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独行法反対首都圏ネットワーク

☆ ”トップダウン強まる””予算配分も評価したい”独立行政法人化 どうなった研究・運営 
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しんぶん赤旗 11月23日 学問文化

”トップダウン強まる””予算配分も評価しだい”
独立行政法人化 どうなった研究・運営


 今年四月、国立の試験研究機関五十六機関が再編統合されて三十一の独立行政法人(独法)になりました。それにともない研究所の組織、研究のあり方は大きく変わりました。「経済効率優先の独立行政法人では,短期間に成果をを上げることが要求され、基礎研究がすたれる。国民の生活に密着した研究機関として責任が果たせない」との研究者らの反対の声を押し切って進められた独法化の実態を見てみます。

「視野の広い研究が困難に」
 「特許を取ったら何点、国内論文は何点、というように数でかせがなければならない。視野の広い長期的な研究はできなくなりました」

「産総研」の場合 国立試験研究所
 産業技術総合研究所(産総研、吉川弘之理事長)の労働組合委員長、吉門(よしかど)洋さんの「国研の独法化六カ月の現状」と題する話に、大学関係者を中心とする多くの参加者が聞き入りました。さきごろ筑波大学(茨城県つくば市)で開かれた「法人化問題シンポジウム」でのことです。
 産総研は昨年度まで通産省工業技術院の傘下にあった十五の研究所と計量教習所が再編統合され、経済産業省管轄下の一つの独立行政法人となりました。鉱工業の科学技術や新規産業創出、地質調査、計量標準の普及などを行う三千二百人の研究者を要する日本最大の独立行政法人研究所です。
 吉門さんは、「産総研はあらゆる面で一新した」と報告。まず指摘したのが中枢管理部門と研究現場が乖離(かいり)したことです。独法化で十五の研究所が五十の研究ユニットに再編。これまで工業技術院長のもとに研究所長が集まり意思決定していた「院議」が廃止され、研究機関の意向を反映するシステムはなくなりました。吉門さんは「何でも一方的に理事長がこうやれと決めるトップダウンが強まりました。ユニット長は電話などで”直訴”の形で意見を言うしかない」と話します。

評価は難しく 結局点数化に
 独立行政法人化は、国を設置者として各研究所に独立した法人格を付与するもの。主務大臣が策定した三〜五年ごとの中期目標と、それにそった研究所ごとの中期計画にもとづき研究を行います。主務省におかれた評価委員会が達成度を評価。その結果を人事や予算配分、組織の存廃に反映させる仕組みです。
 産総研でも「評価制度」の導入とそれにともなう「予算配分の重点化」は研究上の大きな変化です。
 同研究所では計画の達成度が経済産業省内の評価委員会で評価され、達成度の高い研究に予算が「重点配分」されます。達成度が低ければ同大臣は組織の再編・改廃も可能です。研究所内部にも「評価部」が作られました。年度初めの計画書をもとに研究者は達成度を自己評価。ユニット長と話し合い、評価の結果が研究者のボーナスに50から200%の割合で反映。翌年の研究予算にも影響します。吉門さんによれば、ユニット長やグループ長が評価するといってもていねいな評価は難しく、結局点数化するしかないのが現実です。
 産総研では「今年は論文を何本、特許を何本取る」という目標と同時に、職員数を何人減らすかという業務の”効率化”の目標も国に示さねばならなくなりました。これまで研究者に均等に配分されていた予算は、配分評価の権限が研究ユニット長に集中することになりました。一人の研究者が使う研究面積に応じて「スペース課金」という名の”家賃”が課され研究費から差し引かれるため、ユニット長からは「配分する研究費がなくなってしまう」との声も出ています。
 吉門さんは「独法化後、非常勤研究員を研究費で雇い研究の実質を担わせ、常勤者は外部資金を取ってくるのが仕事のようになり、それが評価の対象になる。環境のための技術など産業に直接役立たない研究には予算がつきにくくなっている」といいます。

大学関係者も「他人ごとでない」
 筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会の事務局長、川鈴木宏さんは、「ほかの試験研究機関でも、同様の事態が進行している」と指摘します。その中心は理事長のトップダウンの強まり、成果主義とその予算への反映です。
 「農業関係の研究所は基礎的分野の研究が多くあります。でも狂牛病も炭疽(たんそ)菌も、問題が起こってからでないと予算がつきません。研究者の中からは、予算をどう取るかばかりが頭にあって、落ち着いて研究できないという声が聞かれます」と語ります。
 こうした実情は、国の責任で国民生活を守る研究を行うという本来の責任を国立試験研究機関が果たせなくなるのではないかという危ぐを研究者のなかに広げています。
 この四月、国立博物館、美術館も同時に独法になり、文部科学省などは国立大学も独法化することを検討しています。先行して独立行政法人となった試験研究機関の現状は、国立大学の未来像としても注目されています。筑波大学で開かれたシンポジウムに参加した大学教員は「見切り発車的な試験場の法人化を目のあたりにして、他人ごとではなく自分の問題として大学の法人化を意識するようになりました」とのメッセージを実行委員会に寄せています。

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国立試験研究期間=国立国語研究所(文部省)、国立健康・栄養研究所(厚生省)、農業環境技術研究所(農水省)、など、省庁の管轄下におかれる研究所。植物による二酸化炭素の吸収の定量的研究や、大型ほ乳動物の発生学的研究のような大型基礎研究、オゾンホール発見につながった観測研究、稲や果樹の品種改良、雲仙普賢岳の噴火に即応する観測調査など、組織と時間を要する大きな研究成果を上げてきました。国民の生活、産業の発展のための政策の基礎となる研究を、国の責任で行ってきました。