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☆「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」についての見解(全国大学院生協議会理事校会議)
  200110.29[reform:03820] 全院協の見解
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全院協(全国大学院生協議会)の議長の浜田です。初めて投稿します。


中間報告の見解をまとめ、文部科学省のパブリックコメントに提出しましたので、ご 紹介します。マスコミや各政党にも送付しました。


----「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」についての見解


2001年10月28日 全国大学院生協議会理事校会議


 国立大学の独立行政法人化について、昨年7月以来検討してきた文部科学省の調

査検討会議から、9月27日、「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」が
出された。
 私たち全国大学院生協議会は、機会あるごとに、独立行政法人化が公教育の縮小に
つながり、大学の教育・研究に重大な影響を与えかねないとの懸念から反対を表明し
てきた。また、独立行政法人化が大学院生に与える影響を、(1)公教育の縮小と学
問の質の低下、(2)学内における民主的合意形成プロセスの崩壊、(3)学費の高
騰、(4)大学院生の進路就職問題の深刻化、(4)大学間、専攻・研究科間の勉学研
究条件の格差拡大と公立・私立大学の勉学研究条件への悪影響 などの点で明らかに
してきた。そもそも、独立行政法人化は、教育改革の観点から出されたものではな
く、行政改革の一環として出されてきたもので、当初は当時の文部省でさえ、「大学
の教育研究が経済的な効率には必ずしもなじまない」(1997年町村文部大臣、国立大
学協会第101総会での発言)として反対していたものである。
 
 第一の問題は、効率重視の「評価」を大学の研究・教育に導入して、公教育を縮小
化しようというものである。中間報告によると、各大学の中期目標(原則として
6年)を文部科学大臣が策定し、文部科学省の国立大学評価委員会(仮称)が各大学
ごとに中期目標の達成度を評価する。その結果を次の中期目標や運営交付金の配分に
反映させることになっている。国が学問の評価に介入することで、短い期間で「成
果」の出にくい基礎研究や、社会科学系の研究の衰退が危惧される。大学院生のさら
なる勉学研究条件の悪化にもつながりかねない。
 
 第二の問題は、大学の組織形態として学長の「リーダーシップ」「経営手腕」を重
視し、トップダウンによる意志決定の仕組みを作ろうとしている点である。これで
は、学生・院生による大学内の民主的な合意形成プロセスが崩され、自治が形骸化さ
れるおそれがある。
 
 第三の問題は、学費の高騰と研究科間・大学間での学費の格差の拡大である。「中
間報告」の中で、学費が一定の枠内で大学ごとに決められることが明記されているこ
とは、学部間格差・学費の値上げに道を開くものとして見過ごすことはできない。現
在でさえ、高い学費を支払うために、大学院生がアルバイトに追われ、研究の時間が
十分に取れないという声が数多く寄せられている。長引く不況下での親の収入の減少
も、大学院生の経済条件を厳しくしている要因である。以前なら盛んに行われていた
院生同士の自主ゼミも、最近ではお互いがアルバイトで忙しくなって、議論する機会
がない。院生同士の切磋琢磨は、よりよい学問を生み出していく上で不可欠であるに
もかかわらず、その条件が失われつつあることは由々しきことである。
 第四の問題は、大学院生の進路・就職の問題の深刻化である。大学院重点化で、こ
の10年間の間に大学院生は10万人から20万人へと倍増したが、研究施設・条件の整備
は遅れている。また、研究職への就職難も深刻である。研究者養成を目的とした日本
学術振興会の「ポストドクター等一万人計画」は、年々増加して2001年度現在で総数 4520名(博士課程在籍者2966名、博士課程修了者1554名)の規模に達しているもの
の、依然として目標の一万人に遠く及ばないばかりか、若手研究者全体(例えば、博
士課程在籍者は4万人強)からみれば、ほんの一握りの人数である。しかも、ポスト
ドクターの任期が終わった後の出口がない、いわば、若手研究者のフリーター化では
ないか、という指摘の声が、大学院生の間から上がっている。
 現在、独立行政法人化をにらんだ「遠山プラン」に基づいて、大学の再編・統合の
議論が盛んであり、これによる教職員の削減および非常勤講師の増大への不安は現実
化しつつある。「中間報告」では、任期制の積極的導入もうたわれており、定職への
雇用不安を増大させている。さらに、特定の学問分野・大学への偏重とその他の学問
分野・大学の切り捨てなどにより、若手研究者の就職口はますます狭まることが懸念
される。
 
 第五の問題は、大学間、専攻・研究科間の勉学研究条件などの格差の拡大である。
研究業績の評価によって大学への予算配分に格差が付けられるのであるから、国立大
学間の勉学研究条件に格差が現在以上に広がるであろう。
 また、独立行政法人化は、国立大学のみならず公立・私立大学にも悪影響である。
例えば、中央大学は、自校で研究者を養成する目的で、大学院生(社会人院生を除
く)の学費は国立大学と同じ額に抑えてあるが、国立大学の学費が大学毎に自由化さ
れれば、当然、学費値上げが懸念される。東京都立の4大学では、国立大学の独立行
政法人化と連動して、独自の統廃合計画や法人化が検討され、東京都立大学では夜間
部が廃止されようとしている。
 
 全体として、「中間報告」には、学生・大学院生の諸権利や、勉学研究条件を改善
する方向での検討がなされた形跡はほどんどなく、業績評価や大学運営(人事・財政
など)に関して、いかに国が大学への管理と関与を強めるかという事について、大部
分の紙面を割いてつづられている。
 この方向では、国立大学だけでなく、公立大学や私立大学を含めて、日本の高等教
育への国の責任を衰退させ、憲法が定める「学問の自由」と、それを保障する「大学
の自治」を崩すものである。私たち全国大学院生協議会は、大学院生の勉学研究条件
の向上を願う立場から、「中間報告」のうたう国立大学の独立行政法人化には断固反
対し、検討の撤回を求める。


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浜 田 盛 久  morihisa@magma.eri.u-tokyo.ac.jp
東京大学地震研究所地球ダイナミクス部門
(理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士課程2年)