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独行法反対首都圏ネットワーク

☆[再編と競争 動き出した大学改革]  
. [he-forum 2822] 朝日新聞北海道版10/30-11/02-11/6up-
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『朝日新聞』北海道版  2001年10月30日〜11月2日付

[再編と競争 動き出した大学改革] 

 (1)戸惑い(10/30)
 (2)旧帝大の壁(10/31)
 (3)国立大学長の声(11/1)
 (4)私立大の動き(11/2)


2001年10月30日付

 (1)戸惑い
 
 「単科大学では生き残れない」。統合に向けて旭川医大と協議を始めた北見
工大の厚谷郁夫学長は、そう語った。小泉内閣が掲げる「聖域なき構造改革」
の中で、文部科学省が打ち出した全国99の国立大を大幅に削減する方針(遠
山プラン)。旭川医大と北見工大の動きは、この方針を受けたものだが、統合
の具体的な内容はまだ見えていない。朝日新聞社が実施した道内7国立大の学
長(帯広畜産大は総務部が回答)への聞き取り調査でも、戸惑う姿が浮かび上
がった。

 賛否示さず

 遠山プランでは、特に教育大や医大など単科大学の再編統合が必要とした。
道内では北大以外の6大学が対象となり、旭川医大の久保良彦学長は「単科で
は教養課程の教育に限界がある」として、再編統合に前向きだ。

 一方、北見工大や北大など6大学は「どちらとも言えない」と回答した。運
営の効率化や研究機能の強化には理解を示しながらも、財政改革のため、大学
の数を減らすだけになるのではとの警戒感が強い。

 道教大の村山紀昭学長は「理念無き再編統合には反対。大学の足腰を強化す
るような高等教育政策を明確にすべきだ」と語る。北見工大の厚谷郁夫学長は
「面積が北海道の半分の九州には国立の総合大学が7つもある」と、単科大学
が散らばる道内の特殊性に配慮を求める。

 統合の是非

 統合に向けて動き出した旭川医大と北見工大以外では、3大学が学内で検討
機関を設けている。室蘭工大の田頭博昭学長は「(相手があることで)こちら
だけでは決められない。もう少し時間がかかる」と語る。

 情報収集中とする小樽商大の山田家正学長は「機械的に弱い大学同士を統合
しても弱体化する一方だ」と慎重な姿勢だ。5分校体制の道教大は「小さな規
模で分散したまま、同じレベルの教育をするのは難しい。再編の必要性は学内
で理解されつつある」とする。

 評価の功罪

 遠山プランには、予算を重点的に配分して大学院がある国公私大のトップ3
0を世界最高水準に育てるとの方針も含まれるが、これに対しては賛否が分か
れた。

 「研究や人材育成の能力がある大学への重点配分は、合理的な施策」と北大
は賛成の立場だ。一方、北見工大は「旧帝大など特定の大学で国立大予算の7
0%を取っている。もっと公平に予算をつけないと競争にならない」と、いま
の格差が助長されることへの懸念を示す。

 対象となる研究や評価方法が明確になっておらず、「研究だけでなく、学生
への教育もきちんと評価に入れるべきだ」(道教大)や「きちんと評価すれば、
東大でも危ない」(室蘭工大)との指摘もある。

 北見工大は地域の特色を生かし、「寒冷地工学におけるエネルギー分野」で、
北大は全分野でトップ30入りを狙う。旭川医大はトップ30の育成方針を
「大学間の競争がでるのはいいこと」と評価しながらも、30に入るのは難し
いと答えた。

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  再編統合についての道内国立大の回答

大学名 再編統合への賛否 検討状況 トップ30への賛否 入る分野
北大   どちらとも   情報を収集中   賛成       ある
旭川医大 賛成      北見工大と協議中 賛成       ない
小樽商大 どちらとも   情報を収集中   反対       ない
帯広畜大 どちらとも   学内で検討中   賛成       ある
北見工大 どちらとも   旭川医大と協議中 どちらとも    ある
道教大  どちらとも   学内で検討中   どちらとも    ある
室蘭工大 どちらとも   学内で検討中   どちらとも    ある

  ※「どちらとも言えない」は「どちらとも」に略しました。

          ◇          ◇


 自治を伝統とする大学に持ち込まれた文部科学省による改革。戸惑いながら
も歩み始めた道内の大学の現状を報告する。

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2001年10月31日付

 (2)旧帝大の壁
 
 「地方の切り捨て」懸念

 総合大学の北海道大学と、全道に散らばる単科大学の国立6大学。文科省は
単科大の再編統合に焦点を据えており、総合大か単科大かによって、取り組み
が異なる。

 統合への話し合いを始めた旭川医科大と北見工業大は、道内の他の単科大に
も参加を呼びかけ、北大に対抗できる総合大学を目指す道を選んだ。しかし、
大学は地域の核となっている面もあり、再編統合は「地方を切り捨てる」と懸
念する声も上がっている。

 有利な立場

 今年の夏、道内の国立大の学長が、再編統合問題を話し合うため一堂に集まっ
た。各校の検討状況を聞きながら、ある学長は北大だけが再編統合に関心がな
さそうに感じたという。

 単科大には、北大など旧帝大は財政面で優遇され、大学改革でも有利な立場
にあるとの思いが強い。ある学長は「旧帝大は再編統合やトップ30育成に賛
成で、すでに筋道ができている」とみる。

 北大の中村睦男学長は「我々も、どのように合理化されるかは不透明」と反
論する。もっとも、中村学長は再編統合に慎重な姿勢を示す。「札幌|釧路駅
は、特急で約4時間。新幹線だと東京から岡山に行ける。中央集権ではうまく
いかない大学の運営を考えると、他県とは同じようにはできない」と話す。

 地域に貢献

 地方大学には、大学改革が構造改革の中で進められることに割り切れないと
いう思いがある。室蘭工大は民間企業との共同研究センターをつくり、小樽商
大も道内のベンチャー企業設立のアドバイスをするなど、地域と二人三脚で活
動してきた。旭川医大と北見工大の統合への動きのように、進まないとみる学
長は多い。

 小樽商大の山田家正学長は「地方大学は地域の支援を受けてやってきた。簡
単にほかと統合して地域を去るわけにはいかない」と話す。北大の中村学長も
「道内では、各大学が地域経済の活性化を担っている。キャンパスがなくなる
のは地方切り捨てにつながる」と他の大学の立場にも理解を示す。

 流れ戻せず

 道教大の村山紀昭学長は、運営が非効率で改善する必要があることと、大学
を減らすこととは別問題とした上で、「学校数でみると、日本の大学は欧州と
比較すると私立が多く、もっと国立の比重を高める必要がある」と指摘する。

 小樽商大は「戦後、それぞれの安い授業料で高等教育をしてきたことは評価
されるべきだ」として、その意義は現在も薄れていないという。

 しかし、すでに動き始めた再編統合の流れを戻すことは難しい面もある。あ
る学長は「何を言っても既定通り進む。文科省には逆らわず、されど従わずと、
条件闘争をしていくしかない」と語った。
 
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2001年11月1日付

 (3)国立大学長の声
 
 文科省は国公私大トップ30に重点的に予算を配分し、国際競争力がある大
学を育てる青写真を描く。だが、道内の学長には、国立大の使命は先端分野の
研究だけでなく、多彩な教育内容の提供や、教育機能を強化することだという
声が多かった。国立大はどうあるべきか、各学長の考えを聞いた。

 環境整備へ地方に予算を ―― 縮小への懸念

 トップ30は研究に関して既存の大学を強化することにつながるが、30か
ら漏れた分野や大学について規模の縮小を招くことを懸念する声は強い。道教
大の村山紀昭学長は「産業構造の変化に応じて、国民の要求は多様化しており、
デザインや芸術的な分野などで要求にこたえることが必要」と強調する。

 北見工大の厚谷郁夫学長も「予算が十分にないと、世界の最高水準の研究を
目指すのは無理。教育・研究環境の整備のための予算を地方の大学にも配分し
てほしい」と話す。

 北大の中村睦男学長は「国立大は先端分野だけでなく、文化的な側面も含め
て基礎研究の継続が大事だ」と言う。例えば、有珠山の研究。何年も岡田弘教
授が現地で地道な研究を続けたことが、噴火の予知と住民の避難につながり、
社会的に評価された。外国の哲学の研究も、文化の伝承として大切だという。

 評価制度で教官の質改善 ―― 入試の改革も

 研究だけでなく、教育に力を入れるべきだとの声も多かった。北海道の枠組
みにとらわれず、国際的な視野を持つ人材の育成が叫ばれている。室蘭工大の
田頭博昭学長は「適当に卒論を出せば卒業できた時代があった。教育の高度化
に向けて学部の教育の中身が問題だ」と指摘する。

 旭川医科大の久保良彦学長は入試の改善にも取り組んでいることをあげ、
「泊まりがけのグループディスカッションを選抜に採用するなど工夫を凝らし
ている」と述べる。

 北大の中村学長は「熱心に教育をしても評価されず、論文の数を書いた方が
いいという傾向があった」ことを認め、学生に授業を評価させる制度を取り入
れるなどして教官の質の改善に取り組んでいることを明かす。

 自立の精神の維持が必要 ―― まわり道OK

 「国内の大学の大きな欠点は、学部の壁が大きいことと、年齢的に多様な学
生がいないことだ」と指摘するのは道教大の村山学長。日本の社会と同じく縦
割りで、学生の大半は高校を卒業して入学すると、同じ学部で過ごす。「大学
から一度出て、再び戻ってくるような教員や学生を後押しするようなシステム
が必要だ」という。

 小樽商大の山田家正学長は、時の政府との距離を保ち、長期的な視野で指針
を示していく役割の重要性を説き、「伝統的に大学が持つ自立の精神を維持す
ることが必要だ」と述べる。

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2001年11月2日付

 (4)私立大の動き

    高卒2万人減

 道内の今春の高校卒業者は約6万人と、この10年間で2万人減少した。私
立大は、教官の意識改革や女子大の男女共学化、留学生の受け入れ拡大など学
生の獲得に知恵を絞るが、定員を割る学部も出ており、学生集めに危機感を募
らせている。

    教員対象、講義改善の講演会

 藤女子大(札幌市北区)は10月中旬、北大大学院医学研究科の阿部和厚教
授を招いて、教員による講義改善(FD)についての講演会を開いた。

 「講義の成果を上げるには、具体的な目標を教員と学生が共有すべきだ」。
阿部教授が教員ら70人を前に話すと、「どのように変えたらいいのか」と、
戸惑う教授らから質問が出た。

 FDは教員相互の講義参観や講義方法の研究会で、教え方を改善する取り組
み。米国では広く普及している。

 阿部教授は92年から北大でFDを実践している草分け的存在。3年間に全
国の50大学で講演した。うち6割が国立大で、「私大は導入が遅れている」
と話す。教員向けの講演は、道内では藤女子大が3校目だ。

    起業家育成も

 永田淑子学長は「他大学との競争は激しくなる一方。教員が時代に応じた講
義をすることで、学生に高い質の教育ができる」と語る。

    地元学生取り込みにかける

 地元学生の取り込みに生き残りをかけるのは旭川大学(旭川市)。定員25
0人に対して入学者は240人と、今年初めて定員を割った。

 志願者も91年の3200人から今年は400人に減少。一時は6割を占め
た本州出身者に代わり、半数が旭川市内からの学生になった。「少子化で本州
の受験生が少なくなった」(入試広報課)という。

 地方自治や農業経営の専門家を育て、地域に根ざした高等教育機関として存
在感を高めようと、99年に大学院を開設。このほか、地元自治体と共同で起
業家育成にも乗り出す。

  「南北から淘汰」

 今年、中国や韓国などの留学生が30人入学した北海学園北見大(北見市)。
大都市に学生が集中する傾向が強まり、「北海道と九州の端から、徐々に大学
が淘汰(とうた)されていくのでは」と、危機感を強める。

 生き残りをかけて94年に開設した観光産業学科も、今年の入学者は定員1
00人の4割にとどまった。国際交流は20年以上続けてきたが、「学生を確
保するといった面もある」と漏らす。

 道浅井学園大(江別市)は昨年、女子大から男女共学制に転換した。建学の
精神は「女性の社会的地位向上」だが、「男女を区別する社会から男女共生の
時代になり、ともに学ぶことが大切になった」(入試広報課)と、踏み切った。

    唯一の女子大、特色を生かす

 対照的に藤女子大は「道内唯一の女子大になり存在意義は大きくなった。志
願者も安定し、企業からの求人も好調」(永田学長)と転換する気配をみせな
い。

 国立大の改革を横目でみながら変わる私大。入試担当者は「独立行政法人化
や財政改革によって、国立大に学費値上げの動きが出れば、私大にとっては好
機。だが、その前にいかに生き残るかがかぎだ」と述べている。

                       =おわり