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☆中間報告に対する京都大学のコメント 
. 11・2up.-

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    平成13年10月29日

文部科学省『国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議』中間報告「新しい『国立大学法人』像について」に対するコメント
               

            京都大学・大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ
                        座 長 森 本   滋(総長補佐)

目    次

要 旨

1. はじめに

2. 総論的コメント
(1) 序
(2) 国立大学の自主性・自律性と大学の自治
(3) 大学運営への学外の専門家・有識者の参画
(4) 全学的意思決定と学長のリーダーシップ
(5) 評価と資源配分
(6) 国公私の「トップ30」育成方針

3. 各論的コメント
(1) 運営組織
(2) 監事制度
(3) 国のグランドデザイン等
(4) 中期目標・中期計画
(5) 目標評価システムその他の問題
(6) 教員等の選考
(7) 職員の身分
(8) 国立大学法人にかかる会計制度
(9) 運営費交付金等
(10)附置研究所等の教育研究施設

要 旨
1.総論的コメント
(1)序
 中間報告は、大学の自主性・自律性の尊重のほか、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援の拡充についても言及しており、一定の評価がなされる。

(2)国立大学の自主性・自律性と大学の自治
 国立大学の自主性・自律性の尊重の基礎には、学問の自由に由来する大学の自治のもとに教育研究を発展させるという考え方がなければならない。社会に開かれた21世紀の国立大学の自治を発展させることを通じて、国立大学の「改革と新生」が推進されるべきである。

(3)大学運営への学外の専門家・有識者の参画
 学外者の大学運営への参画のうち、能力補充目的の学外専門家の登用は、法律上強制する必要はなく、それを可能かつ容易にすることで十分である。国立大学を社会に開かれたものとするための学外有識者の参画を義務化することには合理性があるが、原則非常勤形態の学外有識者の現実的役割の限界にも配慮しつつ、国立大学の自主性・自律性の尊重と競争的環境の実現という法人化の趣旨に適合するよう柔軟な制度にすべきである。

(4)全学的意思決定と学長のリーダーシップ
 学長は、大学の運営にかかる全学的合意を形成し、合意を円滑かつ適切に実現するため、リーダーシップを発揮すべきであるが、それは専断的トップダウンの意思決定とは異質のものであることに留意すべきである。

(5)評価と資源配分
 第三者評価に基づく重点投資システム等の競争原理の導入については基本的に同意できるが、大学評価の方法と評価結果の資源配分への反映方法については、慎重な検討が必要である。「大学における教育研究活動の評価に当たって、計量的・外形的な基準だけでは適切に評価し難い面があることや、教育研究活動の中長期的な視点にも十分に留意すべきである」(P.24)という中間報告の指摘に十分留意して制度設計されるべきである。なお、文系と理系における評価基準の相違や若手研究者の潜在能力を開花させる適切な評価方法の必要性についても強調しておく。

2.各論的コメント
(1)運営組織
 大学関係者の多数意見であるB案を基本にC案に配慮した折衷的なスキームを考えることが現実的であろう。経営事項と教学事項を明確に分離することは困難であり、教学にかかわる経営事項を評議会の審議対象から除外すべきではない。

(2)監事制度
 監事は主として経営事項について監査するものとするべきであり、教育研究の具体的内容は監査対象とする必要はない。さらに、大学に、文部科学大臣に提出する監事の意見に対する異議ないし意見申立権や監事解任請求権を認めるべきである。

(3)国のグランドデザイン等
 国の策定するグランドデザイン等を踏まえて国立大学の基本理念や長期目標を策定するのではなく、中期目標や中期計画の策定に際して国のグランドデザイン等を参照することが合理的であろう。

(4)中期目標・中期計画
 国立大学の自主性・自律性を尊重し、大学運営の裁量を質的に拡大することを目的とする法人化の趣旨から、中期目標は各大学がこれを作成し、文部科学大臣が認可する方式とすべきである。また、中期目標と中期計画の記載事項も原則として法令・資源配分関連事項に限定されるべきである。

(5)目標評価システムその他の問題
 大学評価・学位授与機構と国立大学評価委員会が、その重要な役割を適切に遂行しうる組織構成と権限・責任を有するよう制度設計されるべきである。
 各年度の業務実績については、国立大学評価委員会の評価を受けるのではなく、年度ごとの業務実績報告制度とすべきである。

(6)教員等の選考
 中間報告は、「憲法上保障されている学問の自由に由来する『大学の自治』の基本は、学長、役員、部局長、教員(以下『教員等』という。)の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである。教員等の任免、分限、服務等に関しては、このような考え方を新しい大学の運営体制の下でも適切に取り入れた基準、手続により行う」(P.30)とする。
 最終報告においても、この立場が堅持されるべきである。とりわけ、研究の高度化・活性化のためには学問研究の自由の確保が不可欠であり、具体的な教員の任免については、現在と同様、部局教授会の議に基づいて行われるべきである。部局長の選考についても、基本的に同様である。

(7)職員の身分
 職員の身分については、大学機能の強化になるような柔軟な人事制度を確保する観点から検討されるべきである。

(8)国立大学法人にかかる会計制度
 国立大学法人の会計制度の設計に当っては、規制緩和と大学の裁量範囲の拡大により大学改革に資するという法人化のメリットと矛盾しないものとする必要がある。

(9)運営費交付金等
 大学独自の奨学金や研究助成金等の基金に充てるための「基本金制度」を設ける必要がある。とりわけ、剰余金の使途をあらかじめ中期計画において認められた使途に限定することは問題である。

(10)附置研究所等の教育研究施設
 中間報告は、附置研究所やセンターの役割や財政的処遇についてほとんど言及していない。学部や研究科とは設置趣旨が異なる附置研究所等の教育研究施設に対する運営費交付金の算出・配分の基準や方法も明確ではない。最終報告においては、これら教育研究施設の特質に配慮し、財政基盤の安定につながる制度設計がなされるべきである。


1.はじめに
 平成13年9月27日、文部科学省『国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議』は、「新しい『国立大学法人』像について」と題する中間報告を公表した。
 京都大学においては、この中間報告の基本スキームを参照しつつ、京都大学の法人化イメージを具体化する基礎資料の作成を目的として、『大学法人化に関する調査検討のためのワーキンググループ(WG)』が組織されている。このWGには、『調査検討会議』の最終報告が京都大学、さらには国立大学制度全般にとってよりよいものとなるよう、中間報告それ自体についても検討し、建設的な提言をすることが期待されている。
 以下、WGの議論を基礎に中間報告に対する意見を申し述べる。なお、コメントを取りまとめるための期間が1か月という時間的制約もあり、中間報告に対する全般的網羅的な検討が十分にはできなかった。今後さらに、必要に応じて中間報告について意見を表明することとしたい。

2.総論的コメント
(1)序
 平成13年10月1日の国立大学協会会長談話にもあるように、今回の「中間報告」においては、「国立大学法人法」ないし「国立大学法」を制定して、独立行政法人通則法のもとにおける独立行政法人制度とは異なる国立大学法人制度を創設することにより、教育研究の高度化、大学運営の活性化等、従来からの国立大学の改革を一層推進し、活力に富み国際競争力のある大学を再構築しようとする積極的な発想に基づいて、行政改革の視点を越えた様々な新しい仕組みが提示されている。とりわけ、大学の自主性・自律性の尊重のほか、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援の拡充についても言及されている。これらの点において、中間報告は一定の評価がなされるべきものである。なお、中間報告は、学生、産業界、地域社会などのデマンド・サイドからの発想を重視する姿勢、とりわけ、教育の受け手たる学生の立場に立った教育機能の強化が強く求められると指摘するが、この点も肯定されよう。
 大学の自主性・自律性に関連して、中間報告は、「大学の教育研究活動は、大学の設置形態に拘わらず、教育研究者の自由な発想や、大学人自身による企画立案が尊重されることによって、初めて真に実りある展開と発展が見られるものである」(P.3)ことを指摘する。これは大学における教育研究活動の特質を理解して、大学の自治の重要性を指摘するものであるが、中間報告には、この関連において問題とすべき点があるように思われる。また、公的資金の拡充との関連において、評価に基づく重点投資方針が明らかにされているが、評価制度とそれに基づく資源配分の方法についてもなお検討を要する点が多々ある。
このほか、昨今の国の厳しい財政状況を考慮すると、高等教育や科学技術・学術研究にかかる財政基盤の安定に十分に配慮する必要があるが、とりわけ、国の財政事情が悪化して中期計画の遂行が困難となることのないよう国立大学の財政基盤が確保される必要がある。なお、これに関連して、文部科学省及び関連省庁の間の円滑機動的な連携の必要性についても指摘しておきたい。

(2)国立大学の自主性・自律性と大学の自治
 平成13年6月1日の国立大学協会会長の記者説明において、国立大学が国の行政機関の一部とされていたことから生ずる教育研究上の不要な制約を取り除き、明確な責任体制のもとで、大学の運営・活動について自主性・自律性さらには柔軟性を拡大することが法人化の重要な課題であると述べられている。中間報告は、学内組織や学内予算、さらには業務・人事制度等において大学の裁量や創意工夫の余地を拡大する方向を打ち出している。最終報告においても、この方向を堅持し、文部科学省等による事前規制を大幅に緩和し大学の裁量を質的に拡大して、個々の大学の創意工夫に基づき、その教育研究活動の高度化と活性化が図られるよう制度設計がなされるべきである。
 なお、中間報告は、法人化後の国立大学像の設計に当り、「国民に支えられ、最終的に国が責任を負うべき大学にふさわしい法人像との調和を図りながら、大学としての自主性・自律性が十分に尊重される制度」(P.3)とする方向を示している。一部において、「学問の自由・大学の自治」の強調により、社会の批判から隔絶された不透明・不効率な運営等の国立大学にかかる問題が生じたとして、大学の自治を否定するかのような主張もなされているようである。国立大学においても、社会の批判に対して謙虚に耳を傾け、反省すべき点は反省し、改善のための具体的行動を起こす必要がある。しか
し、国立大学が抱える諸問題は大学の自治を否定することにより解決されるわけではない。今後は、社会に開かれた国立大学における自治のあり方を明らかにし、自己責任のもと、そのような大学自治を発展させることを通じて、教育研究の高度化・活性化が実現されるべきである。これが国立大学の「改革と新生」の目的であり、このような観点から国立大学の自主性・自律性の意義を明確にする必要がある。
 京都大学においては、自由の学風のもとに築いてきた伝統を承継発展させ、教育研究の調和的かつ持続的発展を確保するための不可欠な制度的前提として、大学の自治を位置付け、それを大学運営の基本としてきた。最近においては、第三者評価を積極的に取り入れたり、運営諮問会議における意見に十分配慮するなど、社会ないし学外の意見に耳を傾け、社会と連携し、社会に開かれた大学となるため真摯に自主的・自律的な改革に取り組んでいる。また、教育研究さらには大学運営についても透明性を高める努力をしており、情報公開や広報活動は抜本的に改善されつつある。国立大学法人制度については、このような個々の大学の主体的努力を支え、促進するような制度設計がなされるべきである。

(3)大学運営への学外の専門家・有識者の参画
 中間報告において、国立大学は、公的な財政支出に支えられていることを明確に意識して、その使命・機能の確実な実現に向けて努力するとともに、国立大学の運営に社会の意見が適切に反映されなければならないとして、学外の有識者や専門家の大学運営への積極的参画が求められている。
 この学外者の参画には、性質を異にする2種類のものが含まれている。法人化により新たに生ずる業務を適切かつ効果的に遂行するため、学外に専門家を求めることが必要となる場合がある(能力補充目的の学外専門家の登用・経営参画)。他方、国立大学のアカウンタビリティや社会の意見反映の面で強調される学外有識者の参画は、大学と社会との連携強化、大学運営、とりわけその経営面に関する学外有識者の意見表明ないし大学運営の公正さと効率性の監督を目的とする。中間報告においては、この区別がややあいまいなようであるが、両者は区別して議論される必要がある。
 国立大学においては、これまで大学の運営面のための学外の人材補充は自由にはできなかった。国立大学法人化のメリットとして、各大学において必要に応じて学外専門家を登用することが可能となることがあげられる。しかし、この必要度は大学ごとに異なるのであり、これを法律上画一的に強制する必要はない。法的な制度設計としては、学外の人材補充を可能にし、それを容易にする制度的手当をすることで十分である。なお、能力補充目的の学外者の参画は、原則として大学運営に携わる常勤役員(さらには専門職能集団としての職員)に学外者を登用することを意味する。これはいわば学外者の内部者化であるが、役員については、最長6年の任期付採用となることが予想され、適切な人材確保の問題がある。また、中間報告においても指摘されているように、法人化後の事務職員の能力向上や組織の活性化のためには、各大学の自律性が損なわれない形で、法人化後の適切な人事交流の工夫がなされなければならない。理念的には、効率的な役職員市場が形成され、そこから各大学がその責任において適任者を採用できることが望まれるが、今後なお、移行過程の措置も含めて、学外者の登用ないし人事交流について、現実的かつ適切な制度設計に向けて検討される必要がある。
 新時代の国立大学には、透明性を質的に高め外部の声を積極的に取り入れることにより、社会に対する説明責任を果たしつつ大学をより開かれたものとし、社会の支持のもとに大学の自主性・自律性を維持・強化できる組織ないし管理運営機構を構築することが強く求められる。このような管理運営機構の構築により、社会に開かれた国立大学の自治の今日的意義を広く社会一般とともに共有し、それを発展させることが可能となるのである。この関連における学外有識者の参画は、能力補充目的の学外役員の登用とは異質のものである。能力補充目的の学外役員は、学長の指揮命令に従い日常的に業務を遂行するが、ここで問題とされる学外有識者は、学長から独立して大学運営の公正さと効率性をチェックし、また、戦略的な大学運営について提言をなし、かつ学内調和ないしコンセンサスの形成に貢献することが期待されるのである。このような学外有識者の参画を義務化することには合理性が認められる。しかし、この場合は、非常勤形態が原則となることにも留意して、導入形態は柔軟なものとすることが妥当であり、それがまた自主性・自律性の尊重と競争的環境の実現という法人化の趣旨にも適合するのである。

(4)全学的意思決定と学長のリーダーシップ
 中間報告は、国立大学の「経営面での学内体制を抜本的に強化するとともに、学内コンセンサスの確保に留意しつつも、全学的な視点に立ったトップダウンによる意思決定の仕組みを確立することが重要である」(P.5)と述べている。これまでは、全学的戦略判断と一部の部局の意見が相違するとき、その調整に手間取り、機動的かつ円滑な大学運営に支障が生ずることがあったとして、学長の強いリーダーシップと経営手腕の発揮に大きな期待が寄せられるのであろう。
 学長は、大学の代表者として、対内的対外的な大学のシンボルとなり、また役員組織を束ねそのまとめ役となることが期待される。特に法人化後においては、予算の配分のほか、全学的な中長期的戦略の策定やダイナミックな大学組織の改編、さらには、既存の部局の枠を越えた教育研究組織の再編等において、学長はリーダーシップを発揮しなければならない。しかし、教育研究の目的と方法については、各学問分野の間において大きな差異があるので、教育研究の高度化・活性化を推進するためには、各専門家集団の自主的な運営が基礎とされる必要がある。さらに、上述の基本的経営事項は、教学にもかかわるものであることにも留意すべきである。
 また、リーダーシップとトップダウンは同義ではない。学長は、リーダーシップを発揮して、大学運営についての基本的戦略にかかる全学的合意を形成し、これを適切かつ円滑に実現するよう努力しなければならない。とりわけ、大規模総合大学の学長には、部局ごとに異なる教育研究の使命や目標を不断に検討して、部局の自主的・自律的な教育研究活動の高度化・活性化を積極的に支援するとともに、大学全体が取り組むべき社会的使命や課題について全学的合意を説得的に導く戦略的運営能力が求められる。しかし、これは専断的なトップダウンによる意思決定とは異質のものであることに留意されるべきである。
 なお、学外有識者の参画には、このような学長のリーダーシップを支えるとともに、これを適切にチェックする機能を担うものとして構想されるべきである。

(5)評価と資源配分
 中間報告は、「第三者評価に基づく重点投資システムの導入など競争原理の導入や効率的運営を図りつつ、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援を拡充する」(P.2)ことを提言し、「厳正かつ客観的な第三者評価のシステムを確立し、各国立大学の教育研究の実績に対する検証を行うとともに、評価結果に基づく重点的な資源配分の徹底を図るべきである」(P.5)ことを強調する。このような考え方に基本的に同意することができるが、「厳正かつ客観的な第三者評価のシステム」の具体的内容についてはなお検討を要する。
 大規模総合大学、とりわけ、世界のトップレベルの総合大学に対して、どのような観点から大学評価がなされ、その評価結果がどのように資源配分に反映されるのか、なお不明確であり、慎重な検討がなされる必要がある。中間報告によれば、中期目標と中期計画の達成度評価が重視されるようである。国立大学の中期目標・中期計画は、国が策定するグランドデザインや政策目標、さらには、国立大学が策定する基本理念や長期目標等と総合的に整合した内容のものとなるが、そのような中期目標の達成度とはどのようなものとして理解されるのであろうか。また、その達成度評価は数値(客観的デー
タ)を基礎になされるようであるが、これが「厳正かつ客観的」評価を意味するのであれば、大いに疑問である。とりわけ、中期目標を低く設定することにより高い達成度を実現しようとするといったことも起こりかねず、結果として大学評価システムが大学の持続的な質的向上にマイナス要因となることも懸念され、このようなことのないよう配慮されなければならない。
 そもそも、計量化されたデータだけでは真に客観的かつ適切な大学評価はできないことが強調されるべきである。とりわけ、教育は中長期的視点において行われ、6年程度で成果が結実するわけではない。伝統ある総合大学における現在の高度な教育水準を維持することそれ自体に十分価値が認められる場合もある。学部教育と大学院教育、文系と理系の間で、評価の基準も異なり、教育においては、画一的な達成度評価はなじまないというべきである。
 さらに、基礎的・萌芽的研究や歴史的文化的研究は、6年を越える期間を要する場合や、当初全く意義はないと考えられていた研究が極めて貴重なものとして後日再認識される場合も多々ある。このほか、若手研究者を萎縮させず、その潜在能力を育み大きく開花させることにも配慮しなければならない。最後に、第一級の研究成果ないし研究水準であればあるほど「達成度」基準により適切に評価することは困難であることが指摘されなければならない。
 中間報告においても、この点を意識して、「大学における教育研究活動の評価に当たっては、計量的・外形的な基準だけでは適切に評価し難い面があることや、教育研究活動の中長期的な視点にも十分に留意すべきである」(P.24)ことが指摘されている。今後、これらの点に十分に留意して制度設計がなされるべきである。さらに、目的が明確なプロジェクト研究に対しては、科学研究費等の競争的資金の制度が確立していることにも留意されるべきである。
 このほか、大規模総合大学においては、しばしば、他大学の研究者との長期的継続的な共同研究が行われている。このような研究の成果は、当該大学の一般的な運営費交付金の算定に反映させることが妥当かは検討を要しよう。

(6)国公私の「トップ30」育成方針
 第三者評価による競争原理の導入と関連して、国公私の「トップ30」育成方針が示されたが、その重点施策の対象が、「科学技術創造立国」の目標を達成しようとする余り、科学技術に偏重し過ぎるのではないかと危惧される。国立大学、とりわけ総合大学が果たすべき社会的使命は、科学技術分野のみならず、文系ならびに理系さらにはそれらの融合領域を含めた広範な分野にわたる教育研究活動を通じて、人間性に富む責任感のある有為の人材を育成するとともに、調和のとれた研究活動により、世界的に卓越した知の創造を行うことである。このような国立大学の社会的使命に鑑みると、時代性を反映する国の政策目標や高等教育・学術研究にかかるグランドデザインと整合する特定分野だけでなく、あらゆる分野に資源配分の機会が与えられるよう公正かつ効率的な資源配分計画と妥当な第三者評価システムが確立されねばならないことを付言しておく。

3.各論的コメント
(1)運営組織
 中間報告は、大学の管理運営機構のあり方については、B案またはC案を中心にそのバリエーションを含めて引き続き検討を行う旨、両論並記する。大学関係者の間ではB案を支持する見解が多数のようであり、これを基本にC案の考え方にも配慮した折衷的なスキームを考えることが現実的なように思われる。
 B案を基本とするときは、審議機関は経営中心の「運営協議会」と教学中心の「評議会」に分かれることとなる。しかし、大学の経営と教学は本来一体的なものであり、経営事項と教学事項を明確に分離することは困難である。「運営協議会」において審議対象となるべき基本的ないし重要な経営事項の相当部分は、教学にもかかわるものとして理解することができよう。したがって、これらを両機関のいずれの権限事項とするかが問題となるが、その際、教育研究を担当する教員により構成される「評議会」においては、固有の教学事項だけでなく、大学運営の基本的事項についても審議されるべきことがまず確認されなければならない。さらに、「運営協議会」を構成する原則非常勤の学外有識者の役割に限界があることに留意すると、「運営協議会」において審議されるべき経営事項を明確化するとともに、両機関で経営関連事項が審議されることにも配慮した制度設計が考えられるべきである。このように「運営協議会」と「評議会」の権限関係の不明確さがB案の問題であるが、少なくとも、教学にかかわる経営事項を「評議会」の審議事項から排除すべきではないこと、および、国立大学の自主性・自律性に配慮して、各大学の裁量を大幅に認めることが妥当であることを強調しておく。
 なお、中間報告は、学長を大学の運営にかかる最終的意思決定者とするが、大きな権限を有し、リーダーシップを発揮すべき学長に対する合理的かつ効果的なチェック機構を設ける必要がある。学外有識者の役割にも期待すべきであるが、「評議会」が主要なチェック・コントロール機能を担うものとして制度設計されるべきである。

(2)監事制度
 監事は国立大学法人の業務を監査するが、「大学における教育研究の特殊性に鑑み、基本的には各教員による教育研究の個々の内容は直接の対象としないことが適当である」(P.9)とされる。国立大学法人の評価に際して、教育研究については、第一次的には、各大学の自己点検・評価を基礎に大学評価・学位授与機構が行うものとされている。また、経営については運営協議会において学外有識者がかかわる。このようなスキームにおける監事の業務監査の意義と機能の整理がなお必要であるが、監事は主として経営事項について監査し、教育研究の具体的内容については監査対象としないこととすべきである。
 また、監事は、監査結果に基づき、必要あるときは、文部科学大臣に意見を提出することができるものとされるが、大学に、その意見に対する異議ないし意見申立権や文部科学大臣に対する監事解任請求権を認めるべきである。

(3)国のグランドデザイン等
 国立大学は、公的な財政支出により支えられる大学として、高等教育や学術研究等の基本理念及びこれを実現するための長期目標を自主的・自律的に策定し、公表する責務がある。他方、国の策定するグランドデザイン等は、長期的なものとはいえ、国際情勢や経済情勢さらにはその時々の政治の動きにより変化するものであり、各大学の策定する基本理念や長期目標とは異なることも考えられる。したがって、国の策定するグランドデザイン等を踏まえて国立大学の基本理念や長期目標を策定するのではなく、むしろ、各国立大学の基本理念や長期目標を基礎になされる中期目標や中期計画の策定に際して、国のグランドデザイン等を参照することが合理的であろう。

(4)中期目標・中期計画
 法人化は、各国立大学の自主性・自律性を尊重し、大学運営の裁量を質的に拡大することを目的とするが、中間報告においては、国立大学の中期目標は各大学が「提案」し、文部科学大臣が「策定」することとしている。これは疑問であり、各大学が中期目標を「作成」し、文部科学大臣が「認可」する方式とすべきである。国際的にも、個々の大学の中期的な目標を大臣が「策定」する国はないと指摘されている。
 「策定方式」と「認可方式」に実質的差異はないといわれる。これについて異論もあるが、実質的差異がないのであれば、以下に述べる理念的観点から、一層強く「認可方式」を採用すべきこととなる。つまり、法人化の理念からは、各国立大学が個性的な中期目標と中期計画を掲げて予算獲得競争をし、実績において切磋琢磨しあうことが期待される。とりわけ、学外有識者の意見にも配慮して、各大学において中期目標が作成されるのである。それにもかかわらず、大学は中期目標を提案できるだけであり、文部科学大臣がこれを策定するという制度設計は、「社会に開かれた国立大学」の自治の理念から問題となる。また、「策定方式」は、独立行政法人通則法に依拠するもののように推測されるが、そうであれば、文部科学大臣の策定した中期目標をさらに総務大臣が認可することにならないかも危惧されよう。独立行政法人制度とは異なる国立大学法人制度を創設しようとするときは、この点が最も重要な論点となる。
 なお、法理論上、文部科学大臣に策定権限が留保されるときは、大学の意思が全く反映されない恐れがあるが、認可方式においては、不当な認可権の行使に対して、法的救済の認められる余地がある。要するに、「策定」は上意下達の関係を意味するが、「認可」においては、申請者と認可権者の間の交渉が制度的に観念されるのである。
 国立大学の自主的・自律的判断を尊重する立場を強調するときは、中期目標・中期計画のいずれについても、各国立大学が文部科学大臣に届け出て、問題があると認めるときに、例外的に文部科学大臣がその内容に関与する「届出・報告方式」を採用することも考えられる。しかし、組織の改編等に法令上の措置が必要であるほか、財務面で国の予算措置に依存する国立大学法人にあっては、法令の整備や予算措置との関連において、文部科学大臣の認可ないし事前承認制度に合理性が認められる。「認可制度」をこのように理解するときは、中期目標と中期計画の記載事項は、原則として法令・資源配分関連事項に限定されるべきこととなる。このような基本的視点に立って、中期目標・中期計画の記載事項とそれに対する文部科学大臣の関与形態について整理されるべきである。

(5)目標評価システムその他の問題
 中間報告は、第三者評価システムとして、教育研究にかかる大学評価・学位授与機構による評価を基礎に、国立大学評価委員会が大学全般の評価を行うこととしている。この国立大学評価委員会と大学評価・学位授与機構が、適切にその機能を担うことが決定的に重要となる。したがって、両機関がそれぞれ適切な組織構成と権限・責任を有するように制度設計されるべきである。とりわけ、大学評価・学位授与機構については、抜本的に組織改編される必要がある。
 また、法人化後の国立大学は、6年ごとに中期目標と中期計画を提案または作成し、大学評価・学位授与機構と国立大学評価委員会の評価を受けるとともに、中期計画に基づく年度計画を定め文部科学大臣に届け出て、さらに、各年度の業務実績について国立大学評価委員会の評価を受けなければならない。このうちとりわけ、各年度の業務実績評価については、その現実的意義に比して、各大学と国立大学評価委員会の両者に大きな負担を課すことにならないか危惧される。これを年度ごとの業務実績報告制度とし、特に問題となる事由があるとき、その旨指摘し、必要な措置を講ずることで足りるのではなかろうか。

(6)教員等の選考
 中間報告は、「憲法上保障されている学問の自由に由来する『大学の自治』の基本は、学長、役員、部局長、教員(以下『教員等』という。)の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである。教員等の任免、分限、服務等に関しては、このような考え方を新しい大学の運営体制の下でも適切に取り入れた基準、手続により行う」(P.30)とする。最終報告においても、この立場が堅持されるべきである。とりわけ、研究の高度化・活性化のためには学問研究の自由の確保が不可欠であり、この関連において教員の身分保障に十分に配慮した制度設計がなされるべきである。
 各大学においても、中間報告の理念を基礎に、社会の批判に耐えうるような独自の工夫や方針を定めることが必要となる。特に、社会に開かれ、社会の支持のもとに大学は運営されなければならないという理念にも留意して、学長の選考基準・手続きが定められるべきである。
 教員人事についても、中間報告にあるように、公募制や任期制を積極的に導入するとともに、選考委員会に学内外の関連する分野の教員の参加を求めたり、学外の専門家による評価や推薦を求めて参考にするなど、選考過程の客観性や透明性さらには公正さを高めるため様々な工夫をなすことが要請されよう。しかし、具体的な教員の任免については、現在と同様、部局教授会の議に基づいて行われるべきである。部局長の選考についても基本的に同様である。
 なお、形式的なことであるが、中間報告は、「他の役員、部局長の選考方法等」として、副学長その他の役員と部局長の選考についてまとめて記述する。しかし、大学内部における役員と部局長の役割は質的に異なるのであり、これらは別個に記述されるべき
であろう。

(7)職員の身分
 職員の身分を公務員型・非公務員型のいずれにするか、大学の選択制も含めて3案併記されている。現在、公務員制度の抜本的改革が問題となっており、その帰趨にも配慮しなければならないが、これは各大学の特色や個性を伸ばし、大学における教育研究機能の強化になるような柔軟な人事制度をどう確保するかという観点から検討されるべきである。

(8)国立大学法人にかかる会計制度
 国立大学法人の会計は、対外的には国立大学法人のアカウンタビリティの査定に役立つ制度として、対内的には教育研究活動の活性化と業務の適正な管理運営に資する制度として設計される必要がある。
 国立大学法人のあるべき会計制度を設計するに当り、国立大学法人の資金調達および業務内容の特性が十分に考慮されなければならない。国立大学法人の会計制度を設計するに当っての参考事例として、企業会計基準、学校法人会計基準、独立行政法人会計基準が引き合いに出されているが、いずれの会計基準もそのままの形で国立大学法人に適用することは不適切というべきである。
 国立大学法人の会計は、国立大学法人の期末の財政状態を表示する貸借対照表、経済資源の期間発生高と期間消費高を表示する損益計算書、資金の期間収支を表示する資金計算書(キャッシュフロー計算書)の3つを基本財務諸表として含むものでなければならない。しかも、国立大学法人の業績評価に当っては、損益計算書に計上される期間損益差額をもって直ちに主要業績指標とするのではなく、各数値のバランスが総合的に検討されなければならない。資源の経済的運用という観点からは、資源の期間消費高(コスト)の適切な把握と分析が重要となる。
 国立大学法人の会計に要請される以上のような諸特徴から判断すれば、上記3種類の会計基準のうち、独立行政法人会計基準が最も現実的な参考事例となるであろう。いずれにせよ、法人化後の国立大学の円滑な運営を促進するような会計制度の整備が不可欠であり、その制度設計に当っては、規制緩和と大学の裁量範囲の拡大により大学改革の推進に資するという法人化のメリットを追求する立場をとる必要がある。

(9)運営費交付金等
 「寄附金等」のうち少なくとも「寄附金」の見込額や使途については、これを中期計画から切り離し、大学の自主的判断により機動的に取り扱えるような仕組みにするべきである。また、剰余金の使途を「あらかじめ中期計画において認められた使途」に限定するのではなく、中期計画から切り離した自主財源としても運用できるようにするべきである。
 さらに、各大学の基本理念や長期目標を達成するために、剰余金や寄附金等を、大学独自の奨学金、研究費補助金、設備整備費等に利用可能な基本金に組み入れる基本金組入会計制度(基本金制度)を導入・整備する必要がある。これは、自主的・自律的な大学運営という理念に照らしても望ましい制度であろう。この基本金制度に類似した制度は学校法人会計基準に見られるものであり、この点に関しては、学校法人会計基準が、あるべき国立大学法人会計制度を設計する際の有用な参考事例となるであろう。
 なお、運営費交付金においては、教育を長期的・安定的に展開し、かつ基礎的・萌芽的研究や歴史的・文化的価値の高い研究等を支える、評価に直接関連しない「外形標準」運営費交付金の枠組みも設けるべきである。さらに、国立大学の評価においては、それに期待されている教育及び研究水準ないし実績が、国際基準に照らしてどのレベルの到達度にあり、それが維持されているかどうか、それが向上する方向にあるか、あるいは低下する方向にあるかについて、概括的に評価し、基盤的運営費交付金については、安定性を重視して特段の事情のないかぎり原則維持することとし、特段の事情があるときは、増額ないし減額されるといったスキームを採用することが妥当であろう。

(10)附置研究所等の教育研究施設
 多様な科学分野からなる学術・研究分野の中枢機関として、附置研究所等の組織、機動力を従来以上に充実させることが極めて重要であるが、中間報告は、大学共同利用機関については議論しながら、国立大学法人内での附置研究所やセンターの役割をどのように考え、また財政的処遇をどのようにするかについて、ほとんど言及していない。
 学部や研究科とは設置趣旨が異なる附置研究所等の教育研究施設に対する運営費交付金の算出・配分の基準や方法は明確になっておらず、最終報告においては、これら教育研究施設の特質に配慮し、財政基盤の安定につながる制度設計がなされるべきである。
 なお、これらの教育研究施設は、当該大学のみならず全国の大学並びに研究機関に対しても、広く共同利用に供する使命を担っているものも多く、このための人的・物的資源を保持しているとの観点に留意する必要がある。とりわけ、学生数等の指標に基づくとされる標準運営費交付金の算出に当っては、むしろ教職員数等の客観的な指標が重視されるべきである。さらには、客観的な指標によることが困難な特定の事業に対する特定運営費交付金による予算措置と配分が可能となるよう検討されるべきである。