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独行法反対首都圏ネットワーク

東大総長宛て東職声明
.[he-forum 2876] 東大総長宛の東職声明-up11/14-
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 東京大学職員組合は11月13日、下記の声明を東大総長に宛てて出しました。

 以下、東大総長宛て東職声明をご紹介します。

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東京大学は調査検討会議に対し、
「中間報告」の根本的な再検討を要求すべきである

2001年11月13日
東京大学職員組合

1.はじめに
 文部科学省の調査検討会議は9月27日、「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」(以下、「中間報告」と略)を発表した。その後、文科省へのパブリック・コメントには多くの大学の教職員組合や大学内外の機関が意見を表明している。東京大学でも、10月2日に私たち東職が見解を出した他、21世紀学術経営戦略会議、理学系研究科の将来計画委員会、地震研究所、物性研究所などからも「中間報告」への意見書が出ている。とりわけ、21世紀学術経営戦略会議(以下、UT21会議と略)の意見書については、座長である佐々木総長の名で発表されており、実質的には東京大学の公式な見解表明と見ることができよう。
 この意見書では、「大学は...立法的権能を含むものでなければならない」として意思決定と執行権限の分離を求めるほか、「部局にとって重要な人事は、部局教授会の審議を経ること」、学長選考に関して「具体的実施方法については各大学の多様性を認めるべき」こと、「現行の教育公務員特例法が認めているような大学教員の任用等の手続き」に十分配慮すべきこと等々、現在の大学の自治的機能を守る立場からの意見が表明されており、その点においては評価できるものである。しかし、この意見書は、「中間報告」に対する姿勢があいまいであり、賛否の立場がなお不明瞭である。さらには、東京大学が従来確認している立場との不一致もあり、重要な点でいくつかの問題を含んでいる。
 ここでは、主要な点にわたってUT21会議の意見書(以下、「東大意見書」と略)に対する批判的検討を行い、合わせて東京大学が取るべき対応についても要求しておきたい。

2.「東大意見書」(=UT21会議意見書)の問題点
 以下、今年2月20日の評議会において確認された「東京大学が法人格をもつとした場合に満たされるべき基本的な条件」(以下、「5条件」と略)を参照しながら、「東大意見書」の主な問題点を指摘する。

(1) 独立行政法人通則法の枠組みを容認
 「東大意見書」は「中間報告」について、「独立行政法人通則法を国立大学にそのまま適用することを避ける基本的立場において評価できるものであり、大学の役割・立場を考慮したものである」(前文)という評価である。しかし、名称を「国立大学法人」とし、細かな修正が施されてはいても、「中間報告」には独立行政法人制度の枠組みが貫徹されている、と見るのが妥当であろう。中期目標・中期計画を立てて大臣が認可するというスキーム、監事の設置、評価と資源配分のリンク等々、そのどれもが通則法の要であり、独立行政法人という制度から出てくる考え方である。こうした枠組み自体から脱却しなければ、国からの統制はより強化され、「教育研究の高度化・活性化を自らの創造的な意思決定に基づいて進めていく」ことはおろか、「東京大学が学問の自由を保障された高等教育機関としてこれまで果たしてきた様々な役割を維持」(以上、「5条件」より)することすら危ぶまれることになりかねない。

(2) 運営組織における教学と経営の一致、学外者の関与などへの態度が不明確
 「東大意見書」は1番目の項目で、「法人の最も基本的な事項について決定する機関は、その執行機関から分離されるべき」と述べ、その意思決定の機関として評議会を挙げている(2番目の項目)。これは、「5条件」とも合致している。さらに言えば、「最高」意思決定機関としての位置づけを明確にすべきであろう。
 一方、「自律的な意思に基づく教育研究の推進のために、教学と経営は一体化したものでなければならない」とした「5条件」と比べ、「東大意見書」ではその姿勢が明確でない。運営組織の基本として検討すべきとされるのは、教学と経営の分離を基本とする「中間報告」のB案であり(2番目の項目)、「5条件」との違いは明白である。従来の立場通り、教学と経営は一体的に運営されるべきことをきちんと主張すべきである。
 また「東大意見書」では、教員の選考にあたって「外部の意見を聴取」(3番目の項目)することや、学長の選考については「社会の意見を反映させることを要件とする」(5番目の項目)ことが述べられている。しかし、「中間報告」が描く運営組織では、大幅な学外者の関与によって大学の自律的で自治的な運営自体が脅かされることになる。現時点では、大学運営への学外者の参画それ自体をキッパリと退けることが求められていよう。
 さらに「東大意見書」では、大臣による学長の解任権を善意に解釈するかの記述(1番目の項目)が見られる。これでは、学長解任の発議権を文科相に与えることになりかねない。大学運営のきわめて重要な事項について、このような安易な記述は不見識である。

(3) 国による「上」からの評価システム導入を許容
 「東大意見書」では中期目標・中期計画について、「各大学が作成し、文部科学大臣が認可する制度とすべき」(6番目の項目)としている。「5条件」では文科省との関係にはふれられていなかったが、大学の自主性・自律性を確保する上で、「大臣が認可する」という制度については批判的に検討されるべきであろう。
 評価システムについては、「国立大学評価委員会(仮称)」の「性格付けが明確になっていない」(7番目の項目)と述べるに止まっており、東京大学として対置するべき内容は書かれていない。ただ、「評価結果を運営費交付金等に反映させる仕組みについては、慎重な議論が必要であり、透明性の高い制度の設計が肝要」(7番目の項目)と述べるだけである。第三者評価については、なお慎重に検討することが必要であり、理念や基準が不明確な現状のままに評価自体が先行することは避けるべきである。その点で、理学系研究科将来計画委員会の意見書が以下のように述べていることは重要な指摘である。
「国の根幹の理念が明解に示されなければ、簡単に入手できる数値目標への達成率などの数値化できる情報のみに基づいて評価が行われ、大学の活性化と高度化に真に資するものとはならないことが危惧される。」

(4) 財政的基盤の確保・拡充への言及が不足
 「東大意見書」は運営費交付金について、「高等教育及び学術研究を担う大学の安定的活動を保証するために最低限必要な基盤経費については、「競争的」観点とは別に、安定的に交付される仕組みが不可欠」(9番目の項目)と述べているが、国から大学への財政支出について、これ以上の記述は無い。今後、「教育研究の一層の高度化・活性化を図ることが不可欠」(「前文」)というならば、最低限必要な経費が保障された上での財政的基盤をどう確保するのかが、現在の問題の焦点であろう。
 高等教育や学問研究における財政的な保障に関しては、まず実証的な分析と議論が必要であり、その結果にもとづいて、教育研究を行う側からの説得的な提起が求められていよう。「未来を切り開く卓越した研究を行い、これを反映した教育により社会をリードする優秀な人材を育成する」(「前文」)という目的を財政面からも保障できるように、東京大学は自主的な分析と発言を行うべきである。

(5) 教職員の身分保障について
 「5条件」では教員の身分について、「教育公務員特例法の仕組みを引続き維持する」とされていた。だが、「東大意見書」では「教育公務員特例法」を引き合いに出すものの、「任用等の手続きに関して十分な配慮をした制度設計が必要」(4番目の項目)と述べるに止まっている。また、職員についても、「雇用の安定について配慮した制度を設計すべき」(同項目)と書かれているが、「中間報告」では保留された「教職員身分の公務員型か非公務員型か」については意思表示を避けている。
 いずれの事柄も、「5条件」よりも身分保障についてのトーンは後退しており、職員組合としては再考を求めたい。とりわけ、教特法を存続させて「学問の自由」を守るという観点からも、「中間報告」に対して、身分は公務員型とすることを明確に主張していくことが大事である。

3.「中間報告」は根本的な再検討が必要--東京大学は率先してその任を果たせ
 以上、「東大意見書」の内容は、東京大学が「法人化にあたって満たされるべき基本的な条件」として最高意思決定機関である評議会において確認された事項とも不一致が見られ、また、公務員身分存続などの大きな問題に関しては言及を避けている。
 一方、理学系研究科将来計画委員会の意見書は、「中間報告」に対して、「大学を改革するという手段が目的にすり替えられたものであり、大学の現状のどこが問題であり、どうあるべきかという根幹の理念の記述に欠けている」ときびしく指摘し、「まずその中心に据えられるべき理念を述べ、次に大学にどのような機能と役割を与えるべきかを検討し、それを達成するための組織体制・運営を設計しなければならない」と述べている。教育研究の現場に身を置く者としての、真っ当な正論と言えよう。
 上記でも指摘されているように、「中間報告」が看過できない多くの問題点を含むのであれば、「5条件」の変更ではなく、「中間報告」それ自体への再検討を要求することが論理的な帰結であり、東京大学としての自律性の発揮でもあろう。

 また、「大学構造改革の方針」で提起された国公私立「トップ30」や「大学の再編・統合」については、全く言及がない。「中間報告」への意見とはいえ、現在の大学全体が直面している重大な問題に対して何らの意思表示も無いのは、文科省への意見として不十分である。今後とも立場の表明がされないならば、東京大学は「大学構造改革の方針」を許容したと受け取られかねない。大学システム全体に関わる問題に対し、東京大学は率先して大学を守る立場を鮮明にし、批判的見地を明らかにすることが求められている。

 11月14, 15日には国立大学協会の定例総会が予定されている。
 この総会は、調査検討会議の「最終報告」に向けて、国立大学側が意思表示をできる限られた有用な機会である。私たちは、国立大学側が「中間報告」に対して異議のあるところはきちんと出し、通則法の枠組みに縛られた「中間報告」と調査検討会議に対し、根本的な再検討を求めるべきだと考える。そして、東京大学は、率先してその任を果たすべきである。そうした対応こそが、調査検討会議に複数のメンバーを送り、この間の「国立大学法人化」論議に影響を与えてきた東京大学が取るべき態度であり、それこそが大学の自主性と自律性の真の発揮でもあると考える。

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