『毎日新聞』2001年10月8日付

 新教育の森
 「構造改革」国立大/加速する再編・統合/29大学が動く/広がる「研究の 幅」利点/来秋スタート「山梨新大学」

 国立大の再編・統合の動きが加速している。文部科学省は6月、「大学の構 造改革の方針」で、全国に99校ある国立大の大幅削減を打ち出した。管理・運 営を効率化するとともに、競い合う機会が少なかった国立大に競争原理を導入 し、教育・研究を活性化するのがねらいだ。こうした動きを先取りし、すでに 近隣の大学との統合を決めた大学もある。同省は来年度中に、再編・統合に向 けた今後のビジョンを報告するように各大学に求める方針で、国立大の合従連 衡はさらに加速しそうだ。【藤原尚美、坂本麻記子】

 山梨大(甲府市)と山梨医科大(玉穂市)は2年近くの検討の末、昨年5月、 統合することを決めた。国立大では初の統合で、来年10月1日に医、工、教育 人間科学の3学部からなる「山梨新大学」(仮称)として再出発する。
 統合を推進したのは山梨大の椎貝博美学長だった。98年に学長に就任すると ともに、山梨医大に教育・研究交流のための協議を申し入れ、99年9月には統 合を前提にした検討に入った。
 山梨医大の吉田洋二学長も「21世紀はバイオの時代。この先、医学だけでは おぼつかない。学際的な研究は必須」と考えていたため、協議は順調に進み、 昨年5月2日に統合についての合意書に調印した。
 新大学では、両大のキャンパスをそのまま利用し、主に1年生が履修する教 養教育科目は、山梨大のキャンパスで開講する。各学部の専門教育科目はこれ まで通り書くキャンパスで実施し、山梨医大の教養教育科目の担当教員15人が、 約10キロ離れた山梨大に研究室を移動する。新学長は来年、両大職員の選挙で 決めるという。
 統合に向けた取り組みが始まったころは、国立大学の独立行政法人化が議論 になっていたが、「統合に行政改革の視点は全くなかった」と椎貝学長は言う。 両学長が統合の利点として挙げるのは「教育・研究の幅が広がる」ということ である。
 椎貝学長は「工学部と医学部の共同研究で、盲導犬ロボットや乳がんを発見 するロボットなど、医療と工学を融合した研究が可能になる」と説明する。吉 田学長も「山梨大には心理学、倫理学の先生もいるので、患者の心のケアなど の充実につながる。経済学の先生の知恵を生かして医療経済や医療管理学も発 展させられる」と期待する。
 03年4月には、博士課程を持つ大学院も設置する予定で、医学、工学などを 融合した学際的な研究を行うという。  椎貝学長の就任前から両大学は単位互換などについて話し合っており、学生 もサークル活動を通じて交流するなど、統合の素地はあった。山梨医大から山 梨大キャンパスに移る一部の教員には環境の変化に対する不安や不満もあった が、「最近になって角が取れてきたようだ。互いに壁を取り外し、名実を伴う 統合にしたい」と吉田学長は話す。
 椎貝学長は「前例がなかったから、かえって自分たちの発想で新大学を自由 にデザインできた」と先駆者のメリットを強調した。

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予算配分で優遇も 「遠山プラン」
 ■国立大統合の試み■
▽合意済み
 山梨大・山梨医科大
 筑波大・図書館情報大
 九州大・九州芸術工科大
 神戸大・神戸商船大
 東京商船大・東京水産大
 香川大・香川医科大
▽合意に向け協議中
 富山大・富士医科薬科大・高岡短期大
 福井大・福井医科大
 滋賀大・滋賀医科大
 島根大・島根医科大
 高知大・高知医科大
 佐賀大・佐賀医科大
 大分大・大分医大
 宮崎大・宮崎医科大 (5日現在、文部科学省調べ)
 国立大学の大幅削減を打ち出した「大学の構造改革の方針」は、遠山敦子文 科相の名字から「遠山プラン」と呼ばれる。  再編・統合のほか、▽民間的発想の経営手法の導入▽教育、研究に競争原理 を導入する―が大きな柱で、国立大の独立法人化や、第三者評価で優れた業績 を収めたと認められた30の大学・研究分野に重点的に予算を配分することなど も盛り込まれている。
 7月に始まった概算要求のヒアリングの際には、文科省職員が各大学の事務 局長に、再編・統合の考え方を尋ねたこともあって、再編・統合をしなければ 存続は困難、と考える大学のムードが一気に高まった。
 国内には約600大学があり、このうち国立大学は99校を占める。少子化の影 響で、現在の定員数が続くと09年には、入学希望者全員が入学できる「全入時 代」がやってくるといわれる。大学生の「学力低下」問題が深刻化する懸念も ある。
 一方、国際社会からは学術研究における貢献が求められているため、「さら なる教育・研究基盤の充実、競争力を持つ大学作りが求められている」(文科 省)というわけだ。
 文科省によると、再編統合で合意したり、合意に向けて協議している大学は 29校。来年10月、山梨新大学のほか、筑波大と図書館情報大が統合した「筑波 大」が開講する予定だ。03年度には、神戸大と神戸商船大、東京商船大と東京 水産大も統合する見込み。
 一方、連携による再編も進む。今年4月には東京医科歯科、東京外語、東京 工業、一橋の4大学が連合協定を結び、履修単位の互換を来年度からスタート させる。
 文科省高等教育局の清木孝悦主任大学改革官は「はじめに統合ありきで協議 をするのであれば無意味だ。どんな教育、研究を行うのか、大学として方針と ビジョンを持ってこそ意義がある」と各大学に未来像をえがく理念を問いかけ る。
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 「医科大連合」は立ち消え

 大学の連合、統合構想が日の目を見ずに終わるケースもある。福井医科大 (須藤正克学長)は今年1月、国立の医科大が連携する「医科大連合構想」を 発表した。大学そのものは統合せずに残し、各医大の上部組織として「評議会」 を置き、国の予算を一括して受け入れる仕組みで、大学数を減らさず業務や病 院経営の効率化を図る狙いだった。
 しかし、6月に文科省が発表した「遠山プラン」などをきっかけに各医大は 地域の国立大との統合を進めたため、連合構想は事実上、立ち消えになった。
 須藤学長は「もう終わったことだから」と、頓挫までの経緯や詳しい原因を 明らかにしないが、ある医大の学長は「(本部をどこに置くか、など)中核を 決める過程でまとまらなかったのかもしれない」と語る。
 構想に興味を示していた別の医大の関係者は「東京医科歯科大に本部を置く 話もあったが、具体的に進まなかった」と打ち明ける。  福井医大は今月2日、福井大と統合協議会設置の確認書を取り交わした。



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構造改革」国立大/加速する再編・統合/29大学が動く
2001. 10.9 : [he-forum 2671] 毎日新聞10/08