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独行法反対首都圏ネットワーク

☆東京外国語大学のパブリックコメント
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「新しい「国立大学法人」像について(中間報告)」に関するパブリックコメ
ント募集の要請に応えて

        東京外国語大学外国語学部 独立行政法人化等に関する緊急委員会
                                                                      
                                                      2001年10月29日

 東京外国語大学外国語学部の「独立行政法人化等に関する緊急委員会」は、
当該問題について論点を整理し、部局の有意義な意志決定に備えるために、学
部長のもとに設置されている委員会であります。貴調査検討会議によるパブリッ
クコメントの募集に応えて、委員会としての討議における多数意見を反映し、
以下の諸点にわたって忌憚のない意見を表明することで、よりよき制度設計に
寄与いたしたく存じます。

(1)基本的考え方について

 わたくしたち東京外国語大学の教職員は、有為の国際的人材の養成という任
務を社会から付託されていると理解しています。その任務には、たんに実用的
労働力の訓育という観点における教育ばかりでなく、幅の広い教養と再帰的な
反省能力に裏打ちされた責任ある社会批判力を涵養することも含まれておりま
す。もっぱら実務教育に局限したり、直接的な社会的効用の観点でのみ大学の
効率性を断ずる場合には、目先の効果はともかくとして、中長期的にはこの社
会の「基礎的体力」を減退させる結果を招きます。本学は、一方ですぐれた実
務能力を備えた人材を社会に送り出すとともに、同時に文化的差異と葛藤の諸
相に対する繊細な感受性をそなえた奥行きのある人材を養成することによって、
実際にこの社会の理性的感性的力量をより豊かで幅のあるものとすることに貢
献して参りましたし、今後もそれに邁進する所存です。

 国立大学法人という設置形態に改編されるにあたっては、こうした社会的責
務に対応するような制度設計がなされることを強く求めます。その観点からし
て、一般に法人化にあたっては、学問の自由と大学の自治を重視し、自主的、
自立的な意思決定のシステムを確保することが明確にされる必要があると考え
ております。

(2)学長とその執行機関について

 『中間報告』を拝見する限り、学長とその執行機関が突出した権限を持つこ
とになるという印象は否めません。大学という公的機能を備えた複雑な組織を
運用するためのチェック・アンド・バランスという観点から、これはいかにも
不都合であります。執行機関とは区別した立法的機能を、たとえば現状におけ
る評議会などの組織単位に付与し、また審議機関としての部局教授会の権限を
明確にすることによって、過度の権限の集中に伴う弊害を回避する必要がある
と考えます。

(3)教学と経営の不可分性について

 『中間報告』では、教学と経営の分離が基本的な方向性として想定されてい
るかのようでありますが、両者はつねに不可分に扱われるべきであり、経営に
関する諸問題はあくまで教学上の目的をより十全に達成するという見地から判
断されるべきであります。その意味で、三つの運営組織案のいずれについても、
高等教育機関の特有性に対する配慮という点では、懸念を抱かざるをえません。
強いて三つの組織案に即してかんがえれば、B案ないしC案を基本とするとい
う調査検討会議での議論の流れを理解いたしますが、その場合にも、『最終報
告』までに、本項(3)および前項(2)のような分権と教学/経営の不可分
性という二点に関して、再検討を加えていただくように希望します。

(4)学長の選考方法について

 学長の選考方法については、社会の意見を反映させることを必要とするにし
ても、あくまで基本趣旨にとどめることとし、実際の方法は各大学の多様な自
己決定にゆだねるのがもっとも適切であります。

(5)部局長ならびに教員の人事選考について

 部局長ならびに部局教員の選考などの人事は、あくまでその当事者である部
局教授会における審議を経ることが、必要不可欠な要件であります。その点に
関する記述が、『中間報告』には欠落しているように思われます。『最終報告』
までに、より慎重な検討をお願いいたします。

(6)教職員の身分について

 法人化を行った場合の教職員の身分については、その業務の特有性に鑑み、
公務員型であることがもっとも望ましいと判断しています。とくに教員ついて
は、学問の自由の保守という観点からして、教育公務員特例法ないしはその精
神をあくまでも尊重することが肝要であると判断しております。この点につい
て『中間報告』の趣旨には、あいまいさが否めません。

(7)中期目標、中期計画について

 『中間報告』を拝見するかぎり、法人化に伴って、中期目標・中期計画が大
学における業務の根幹に据えられることになるようです。もとより、これらは、
あくまで個々の大学の特性や歴史にのっとり、また学問の自由という原則に基
づいて合意された長期目標に沿って立案されるべきであります。その場合、中
期目標・中期計画の期間については、学生の教育期間が二巡する八年、ないし
三巡する一二年を一サイクルとすることが至当であると判断します。また、立
案の基準については、業務運営の効率化に縮減されるべきではなく、大学の研
究教育の非定量的性格を考慮するべきであります。さらに、これらは大学自身
が決定し、主務大臣に報告する形式がより適正であり、主務大臣の役割は独立
した評価機関の意思をふまえて、意見を述べるといった程度にとどめるべきで
あります。その点では、『中間報告』二二頁にある「一部の意見」とされてい
る観点をこそ是といたします。

(8)大学の開放性と自立性について

 『中間報告』にもありますように、法人化された大学の活動が、社会に対し
て説明責任を有していることは明らかであります。大学は何らかの形で、公正
な外部評価にさらされることが求められております。しかしながら、こうした
開放性は、同時に大学自治の原則や憲法に定められている学問の自由の擁護と
いう自律性の要件とも両立するものでなくてはなりません。まして、大学に時々
の社会的時務を無媒介に強制したり、それを単純に市場競争にゆだねて淘汰す
るというようなことはあってはなりません。この点からすると、外部による評
価もまた、大学の固有性を考慮し、長期的な視野から点検改善を求めるもので
なくてはならないと考えます。

(9)運営交付金について

 『中間報告』には運営交付金の算定方法の梗概が示されております。中期目
標・中期計画に対する実績評価を運営交付金の配分とどのように関連させるの
かはいまだはっきりしてはおりませんが、もしも両者を直接にリンクさせると
するならば、それは大学間の無意味な交付金獲得競争を煽るばかりであり、全
体としての学問研究や教育体制の劣悪化を招く危険があります。これは、研究
教育に対する社会的投資の方法としては好ましくありません。競争を導入する
という観点とは別に、運営費交付金が大学の学生数、教官数に応じて、できる
かぎり一義的な基準により安定的に配分される仕組みも不可欠です。その点が
『最終報告』に明示されるべきであると考えます。

(10)国立大学評価委員会について

 『中間報告』のなかでは、「国立大学評価委員会(仮称)」について一定の
言及がありますが、その性格付けはいっこうに明確になっていません。この委
員会が評価活動の中で極めて重要な位置を占めることを考えますと、同委員会
の任務、権限等について、さらに詳しい検討が必要であると考えられます。

以上10項目につきまして、簡潔に当委員会のコメントをお送りします。厳し
い意見も含まれてはおりますが、ことがらに当たる当委員会の至情をご賢察の
うえ、今後のご審議にご利用くださいますようお願い申し上げます。