トップへ戻る   東職HPへ戻る
独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人について  徳島大学学報  2001年10月号  巻頭言
. [he-forum 2898] 徳島大学学報10月号-up11/16.-

----------------------------------------------------------------

徳島大学学報  2001年10月号  巻頭言

◇ 国立大学法人について

 文部科学省は、国立大学を法人化する場合の制度の具体的内容を調査検討す
るため、平成12年7月に有識者による調査検討会議を設置しましたが、検討
結果の中間まとめとして、「新しい「国立大学法人」像について(中間報告)」
を去る9月27日に発表しました(http://www.mext.go.jp/を参照)。この
「中間報告」に対して、10月29日を期限としてパブリック・コメントを求
め、それらの意見を参考にしてさらに検討を重ね、今年度中に最終報告がまと
められることになっています。「中間報告」はすでに読んでいただいたことで
しょうが、その後の状況を報告し、問題点を挙げてみたいと思います。

国立大学協会の対応

 国立大学協会では理事会に「将来構想ワーキング・グループ(理事会WGと
略)」を設置し、設置形態検討特別委員会と共に「中間報告」に対する意見を
集約することになりました。その結果を、10月29日に開催される国立大学
協会臨時総会で協議したのち、「中間報告」に対する国立大学協会の意見とし
て10月中に文部科学省に提出することになりました。私がこの原稿を執筆し
ている段階では、国立大学協会の意見がまだまとめられていませんが、議論さ
れてきた主な内容を次項以下に述べます。

 なお、国立大学協会はホームページを平成13年9月17日から開設し、運
用要項を定めて同年10月15日から適用することになりました。これに伴い、
「会報」の発行は本年11月発行の第174号までで取り止めとなりましたの
で、今後はホームページ(http://www.kokudaikyo.gr.jp/)を活用していただ
きたいと思います。

基本的な考え方

 「中間報告」では、国立大学法人化の前提となる基本的な考え方として、
(1)大学改革の推進、(2)国立大学の使命、(3)自主性・自律性の3点をあげて
います。これまで特に議論の対象となってきたのは、中期目標、中期計画の立
案と承認に対する文部科学省の関わり方で、それによって、大学の自主性・自
律性が損なわれかねないという危惧です。

 法人化を契機にどのような大学を目指すのかという視点としては、(1)世界
水準の教育研究の展開を目指した個性豊かな大学へ、(2)国民や社会へのアカ
ウンタビリティの重視と競争原理の導入、(3)経営責任の明確化による機動的・
戦略的な大学運営の実現の3点が示されています。国立大学はいちどに多くの
役割を担うことを求められているわけで、大学自身が教育・研究システムなら
びに大学運営方法を改善し、国民へのアカウンタビリティを高めるように努力
すべきことは当然です。しかし、世界中のどの大学をみても、高等教育と研究
に要する資金を自助努力(自己資金と外部資金)だけで賄うことはできません。
現実にはどこの国でも公費による補助が50%以上を占めていること、先進諸
国に比し日本では公費負担が1/2以下であることを考慮すれば、政府の大学に
対する投資額の増加が必要です。

運営組織

 中間報告では、A、B、Cの3案が併記され、それぞれの特徴が述べられて
います。今のところ支持者の多いB案とC案を中心に検討されており、最終報
告までに結論が出されることが望ましいのですが、複数案に対して各大学が選
択するようになるかもしれません。これらの案に共通しているのは、(1)監事
2名を加えること、(2)役員会、運営協議会(B案)、運営諮問会議(C案)
及び評議会(C案)に学外の有識者を加えることです。ただ、(1)学外有識者
(常勤または非常勤)の数、所掌業務、責任の程度が示されていないこと、
(2)適当な数の学外有識者が得られるかどうか、(3)現在の運営組織よりも複雑
な形態となり、機動的、弾力的運営に支障をきたす恐れがあることなどが問題
です。

目標評価

 検討の視点として、(1)明確な理念・目標の設定による各大学の個性の伸張、
(2)第三者評価による教育研究の質の向上と競争的環境の醸成、(3)目標、評価
結果等の情報公開によるアカウンタビリティの確保の3点が挙げられています。
国が我が国の高等教育・学術研究に係るグランドデザインや政策目標を策定す
るのは当然のことで、大学も長期目標を自主的に策定・公表し、それに基づい
て中期目標、中期計画を立てて実行し、国民に対する説明責任を果たすことも
当然の義務です。各大学は中期目標(案)を文部科学大臣に提案し、文部科学
大臣は国のグランドデザインや大学の長期目標との整合性に留意して中期目標
を策定する案と、中期目標も各大学が作成し、文部科学大臣が認可するという
案が併記されています。大学の教育研究の自主性・自律性をできるだけ尊重す
るという観点からは後者が望ましいと考えられます。なお、文部科学大臣は、
各大学の中期目標・中期計画について、文部科学省に置く国立大学評価委員会
(仮称)の意見を聴かなければならないこと、同委員会は運営交付金等の配分
についても意見を述べることになっています。国立大学は大学評価・学位授与
機構による評価も受けますので、(1)それぞれの評価者、評価機関の所掌事項
の明確化、(2)評価にかかわる事務の簡素化、(3)評価結果に基づく運営交付金
などの算定方法の透明性などが必要であります。


人事制度

 はじめに、教職員の身分について、公務員型と非公務員型の特徴と違いが述
べてあります。「中間報告」では、(1)身分は公務員型としつつ、一般公務員
に比してより柔軟な人事制度の実現を図るべきである、(2)採用その他におけ
るさらに柔軟な人事制度を実現するために非公務員型とすべきである、(3)大
学の特色等に応じてどちらかに決める、という3つの意見が書かれていますが、
(1)と(2)が主な議論の対象となっています。

 独立行政法人通則法(平成11年7月16日)によると、「特定独立行政法
人とは、(中略)その役員及び職員に国家公務員の身分を与えることが必要と
認められるものとして、個別法で定めるものをいう」とされています。

 平成11年9月20日に開催された国立大学長・大学共同利用機関所長等会
議で、有馬朗人文部大臣(当時)は独立行政法人化に関する挨拶の中で、(1)
法人化の取得、(2)自主性・自律性の拡大、(3)個性化の進展という3つの意義
があることを述べられました。そのあと、佐々木正峰高等教育局長(当時)が
「国立大学の独立法人化の検討の方向」について具体的に説明し、身分につい
ては「長期的観点に立った自主的・自律的な教育研究を可能とし、かつ教育研
究の活性化の観点から法人間の異動を促進するため、国家公務員とする」とい
う考えを示されました。

 参考までに平成13年4月に移行した独立行政法人57機関のうち52機関
(独立行政法人大学入試センターなど)は公務員型で、5機関(独立行政法人
国立青年の家など)は非公務員型になっています。

 しかし、本年6月26日に閣議決定された「今後の経済財政運営及び経済社
会の構造改革に関する基本方針」に盛り込まれた内容を、担当各省庁が具体化
するために作成した「改革工程表」(平成13年9月21日)を見ますと、文
部科学省が挙げている政策目標の中に、「国立大学を早期に法人化するため、
非公務員型の選択や経営責任の明確化、民間的経営手法の導入など平成13年
度中に国立大学改革の方向性を定める」という記述があります。非公務員型の
選択が視野に入っていることを意味すると考えられます。

財務会計制度

 財務会計の在り方について、(1)教育研究等の第三者評価の結果等に基づく
資源配分、(2)各大学独自の方針・工夫が活かせる財務システムの弾力化、(3)
財務面における説明責任の遂行と社会的信頼性の確保という3つの視点が述べ
られています。読売新聞社は国公私立大学の学長に大学改革についてのアンケー
トを実施し、その結果を平成13年10月17日の朝刊に発表しましたが、
「改革を進める際の障害」についての回答では、「大学の財政状態」が最多で
57%を占めています。これは至極当然のことで、「人と金」が大学の活性化
の基本条件であるからです。理事会WGでは、運営交付金と評価をどのように
リンクさせるかを明らかにすること、大学の基盤的教育研究活動を中長期にわ
たり安定的に維持するために評価とリンクさせない、などを挙げています。そ
のほか運営交付金の具体的な算出方法、施設設備費の財源、まだまだ不十分な
施設を整備する仕組み、寄付金の非課税措置、会計基準の標準化など、多くの
課題を残しています。

徳島大学の対応

 国立大学法人の内容は、「中間報告」から「最終報告」までの間に修正が加
えられる可能性が高いと思われますので、徳島大学としても適切な対応と準備
が必要です。そこで将来構想委員会の下に国立大学法人検討専門委員会を置き、
(1)国立大学法人についての論点を整理し、学内における共通理解をはかること、
(2)本学における国立大学法人化の具体像について検討し、準備を進めることを、
所掌事項として審議していただくことにしました。本専門委員会は学長補佐は
じめ教員12名と事務局長はじめ事務職員3名の計15名から成り、委員長は
金品昌志学長補佐にお願いしました。これからも、国立大学法人に関する情報
は的確かつ速やかに全学に伝達するようにします。

おわりに

 長引く経済不況に加えて、多発テロや狂牛病の発生など、暗いニュースが続
いています。国立大学も次々と課題を負わされていますが、上記の読売新聞の
学長アンケートでは、20年後の大学のイメージという設問に対して、「明る
い」と「どちらかというと明るい」という回答が計83%になっています。私
も、徳島大学は教育研究環境や運営システムを着々と改善していますので、い
かなる外部環境の変化が起ころうとも、これに対応できて、明るい未来を築く
ことができると考えています。

附記:ご意見のある方は下記へお知らせください。
   e-mail:gakucyo@honbu.tokushima-u.ac.jp
   FAX:088−656−7050