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『朝日新聞』2001年10月20日付 私の視点 ウィークエンド

◆奨学金 安心して研究できる制度に

 榎木英介 神戸大学医学部4年生

 小泉内閣の構造改革は、科学研究の分野にも急速な改革を求めている。特殊 法人改革の一環として、日本育英会の統廃合が議論されているが、その中には 奨学金制度の縮小案も盛り込まれており、研究者をめざす若手や大学院生に強 い衝撃を与えた。
 その内容は、無利子奨学金の絞り込みと、有利子奨学金回収の民間への委託、 また特定の研究職へ就職した場合の返還免除規定の撤廃などからなる。これは、 日本の科学研究の将来に、大きな負の影響をもたらすのではないか。
 奨学金問題が議論されると、勉強せずに遊んでばかりいる学生に奨学金を出 す必要などない、という意見が出る。しかし日夜研究に励み、日本の科学研究 を支えている大学院生を、そうした学生と同列に論じてよいのだろうか。  大学院生は、厳しい経済状態に置かれている。日本育英会の奨学金を受けて いる場合でも、貸与額は月10万円前後であり、生活費と授業料を捻出するには 苦しい。研究時間を削ってアルバイトをするか、親からの経済援助に頼らざる を得ない。また、大学院終了まで貸与を受けると、多い場合で貸与総額は600 万円を超える。
 私が主宰している、研究者・大学院生など約1千人が参加するインターネッ ト上のサークルには、不況の影響で返還が大きな負担になり、かつて奨学金を 借りたことを後悔する悲痛な声も寄せられている。このままでは、経済的に余 裕のある家庭の学生しか大学院に進学できなくなり、優秀な人材が科学研究を 敬遠するのは必至である。
 こうした状況を外国の研究者に話しても、なかなか理解してもらえない。欧 米諸国では、大学院生に給与奨学金を払うこともめずらしくないからである。 例えば米国で学ぶ人の話では、大学によって事情が異なるものの、年間2万ド ル(約240万円)程度は支給されるという。ところが日本では、研究に貢献して いるにも関わらず無給で、学費まで払い、20代後半になっても親から経済的に 独立できない人もいる。
 日本政府もこの点を問題視はしており、先に経済財政諮問会議が示した改革 工程表をめぐる議論では、大学院生への経済的支援の充実、給与奨学金の導入 などが検討事項にあがっている。しかし、かけ声ばかりで具体像が一向に見え てこないばかりか、現実には奨学金の縮小につながりかねない案の方が先行し ているのだ。
 科学技術創造立国を掲げる国が、なぜ将来の科学を担う人材に対し、冷淡で いつづけるのだろうか。いま必要なことは、返済しないですむ奨学金制度を充 実させるなど、研究環境の抜本的な改善である。

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☆奨学金 安心して研究できる制度に
  2001.10.21 [he-forum 2728] 朝日新聞10/20
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