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独行法反対首都圏ネットワーク

☆東大物性研所長の中間報告に対する意見書 
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「新しい国立大学法人像について(中間報告)」に対する意見 

2001.10.23

物性研究所長
福山秀敏

 本中間報告は、大学を改革するための新しい制度設計を目指したもの、と積極的
に捉えたい。大学には大きく分けて「教育」と「研究」の二つの役割があり、その
両者が相補的・有機的に相関することによって初めて社会にとって貴重な資産であ
る総合的な大学の力が発揮される。「中間報告」においては「教育」の観点からの制
度設計に重点がおかれ、大学内にあって「教育」はもとより「研究」において重要
な役割を果たしている附置研究所・センターの位置付けが明確にされていないこと
は、ひいては「教育」活動にも大きな支障を引き起こす懸念があるとの観点に立ち、
以下の意見を表明する。

1)大学附置研究所・センターの果たす機能に着目し大学内での役割等について適
切な位置付けがなされるべきである。
2)大学附置全国共同利用研究所は、必然的に大型あるいは中型の先端的装置群を
擁するが、これらの資源が学内外の研究者により有効に利用され学術の進歩に貢献
するための確固たる財政的基盤が確立されねばならない。

 戦後50有余年を経過し我が国はいま大きな転換期にある。21世紀を迎え急速
な国際化が進むこの重要な時期に、国公私立大学の新しい高等教育・研究システム
全体の制度設計を検討するのはまことに適切である。この検討に際しては、国立大
学が日本の社会に果たしてきた「人材の養成」「先鋭的な研究」を軸とする多面的
な役割についての厳正な評価とそれに基礎においたより効率的な新しい制度の設計
が課題となる。国家目標として「科学技術創造立国」は正当であるが、ともすれば
短期的に結果が見えるトップダウン的研究に主眼が置かれる傾向があることは危惧
の念を引き起こす。知の伝承としての教育とともに目先の流行に囚われない新しい
知の創造という長期的な観点に立った施策が是非望まれる。
 今回の検討を「国立大学の法人化」に限れば、教育を中心として大学改革をする
ときの制度設計の基本をまとめたものとして、「中間報告」は一部において問題は
あるものの評価すべきである。しかしながら、今日まで我が国の研究の発展、高度
な研究者の育成に多大の貢献を果たしてきた大学附置研究所・センターについては、
ほとんど言及されていないことはまことに残念である。大学が世界最高水準の学術
研究を推進していくためには、研究科と共に附置研究所・センターを含めた総合的
研究体制を構築する必要がある。なかでも学内のみならず全国の研究者の共同利用
に供されている大学附置全国共同利用研究所は、特定の学問分野を推進するための
先端的な装置を有しており、それらを駆使した世界的研究の推進と高度な能力を持
つ研究者の育成にも大きな役割を果たしてきた。
 例えば 物性研究所のカバーする物性科学は、裾野の非常に広い学際的分野であ
り、その研究対象は基礎的学問である理学から先端技術としての工学にまたがって
いる。大学附置研究所として、理学,工学,新領域等複数の研究科の教育・研究に
参加するとともに、全国共同利用研究所として年間1万人 ・日を超える研究者や
学生が来所する全国に開かれた組織として、40余年前の設立当初の目的であった日
本の物性研究を世界的なレベルに引き上げる上で大きな貢献し、現在では世界的に
も突出した総合研究センターとしての地位を確立している。この間、流動性の極め
て高い人事制度のもとで育った研究者が、全国の各大学に転出し、各組織において
指導的な役割を果たしていることは、我々の誇りとする所である。又、ハード面で
は、研究科では維持が困難な世界でもトップクラスの先端的装置群が設置され、わ
が国のみならず、これからは世界的にも中心的な役目を担おうとしている。この様
なシステムが法人としての大学の中に存在することは、大学としての教育研究機能
の強化のみならず、社会にアピールする上でも大きなメリットである。物性科学の
多様性を考えると、研究科あるいは学内の他の研究所・センターにとっても物性研
究所との連携は重要且つ有効であろう。
 このような多面な活動を維持・発展させるための財源としては、運営交付金と競
争的資金のみでは不適切であり、設置目的に適った特定運営費交付金等が必須であ
ると考える。