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再編統合・トップ30 国立大学長調査 「遠山プラン」揺れる大学 
. [reform:03847] 「遠山プラン」揺れる大学-up11/8 .-

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朝日新聞から転載します。

             11月7日 大学改革情報ネットワーク


『朝日新聞』2001.11.5(月)

再編統合・トップ30 国立大学長調査 「遠山プラン」揺れる大学

 文部科学省が6月に出した「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)を
きっかけに、再編統合を巡る国立大学の動きが活発だ。朝日新聞社が10月
にまとめた学長調査では、18校が統合に合意。「具体的な相手と交渉中」
の14校を加えると、全国立大の3割を上回った。しかし、大学改革の考え
方では立場によって違いが大きく、突然浮上した「遠山プラン」への反発
も強い。

医大の連合構想、消滅

 再編統合の動きが目立つのは、全国に12ある単科医科大だ。9校が地元
国立大との間で統合に合意したか交渉中だ。
 昨年まで、各地の医科大を一つの大学法人にまとめる連合構想が学長間
で練られていたが、遠山プランの登場で、壮大な構想は自然消滅した。
 県境をこえて大規模な大学同士で連携する機運も生まれている。弘前、
岩手、秋田の「北東北3大学連携推進会議」は当初方針より踏み込み、統
合も視野に入れて話し合っている。
 北関東の群馬、埼玉、宇都宮、茨城の4大学は、緩やかな連携を模索中
だ。北海道、四国では情報交換などの場として、地域の全学長による懇談
会が開かれている。
 今後は、遠山プランで「規模の縮小・再編」が打ち出されている教員養
成大の動向が焦点だ。教授会に六つの案を示したという愛知教育をはじめ、
各大学は複数のカードを用意したうえで提携先を絞る構えだ。
 四国では鳴門教育が、香川、愛媛、高知の教育学部とともに「四国教育
大」を設ける計画を各校に打診した。近畿地区でも、大阪教育、奈良教育、
京都教育、兵庫教育の4校が協議している。
 教員養成大学・学部は地元と密着しているだけに、広域統合で学部がな
くなることへの教育委員会、同窓会の反発も予想される。

「安泰は旧帝大だけ」

 旧帝大などの大規模校は改革が基礎研究の軽視につながらないか警戒し
ている。
 名古屋は、改革は経済効率が前面に出ていると指摘した。北海道や九州
も教育と基礎研究に力を入れることを前提に、理工系の産学連携が必要と
訴えている。東北、東京、神戸は高等教育全体のグランドデザインが必要
と求めている。
 地方の総合大学は地域とのつながりや自主、採算性が弱くなるのを恐れ
る。「改革で安泰なのは旧帝大だけ。地方大は(将来)授業料を上げざる
をえない」(福島)
 その地域の特性を生かすために模索する声もある。「(地方大は)地域
文化の担い手。東京と地方で一緒に議論すべきでない」(琉球)などだ。
 地方の単科大は、さらに危機感が強い。九州工は「国が政策的につくっ
た単科大学も多く、統合の前に設立の背景も検証すべきだ」と訴える。
 突きつけられた再編統合そのものを「単科」の立場から批判する大学が
多かった。
 今回の調査で条件つきの「賛成」や「反対」も目立った。たとえばトッ
プ30について「国際競争力のある大学づくりは大事。しかし、いま提示さ
れている選定のしくみでは、固定的な大学の序列化をつくり出すことにな
る」(東京外語)という意見もあった。

理念・目的は? 乏しい具体性
 国立学校財務センター 天野 郁夫 教授(教育社会学)(=写真)

 「唐突に過ぎる」「改革のグランドデザインが見えない」「本当に文部
科学省の意思なのか」。今回の調査から聞こえてくる学長たちの「生の声」
を集約すれば、そのようになるだろう。
 ペースは遅いかもしれない。しかし90年代以降、国立大学の改革が着実
に進められてきたことは疑いない。教養部の解体を中心に学部教育が変わ
り、教育研究面での大学開放も進んだ。
 産学官の研究教育交流も日常化した。いまは、第三者評価や独立行政法
人化の動きともからんで、大学としての理念や内部組織の再検討が、各大
学で進められている。
 具体化し始めた大学間の統合や連携、28校の「地方」国立大学間のネット
ワークづくりなどの動きは、そうした国立大学自身の内発的・主体的な改革
努力の結果、生まれたものである。
 文部科学省の「遠山プラン」はこうした、これまでの改革の積み上げとは
無関係に登場してきた。再編統合にせよ、トップ30にせよ、賛否をきかれて
条件付きの回答や、「どちらともいえない」という判断停止的な回答が多い
のも、当然だろう。
 プランの具体性の乏しさも、学長たちの戸惑いに拍車をかけている。再編
統合についていえば、明確に反対する学長は意外に少ない。何らかの形でそ
れを進める必要があることを、多くの学長が認めている。しかし、なぜ再編
統合なのか。その目的は、理念は、範囲は。わからないことばかりである。
 トップ30についても同様である。大規模研究大学に、さらに研究費を上積
みするようなこの構想には、反対だという意見もあれば、地方の小規模大学
にも研究費獲得の機会が開かれるのだから、賛成という意見もある。全く逆
の理解を生むような曖昧(あいまい)な構想は混乱を招くばかりではないか。
 さらに深刻な危惧(きぐ)もある。これまでの教育や組織など、大学の内
部改革の重要性を強調してきた文科省が突然、大学間の再編統合や差異化に
動き出した。それは大学内部に高まった教育改革や、内部組織の変革の意欲
に、水をかける役割を果たすのではないか。
 学長たちの悩みは深い。プランを具体化し、実施に移す前に、文科省はま
ず、当事者である学長たちの生の声に、じっくり耳を傾けるべきだろう。

理解進めば反対なくなる
 文部科学省高等教育局 工藤 智規 局長(=写真)

 「遠山プラン」は、確かに言葉足らずの部分があった。前提も、具体的な
方法も書けなかった。大学側に情報が正確に伝わっていないので、トップ30
への「反対」や、再編統合について「どちらとも言えない」という回答が多
かったのではないか。理解が進めば、反対はなくなるはずだ。
 一部にあるような外圧に屈したプランではない。大臣が入っていない経済
財政諮問会議で、われわれが責任がとれないような大学改革の議論が進んで
いた。黙っていては過去の経緯や大学の努力を勘案した形にならないという
懸念で、むしろこちらから出した。
 個人的には国立大の問題点は三つあると思う。一つは極端な学部自治。1
学部の反対で大学全体の改革が進まない。二つ目はあしき研究至上主義。研
究が上で教育が下という意識があって、その分担ができない。全大学、全教
員が研究に走ったら高等教育はないがしろになる。三つ目は悪平等。教員に
は教育、研究、学内運営、社会貢献という四つの役割があるが、平等が先で、
適材適所ができていない。
 将来を見渡した時、いまの延長線でいいのか。トップ30は、エリ−ト育成
でも、大学の格付けでもない。教養教育や地域貢献、あるいは地場産業と産
学連携する大学もあっていい。そのうち、まず研究面に重点投資し、育てよ
うというものだ。教育面は優劣がつけにくいが、その支援にも努力していき
たい。

国立大学長調査の結果一覧

【設問】               (10月25日現在)
(1)国立大の再編統合に賛成か反対か
(2〉再編統合計画はあるか
(3)トップ30育成方針に賛成か反対か
(4〉トップ30に入りそうな専攻分野はあるか

      (1)(2)(3)(4〉
北海道     △ △ ○ ○
北海道教育   △ △ △ ○
室蘭工業    △ △ △ ○
小樽商科    △ △ × ×
帯広畜産    △ △ ○ ○
旭川医科    ○ △ ○ ×
北見工業    △ △ △ ○
弘前      △ × × ○
岩手      ○ ○ ○ ×
東北      △ × △ ○
宮城教育    △ × △ ×
秋田      △ △ △ ○
山形      ○ × × 一
福島      △ △ △ ×
茨城      △ △ △ ○
図書館情報   ○ ○ ○ ○
筑波      ○ ○ ○ ○
宇都宮     △ △ ○ ○
群馬      △ △ ○ ○
埼玉      ○ △ ○ ○
千葉      △ × △ ○
東京      △ × △ ○
東京医科歯科  △ × ○ ○
東京外国語   △ × × ○
東京学芸    ○ △ ○ ○
東京農工    ○ ○ × ○
東京芸術    △ × △ ○
東京工業    × × △ 一
東京商船    △ ○ △ ×
東京水産    ○ ○ ○ ○
お茶の水女子  △ △ △ ○
電気通信    △ △ × ○
一橋      ○ × ○ ○
横浜国立    △ × × ○
新潟      △ △ ○ ○
長岡技術科学  △ △ △ ○
上越教育    × △ △ ×
富山      △ ○ × ○
富山医科薬科  △ △ ○ ○
金沢      △ △ △ ○
福井      ○ ○ ○ ○
福井医科    △ ○ △ ○
山梨      ○ ○ ○ ○
山梨医科    一 ○ 一 一
信州      △ × × ○
岐阜      ○ × △ ○
静岡      ○ △ ○ ○
浜松医科    ○ △ × ○
名古屋     △ △ △ ○
愛知教育    × △ × ×
名古屋工業   × ○ × ○
豊橋技術科学  ○ △ ○ ○
三重      ○ △ ○ ○
滋賀      △ ○ × ○
滋賀医科    ○ ○ × ○
京都      △ △ △ ○
京都教育    △ △ △ ×
京都工芸繊維  △ △ △ ○
大阪      △ △ ○ ○
大阪外国語   △ △ × ○
大阪教育    × △ × ×
兵庫教育    × ○ △ ○
神戸      △ ○ × ○
神戸商船    △ ○ △ ○
奈良教育    △ △ × ×
奈良女子    ○ △ ○ ○
和歌山     ○ ○ ○ ○
鳥取      △ × × ○
島根      △ ○ △ ○
島根医科    ○ ○ △ ○
岡山      ○ × ○ ○
広島      △ × △ ○
山口      △ 一 △ 一
徳島      △ × ○ ○
鳴門教育    ○ ○ ○ ○
香川      ○ ○ × ○
香川医科    ○ ○ ○ ○
愛媛      △ × △ 一
高知      ○ ○ × ○
高知医科    △ ○ × ×
福岡教育    × △ × ×
九州      ○ ○ ○ ○
九州芸術工科  ○ ○ × ○
九州工業    △ △ ○ ○
佐賀      一 ○ 一 一
佐賀医科    △ ○ × ×
長崎      ○ △ △ ○
熊本      △ × ○ ○
大分      △ ○ △ ○
大分医科    △ ○ × ○
宮崎      ○ ○ × ○
宮崎医科    ○ ○ × ○
鹿児島     × × × ○
鹿屋体育    △ △ △ ○
琉球      △ × ○ ○
政策研究大学院 △ × △ 一
北陸先瑞科学技術大学院 ○ × ○ ○
奈良先瑞科学技術大学院 △ △ △ ○
総合研究大学院 ○ × ○ ○

【回答】
(設問1・3)○=「賛成」、×=「反対」、△=「どちらとも言えない」
(同2)○=「すでに合意」か「具体的な柏手と交渉中」、×=「ない」、
△=「学内で検討中」か「情報収集中」
(同4)○=「ある」、×=「ない」
「一」は、いずれも無回答や「ノーコメント」など
 <注>回答の「賛成」「反対」には「条件付き」を含む。一部は、取材に
基づき朝日新聞が判断した。佐賀大は調査に回答していないが、設問2の部
分はすでに公表しているため「○」とした

 国立大学改革 論議は、96年の行政改革委員会に始まる改革の中で、国立
大が行改組織改革の一つの象徹として位置づけられたのが出発点。
 文部科学省が今年の6月に出した遠山プランはトップ30で「世界最高水準
の大学を目指す」一方、行革の一環として、国立大学の大胆な再編統合や民
間的発想の経営手法の導入もうたう。「遠山」は遠山敦子・文科相の名前に
由来する。