するかなどは検討中。特許の取得や管
理、教育研究費の助成なども大学が行える。
〈目標評価〉各大学は中期目標(案)を文部科学大臣に提案し、大臣が策定
する。各大学の作成、大臣の認可とする案も併記されている。目標に基づき、
各大学は中期計画を作成する。期間は6年。その達成度について国立大学評価
委員会(仮称)などが評価する。
〈人事制度〉教職員の身分を公務員とするか否かは検討中。学長の選考に学
外の意見も反映させる。事務職員の人事は各大学の任命事項となり、給与面で
も大学ごとに決めるようになる。
〈財務会計〉項目を厳しく指定されていた予算は、使途を決めない運営交付
金として支給され、外部からの寄付なども直接、大学の自己収入となる。学生
納付金は一定の範囲内で大学が決める。
企業人を招へい 改革の核に 職員のプロ意識養成も課題
体制作り急務
国立大の「経営」はこれまで事実上、文部科学省、財務省が担ってきた。し
かし、法人化されると各大学は経営責任を厳しく問われ、体制づくりが緊急の
課題となる。
元山種証券社長の関昭太郎・早稲田大副総長は、財務担当として同大に招聘
(しょうへい)された94年当時を、「使い放題。成果なしにも平気。教学と
両輪であるはずの、経営の理念は全くなかった」と振り返る。
毎年経費予算の5%削減を打ち出し、清掃委託事業を競争入札にしただけで
1億円も節約できた。経費削減分は情報化の基盤整備などに回せた。「経営と
は、時代の変化を読みとり、限られた原資を戦略的に適正配分すること。親方
日の丸に染まった国立大学にそれが出来ますか」と私大の立場から問いかける。
国立でも名古屋工業大はこのほど、一部上場企業の役員経験者2人を、法人
化に向けて新設した「学長特別補佐」に任命した。非常勤だが、執行部による
週1回の運営会議に出席、指導的立場で助言し、民間の発想を改革に生かす狙
いがある。
人材面での不安は、地方の大学などで深刻だ。天野郁夫・国立学校財務セン
ター教授は、「地方や小規模の大学がどうやって人材を見つけるのか。同時に
再編・統合を突きつけるなら、国は将来の高等教育のグランドデザインを示し、
何が大学の適正規模なのかなど、明確な指針を示すべきだ」と指摘する。
今年4月、国内初という大学職員のための大学院修士課程「大学アドミニス
トレーション専攻」が桜美林大新宿サテライト教室で開講した。大学経営のプ
ロ養成を目指す同専攻では、私大の財務担当理事などが、大学経営のノウハウ、
入試業務、カウンセリングなどを教える。
夜間や土曜日の講義に通う院生の中に、国立大職員もいる。30代の国立大
職員は、「大過なく過ごせればという雰囲気が職場に蔓延(まんえん)してい
るが、今、大学経営の専門知識を学んでおけば、将来、大学で専門的な業務に
つくこともできる」と意欲的だ。
法人化により、教職員の任用、昇級などは学長の権限となる。文科省では
「人事はすべて大学にお返しすることになる」(杉野剛・大学改革推進室長)
としている。
法人化批判 国の管理強化/創意工夫損なう/地方大学は不安
国立大学法人化には様々な批判がある。中間報告にはこんな意見が寄せられ
た。
◎
「国のグランドデザイン(政策目標)↓大学の長期目標↓中期目標↓中期計
画↓評価↓資源配分」という流れであり、国や政府による大学管理が一層強化
される。(東大職員組合) 中期目標は各大学が「作成」し、文部科学大臣が
「認可」するという方式を採用すべきである。(国立大学協会)
トップダウンの大学運営が構成員の創意工夫を損なう。学外者の大学運営参
加は、運営責任を曖昧(あいまい)にする。(国立大学の独立行政法人化問題
を考える北海道大学ネットワーク)
大学経営の自由は、地方では実効を伴わない。地方の衰退を招き、全体とし
て日本の国力の地盤沈下を招く。(鹿児島大学長)
大学の授業の様子は小学生の授業崩壊と同レベルのもの。もっと学生側も教
える側も真剣になってほしい。国立大学民営化を。(名古屋大学3回生)