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☆「トップ30構想 大学の構造改革を遅らせる」 
. [he-forum 2843] 朝日新聞11月6日投稿記事-up11/8 .-
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朝日新聞11月6日投稿記事 私の視点  電気通信大学副学長 益田 隆司

「トップ30構想 大学の構造改革を遅らせる」

 文部科学省は大学構造改革の柱として「トップ30構想」を進めている、10の分野につい
て、国公私立大学の大学院の専攻ごとに上位10〜30に予算を重点配分するという。
 この構想をめぐっては、10月25日付本紙朝刊に98の国立大学長に対する調査結果が掲載
された。「賛成」「反対」「どちらともいえない」がほぼ3分の1ずつと評価はまちまちの
ようだった。私は、現在の大学の序列構造のもとでのトップ30構想は、研究可能な大学の
すそ野を狭くし、長期的にはどのレベルの大学の活力をも低下させる可能性があるのでは
ないかと強く危ぐしている。
 そもそも、トップ30構想と目的を同じくする研究大学の育成に関して、12の有力国立大
学の大学院重点化が91年度から00年度にかけて実施されたばかりだ。大学院学生の定員を
増やし、欧米の研究大学に劣らない研究資金面での充実も図られている。現時点でやるべ
きことは、すでに器ができている重点化大学を世界最高水準の研究大学に育成することだ
。なぜ、それと同質な構想をいま打ち出さなければならないのか。
 重点化大学を世界に通用する研究大学に育成するには、教官の自大学出身率の高さ、学
生の移動性のなさなど、日本の大学が根本的に抱えている問題を解決しなければならない
ことは、多くの大学人が気ついているはずである。研究資金だけが主たる問題ではない。
トップ30構想は重占化大学のあるべき姿を求める責任をあいまいにし、日本の大学の構造
改革を遅らせる。
 大学院重点化という差別化をした上でのトップ30構想は、数多くの大学に不公平な条件
下での競争に対する腹立たしさと無力感を味わわせている。選ばれなかった大学の社会的
イメージを落とすばかりか、そこでの研究環境を決定的に壊すことになりかねない。
 教育に重きがある大学が多くあってよいことは当然である。そうした大学でも、科学研
究費などの競争的資金を得て、十分に研究ができる環境を保証しておくことが重要だ。大
学における教育と研究は不可分であり、研究的環境が整っていないところでは決して質の
高い教育はできない。研究が可能な大学がすそ野広く存在することが、日本の大学全体の
教育水準を保つためにも欠かせない。
 さらに、すそ野が広いということは上位の大学にとっても大事なことだ。大学院重点化
大学では、博士課程を修了する学生が大幅に増え、重点化大学で助手のポストに就けるの
は修了者の10〜20%である。重点化大学以外でポストを得る若手研究者が大勢いる。そこ
で成果を上げ、上位大学に移る研究者も少なくない。トップ30構想による研究拠点の無用
な集中化は、こうした人事の流動性を下げ、結果としてトップ30の大学の活力低下をもも
たらすことになる。
 文科省が新たな構想を考えるというのであれば、質の高い教育を目指す大学の育成にこ
そ目を向けるべきだ。トップ30構想の211億円という予算要求の規模は、競争的資金のそ
れに比べれば1割にも満たないが、教育のための資金としては巨額である。