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☆「新しい「国立大学法人」像について(中間報告)」に対する意見書
  2001.10..29 [he-forum 2778] 阪大教職組の意見書

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阪大教職組は本日、下記の意見を文部科学省に送付しました。

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文部科学省調査検討会議
「新しい「国立大学法人」像について(中間報告)」に対する意見書


       2001年10月29日

        大阪大学教職員組合
はじめに
 文部科学省の国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議(以下「調査検討会議」と略す)は9月27日に「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」(以下「中間報告」と呼ぶ)を公表されました。
 本組合は、21世紀における高等教育と大学のあり方について、学内構成員とともに幅広い議論を重ね、「大阪大学憲章(案)」(別添)としてまとめ、その立場から今回の「中間報告」を検討してきました。


 この「中間報告」は、国立大学協会はじめ多くの大学人が否定している「独立行政法人通則法」の枠内をでるものではなく、「中間報告」の考え方によって国立大学等が法人化されれば、教育と研究に対する国家統制の道が開かれ、憲法で保障されている学問の自由と大学の自治が奪われ、高等教育のみならず日本の社会の発展にとって重大な禍根を残す結果になると考えます。


 特に、ここに描かれている「国立大学法人」像の最大の欠点は、「21世紀の大学像」や「国立大学の使命」などの理念についての考察が足りないまま、「国のグランドデザイン」に従って如何にスリムで効率的な大学に変貌させるかに大きな力点がおかれていることです。


 これは、「中間報告」が何の理念もないままに行政改革の一環として大学を捉えていることから見れば当然の帰結といえます。


以下に「中間報告」の重要な問題点にしぼって意見を述べます。


1.21世紀の大学と高等教育のあり方、理念について
 大学とは、個人の尊厳を重んじ、真理と世界の平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を目指す教育を行う場であると考えます。そして「知の世紀」といわれる21世紀の大学・高等教育機関の使命は、「戦争の世紀」といわれた20世紀の総括の上に立って構築されなければなりません。それは、持続可能な社会が国際的に合意され、「絶対的生命観」の価値の確立のために、環境・平和・人権を教育の基本とし、その具体的方策を世界に発信することは大学の責務であることだと考えます。


 大学がこのような責務を果たすためには、「学問の自由」と「大学の自治」および学生の「教育を受ける権利」が保障されることが必要です。
 しかし、「中間報告」にはこのような視点がみられず、「競争原理主義」のもとに「国のグランドデザイン」に沿って「国際競争力」を如何に実現するのかという観点からの「大学改革」の方策を羅列しているにすぎません。

2. 大学の自主性・自律性を押さえ、学問の自由と大学の自治を否定していること。
1)「中間報告」では、「1.基本的考え方」の前提3で「およそ大学の教育研究活動は、大学の設置形態に拘わらず、教育研究者の自由な発想や、大学人自身による企画立案が尊重されることによって、初めて真に実りある展開と発展が見られるものである。」と述べています。
 しかし「組織業務」や「目標評価」などの各論ではこの考え方とは逆に、大学の中期目標や計画は「国のグランドデザイン」にしたがって文部科学大臣が認可する制度になっていること、学内組織についてトップダウンの体制を推進するとしていること、さらには多数の学外者が大学の運営にかかわるようになっていることなどから考えると、教育と研究の「自主性・自律性」を担保しているとは考えられません。 
 調査検討会議は、憲法が「学問の自由」を保証し、教育基本法において「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われる」と規定していることを真摯に受け止め、大学等高等教育機関の独立を担保するよう「中間報告」を再検討すべきと考えます。

2)「中間報告」がいう人事制度は、特に学長選考や教職員人事等に学外者の無限定の参画を可能にしていることや、教育公務員特例法の適用を避けるなど、これまで少なくとも「学問の自由」と「大学の自治」を担保してきたシステムを等閑視していることも重大な問題点だと指摘せざるを得ません。   

3.競争原理主義を導入し、業績評価と資源配分を直結させては大学の「知の生産」は停滞します。
 「競争原理主義」のもとで、業績評価と資源配分さらには個人の直接に給与・待遇にむすびつけられたとき、そこに働く力は「中間報告」が期待する教育研究の活性化ではなく、他人に勝つために秘密主義、排他主義が蔓延する結果に容易に結びつきます。このような事態は、「中間報告」が望んでいる方向とは逆の世界であると考えます。
 大学等における「知の生産」は、自由闊達な議論が旺盛におこなわれ、その中でお互いに知識を深めることで前進するものです。


 「中間報告」が述べる「競争」は、ある一定の目標(国のグランドデザイン)に沿った計画を達成させるためのもので、ある特化した一部の分野(技術開発)では成り立っても、多様な学問分野と価値基準のもとで存在している大学では成り立つものではありません。


 そもそも大学の教育・研究は、それに携わる大学人一人一人が学問的真理であると確信する価値基準にのみべきものであり、「第三者評価機関」の顔色をうかがいながら進めるようなものであってはならないと考えます。
 結局のところ、この第三者評価結果による予算の傾斜配分は、大学の教育・研究を時の政府に都合がいいようなものに変質させてしまうこと以外の結果をもたらさないでしょう。国が財布のヒモを握って、大学を国の政策に奉仕する機関にしてしまおうとするものだと言わざるを得ません。
 さらに付け加えれば、先に述べた「秘密主義・排他主義」が横行し、他人を敵と見なす大学では、教育基本法で謳われている「国民の育成」は不可能であることは明白ではないでしょうか。

4. 任期付き雇用や短時間雇用などの不安定雇用の拡大を意図していること。
1) 「中間報告」は、「任期制の積極的導入」や「ワークシェアリング」「裁量労働制」「任期付教職員の採用制度」などの導入を強調していますが、大学・高等教育機関を維持・発展させ、その使命を果たしていくための重要な要素のひとつが人材(教職員)であることはいうまでもありません。そのためには、教職員の身分が安定的に保障されるとともに、待遇や勤務条件についても「健康で文化的な生活」が保障される必要があります。
 しかし、「中間報告」にはこれらの視点が欠如しています。ユネスコは、「高等教育教職員の地位に関する勧告」では、雇用保障について「終身在職権及びそれと同等な適用可能な権利は、学問の自由の主に手続き的な保護手段のひとつであり、恣意的な決定に対抗するものである。それはまた、個人の責任を助長し、有能な高等教育教職員を確保するものである」と指摘しています。
 調査検討会議は、上記ユネスコ勧告の立場に立って人事政策を論ずるよう「中間報告」を再検討されるべきです。


2) 任期制について「中間報告」は、「積極的導入」を謳っています。しかし、1997年に制定された「大学の教員等の任期に関する法律」は、当該大学の判断で導入する選択的限定的な任期制であり、付帯決議で「任期制の導入によって学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の精神が損なわれることがないよう充分配慮するとともに、いやしくも大学に対して、任期制の導入を当該大学の教育研究条件の整備支援の条件とする等の誘導等を行わないこと」としています。
 このことからすれば、任期制促進の「中間報告」の姿勢はきわめて問題だと考えます。

3) 任期付き採用や短時間雇用など、不安定雇用を無原則に取り入れることが、ユネスコ勧告の趣旨に反して教職員の生活基盤を奪い、安心して職務に就くことを妨げることになりかねません。
 大学ではこれまでの定員削減によって、事務組織を中心に教育研究活動の支援体制が崩壊の危機に瀕しています。それを支えるために、教職員の長時間労働が蔓延し、これまでの定員削減数に匹敵する非常勤職員が生み出されています。 これ以上の定員削減と不安定雇用の増大を避けなければ、大学・高等教育の将来は非常に危ういといわなければなりません。

おわりに

 上記のような問題点が指摘できる「中間報告」は、国民の負託に応え得る大学を構築する立場と完全に乖離していると考えられ、容認できるものではありません。
 調査検討会議は、大学の役割を近視眼的な思想で限定することなく、以上の意見を考慮され再検討されるよう強く要望します。
                                          以上
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(別添)


大阪大学憲章(案)

1.大阪大学憲章の考え方
 われわれ大阪大学の構成員はこれまで高等教育のレゾン・デートルについて語りあうことを怠っていました.金の分捕り合戦と堕した今回の法人化をめぐる右往左往も、結局は大学が護るべきものを確固たる信念をもって国民に説明できなかったことに起因するのではないでしょうか.では21世紀の高等教育機関はいかにあるべきなのでしょうか?
 ハウツーでなく、全ての教育活動の根底となる「立場」をまず確立しようというのが大阪大学憲章制定運動です。
 アウシュビッツ、南京、そしてもちろんヒロシマ・ナガサキ、多くの悲劇で綴られた20世紀の反省の上に、高等教育が為すべきことは、まず第1に「戦争の世紀」を総括し人間の生命の絶対的な尊厳の確立を目指すことです.そのために、20世紀に飛躍的進歩を遂げた科学の成果を一層深めることです。
 そして第2には、新世紀の世界的課題を解決することです.つまり、貧困、飢餓 、不寛容などに加えて、その存在が明らかになったばかりの「持続可能な社会」の建設に向けての科学と技術の研究・教育が必要となります.そのために、国の施策にも積極的に批判をしていかなければなりません。
 われわれ大阪大学の構成員は、守旧的な単なる伝統科学の伝承者・徒弟的「たこつぼ」研究者、あるいはその単なるサポート役であることに満足せず、みずからの研究・教育の意義を上記の「立場」に照らして位置づけてはじめて、主体的な実践者として「地域に生き世界に羽ばたく」ことが可能となるのだという共通認識を築こうとしているのです。

2.大阪大学憲章(案)

 大阪大学は地域に生き世界に羽ばたく知的共同体として、真理の探究とその成果の応用によって人間生活を豊かにするという歴史的・社会的使命を貫徹するために、教育と研究の理念を定め、構成員が自ら負う社会的責任を国民の前に明らかにし、高等教育機関としての任務を遂行する。
 人間の生命の尊厳を真に発展させる「知の体系」を具体的に確立し、科学が人間に及ぼす否定的な面を制御し生態系の維持と人間の限りない生存を保証するために、大阪大学は、人文科学、社会科学、そして自然科学の統一的発展を目指し、社会と自然に関する高度な教育と研究をすすめるとともに学術成果を次世代へ継承する。
1.社会的使命
 1)世界平和の達成のために社会的正義を自ら体現できる健全な市民を養成する
 2)高度な科学と技術の教育と研究を通じて地域の発展に寄与する
 3)アジアにおける学術・技術の交流と協力、および教育的連繋を推進する


2.教育と研究の目標
 1)基本的人権の理解を深化させ、その実践を目指す
 2)「持続可能な社会」論を深く研究し、その具現化を期す
 3)概論教育を徹底し、高度な専門教育と研究の調和的発展を目指す


3.教育と研究の体制
 1)企画・立案、実施・評価を自ら実行し、公的財源の下で自律できる機関を実現する
 2)基礎的学問分野と応用的学問分野の発展の均衡に配慮する 
 3)教養教育の場において人文・社会・自然科学の横断的展開を図る
 4)立法・行政・司法の三権と独立した立場で社会に貢献するために、教育と研究の自由を確立する


4.大学運営のあり方
 1)構成員の自律性や自発性を保証する確固たる自治財源と組織を構築する
 2)大学の決議機関として評議会をおく
 3)評議会は、大学構成員の経営参加を鼓舞し、教育目標や大学運営上の重要な決定に学生・教職員の意志を反映させるために、教授会・労働組合・学生自治会参加の下に全学協議機関を設置する
 4)教育と研究を自己点検し、結果を公表する
以上


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  神代 万亀夫 Makio Kamishiro
 大阪大学大学院基礎工学研究科  物理系専攻 電子光科学分野
  TEL/FAX:06-6850-6311
 kamisiro@sup.ee.es.osaka-u.ac.jp
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