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独行法反対首都圏ネットワーク

☆教育基本法見直し それで現場が変わるのか 
.『熊本日日新聞』社説  2001年11月28日up12/1-1-
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『熊本日日新聞』社説  2001年11月28日付

 教育基本法見直し それで現場が変わるのか

 文部科学省が、中央教育審議会に教育基本法見直しを諮問した。

 昨年十二月に出された「教育改革国民会議」の最終報告を受け、抜本的な法改正を図るのが狙いである。文科省では、一年をめどに答申を得て、早ければ二○○三年の通常国会への改正案提出をめざすという。

 教育基本法は、一九四七(昭和二十二)年に制定された。前文の後段には「日本国憲法の精神に則(のっと)り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する」とあり、憲法とのかかわりが深いことから「教育の憲法」とまでいわれてきた。

 制定から五十四年が経過。(1)国際的共生や環境問題についての言及がない(2)「男女共学は認められなければならない」等の表現が今の実態にそぐわないなどの意見もあるが、基本法の掲げる平和と民主主義の精神が、戦後教育推進の柱となってきたのは間違いなかろう。

 それを見直すということである。だが、これまでの国民会議などの論議からは、法の見直しだけで教育改革や、教育現場の荒廃問題の解決につながるとはとても思えない。

 法律を少しいじっただけで、子どもの環境や意識が変わるわけでもあるまい。まして、基本法を見直さない限り、立案不可能な政策があるというわけでもなかろう。

 諮問によると、「人格の完成」など教育の目的を定めた第一条や、自発的精神を養うなど教育の方針を定めた第二条など普遍的な理念はそのまま維持。現行規定に不足している事項について論議を進めるという。

 国民会議の最終報告を受けた、当時の町村信孝文相が「あらあらの法案に近い形でまとめ、諮問したい。一からやり直すつもりでやりたい」と強い意欲を示したのと比べると、諮問そのものの意義が後退した印象は否めないところだ。

 遠山敦子文科相は、諮問理由の中で、現行の教育基本法について(1)時代や社会の変化への対応(2)創造性・独創性に富んだ人材の育成(3)伝統、文化の尊重など国家、社会の形成者として必要な資質の育成の三つの観点から議論が必要とした。

 (3)は、教育理念についての見直しの視点を示したものだが、基本法の前文には「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底」とある。

 基本法の制定に携わった文部官僚たちが、その後著した「教育基本法の解説」では、「個性というのは、単に文化形成者個人の個性のみでなく、その人の属する民族、国民に固有な個性を含む」と述べている。つまり、提起されているこの項目は、既に織り込み済みの内容なのだ。

 学習指導要領に「文化と伝統を大切にし、国を愛する」(小学校の道徳)と盛り込まれているのもそのためである。「愛国心を養う」などの表現を、基本法に加えるよう主張する意見は、これらの事実を十分理解していないが故の発言であろう。

 文科省は、基本法見直しと同時に中長期的な政策目標と財政措置を示す「教育振興基本計画」の策定についても論議することを求めた。「教育のめざす姿を国民に明示する」ことは必要なことであり、策定を急ぐことに異論はないところだ。

 だが、基本法見直しとセットで検討を求める必然性は見当たらない。十年先の目標を立て、その財源を確保することは政府の責任で実施すべきものであり、理念を示す基本法の手直しとは別の問題ではないか。

 教育現場の問題を直視した上で、教育のあるべき姿や改革の具体的方策を導く論議をまず深めてほしい。