『朝日新聞』2001年10月25日付
迫る荒波 揺れる国立大 文科省の改革プラン
98校の本社調査
国立大学の「構造改革」が進もうとしている。当事者の大学は、この流れをどう受けとめているのか。朝日新聞が99の国立大学のうち98校の学長らから回
答を得た調査結果では、「荒波」を前に身構える国立大学の姿が浮かぶ。「トッ
プ30」と再編統合についての意見をまとめた。
「小さい大学やせ細る」「競争で活性化」
●トップ30
国公立、私立を問わず、大学院を持つ大学を対象に、10分野でそれぞれ30大学を選んで予算を重点配分する「トップ30」。
「反対」は98大学中29校。「小規模大学がわりを食わされるのではないか」
「大規模な有力大学を優遇するだけではないか」との見方が強い。
大阪教育 「小さい大学はやせ細る」
東京農工 「(トップ30は)旧帝国大学プラスわずかな大学に限られる」
大阪外語 「大学院のないところは評価対象にならない、という発想がおか
しい」
大学間の新たな「序列化」と、その弊害を指摘する声も多かった。
鳥取 「大学名のレッテル張りになる」
神戸 「ランク付けのデメリットが大きい」
浜松医科 「優秀な教授や学部が順位の前に埋もれる」
「どちらとも言えない」と回答した35校の中にも、「かけ声ばかりが先行している」「自然科学偏重だ」など批判的な視点も少なくない。
東京商船 「中身がはっきりせず不信感が芽生えた」
福島 「自然科学系の研究大学に偏向している」
京都教育 「教育の分野は理系のように目に見える研究成果が出ない」
福井医科 「30の根拠がわからない」
「賛成」と答えた33大学の多くが理由に挙げたのは、この方針によって「競争」が促進される、という点だ。
岡山 「国際競争力をつけるという理念には賛成」
大阪 「競争原理が働く」
香川医科 「競争原理の導入は、教育、研究とも活性化させる」
そのうえでなお、注文をつける大学もある。
群馬 「教育評価なしの論文制作競争は困る」
北陸先端 「30には入れ替えも必要だ」 「理念なければ反対。足腰強化なら賛成」
●再編統合
国立大学の再編統合についての賛否は「どちらとも言えない」が56校で、半数を超えた。立地条件や規模によって大学の立場は大きく異なるため意見もさ
まざまだ。
北海道教育 「理念なき再編統合には反対。大学の基礎や足腰を強化するこ
とには大いに賛成」
東京 「いまのままの高等教育・学術研究が最善とは言い難い。再編統合はそれを発展させる選択肢のひとつ」
滋賀 「内発的な再編統合には賛成。文科省による強制的な基準によるものは問題」
愛媛 「立地が近いだけの再編統合では意味がない。これまでの国立大学の配置はすそ野が広がる効果があった」
「賛成」の33大学は、大学を取り巻く社会構造の変化や、規模拡大の利点を挙げる。「国策だから」という大学もある。
旭川医科 「単科大学では限界がある教養課程などで、(他大学と)連携すれ
ば教育の幅が広がる」
一橋 「私学との競合を考えればスケールメリットの観点が必要。特色のな
い小規模校は統合などを避けられない」
和歌山 「大学の地域性を打ち壊すために積極評価する」
島根医科 「国策だから」 九州 「(再編統合すれば)事務や教職員の人員削減も進み、機能的合理的になる」
鮮明に「反対」を打ち出したのは8校で、大半が単科大学だった。
愛知教育 「われわれは質の高い教師が輩出することで貢献してきた。その観点が抜けている」
大阪教育 「大学がどうあるべきかという議論からの再編統合ではなく、財政効率からの発想だから」
鹿児島 「外部からの指示で再編統合を進めるべきでない」
解説 議論不足 枠組み先行
文部科学省が示した国立大学の「構造改革方針」(遠山プラン)について、今
回の学長の意見は、揺れる現場と、流れにあらがい切れない現状を映す。
「トップ30」は「賛成」「反対」「どちらともいえない」の三つに割れた。
「1県1国立大学の原則」を崩すことにもつながる再編・統合は「どちらともいえない」が6割近くを占め、「賛成」でも条件つきが目立つ。
しかし、再編・統合の動きは、地方大や単科大で着々と進んでいる。国から
独立し、民間的な経営手法を導入する「法人化」を迫られ、組織や財政基盤の
弱い大学は、生き残るため統合相手を探さざるを得ない。
国立大学は長く、閉鎖性や国際競争力の弱さ、硬直化が指摘されてきた。大学審議会が98年、競争、重点的財政配分などを求め、改革の議論は始まった。
「世界最高水準の大学を目指す」という「遠山プラン」も、大きくはその延長上にあるが、事前の議論がないまま突然、再編・統合などに大きく踏み込んだ。理念や具体的な手順は、いまになって省内で後追いで検討している。
議論が不十分なまま、枠組みが先行するのは本末転倒だ。「遠山プラン」に
対し、求められるのは大学自身が将来像を描くことだが、調査では、そうした姿勢はよく見えなかった。
今月、鹿児島大学など28大学の学長が地方大学が地域社会・文化に果たす役割を訴えて、具体的な提案を文科省にした。「構造改革」を進めるには、こう
した動きがもっと広がり、議論を深めることが必要だ。
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