独行法反対首都圏ネットワーク


☆道内国立大は消える? 遠山プランの衝撃(抜粋)  
2001.10.3 t: [he-forum 2662] 道新Today10月号

『道新Today』2001年10月号


 道内国立大は消える? 遠山プランの衝撃

 「大北大」か「第二北大」か 単科大学統合は待ったなし

 国立大学がなくなってしまうのか。大学の構造改革を目指して文部科学省が発表した「遠山プラン」が各界に衝撃を与えている。統合か、消滅か―。果たして道内の大学は生き残れるのだろうか。

 「実はここだけの話、履歴書を書き始めているんですよ」

 道内にある国立の単科大学の教官が声を潜めて言う。勤めて十年弱。なぜ履歴書を書くのか。彼の大学が、近い将来の統合が確実視されているからだ。こ
のままでは、将来に展望が持てない。研究は続けたいが、五十歳を過ぎ、他の大学に移れるかどうか。研究職ならば民間でも―と幅広く転職先を探している。
 だが、学内にそれほどの危機感はない。「民間との連携など、自分なりに努めてきたが、もう無理かもしれませんね」。いら立ちは募るばかりだ。
 彼をここまで追い込んだのが「遠山プラン」だ。
 「大学の構造改革の方針」とて六月、経済財政諮問会議に提出された。これまで進めてきた法人化の考え方を前進させ、(1)国立大学の再編・統合を大胆
に進める。(2)国立大学に民間的発想の経営手法を導入する(3)大学に第三者機関による競争原理を導入する―が三本柱だ。
 道内の国立大学は七つ。北大を除く六大学は、すべて単科大学だ。単科大学
は、同プランで「再編・統合」を名指しで求められている。関係者の間では、全国九十九の国立大学が「六十から七十程度に再編されるのではないか」とい
う見方が広がっている。
 文科省は本年度中に、各大学に再編計画を提出させる考えだ。世界最高水準の大学育成を目指して同プランが打ち出した「トップ30大学への資金の重点配
分」は早くも来年度予算から盛り込まれる予定で、再編を促すニンジンがぶら下げられた格好だ。

 道教大は分割、移管も

 全国ではすでに、山梨大と山梨医科大、筑波大と図書館情報大など五組の統合がまとまっているが、道内では、(1)北大と単科大学との統合による「大北
大」(2)北大以外の単科大学が大同団結する「第二北大」(3)道央、道東などブロックごとに統合する「地域総合大学」(4)工業系、教員養成系など分野ごと
に道内外の大学が合併する「広域単科大学」―などのパターンが考えられる。
 このうち、(4)では、獣医学科を全国で三大学に集める再編計画があり、帯広畜産大獣医学科を北大獣医学部に統合する構想がある。
 しかし道内で実際に進みそうなのは、(1)から(3)のパターンでの再編だ。本
誌は、各大学に再編についてのアンケートを実施。また、現実にどうのような可能性があるか、札幌予備学院の片丸和男進路指導室長に予測してもらった。
 まず、五分校を抱える道教育大は、教員養成系縮小の流れの中で再編が必至だ。札幌校と岩見沢校の統合案が九九年に浮上したが、今度はさらに大胆な再編が迫られるだろう。函館市の北大水産学部と函館校との合併が取りざたされた過去もあり、各地域の大学と連携する可能性もある。
 同大総務課は、他大学との統合について「教育研究上有効なものであれば可能性を追求したい」と回答するにとどまっているが、片丸室長は「釧路校が切
り離され、釧路公立大と統合して地方移管を選ぶ可能性があるだろう」と分析する。

 室工・樽商道央連合も

 続いて、同じ工業系の北見工業大と室蘭工業大。片丸室長は「両工大の合併や、北見工大と北大との統合が以前から関係者の中でうわさされてきた。最近
は、室蘭工大が同じ道央圏の小樽商科大と統合に向けた話し合いを進めているという話がある」という。
 北見工大の考えは、次ページの学長インタビューに譲るとして、室蘭工大総務課は、遠山プランを「これまで国立単科大学が果たした社会貢献を評価しつ
つも、さらに世界水準の教育研究活動への発展を目指して、再編・統合を促したものと受け止めている」とした上で、「教養教育のさらなる充実や新たな教
育研究領域の展開を視野に、他大学との統合等の可能性を探求していく」と答えている。
 一方、小樽商大は、室蘭工大との合同公開講座を九月下旬からスタート。両大学の学際的な興隆が、統合の足がかりになるかもしれない。同大総務課は
「特色ある個性豊かな単科大学として存続発展させることに全力を挙げて努力している」と答えながらも、「北海道全体における高等教育の将来展望を明確
にすることも重要で、教育研究基盤を強化しうると考えられる場合には柔軟に対処することも必要と考える」としている。

 帯畜大は獣医分離?

 獣医学科の切り離し案が浮上している帯広畜産大はどうか。関係者は「獣医学科の北大への統合は古くて新しい課題」と離すが、同大は「遠山プランの検
討はまだスタートラインに着いたばかり。獣医学科の統合は、現在まったく考えていない」(総務課)と話すにとどまっている。
 しかし同大は、獣医学科を除く畜産管理、畜産環境科学、生物資源科学の三学科を統合する方針で来年度予算の概算要求を出しており、実現すれば来年度は二学科での募集となる。「学科統合は獣医学科の再編論議とはまったく関係ない(同)としているが、片丸室長は「学科統合は獣医学科を半ばあきらめたからではないか」と分析する。
 では、単科大学では最難関の旭川医科大はどうだろう。釧路との誘致合戦の末、七三年に開学した当時、北大から多くの教授陣を集めた経緯もあり、「北
大に統合され、北大第二医学部になるのではないか」と見る関係者も多い。
 同大庶務課は再編・統合について「具体的な検討までは行っていない」というが、「教育研究の発展が実現できるなら単独にこだわらない」と答えている。
同大は本年度から、道教育大旭川校と初の単位互換を開始。地域で大学の存在をアピールする作戦に出た。しかし、地域医療の人材を育成する観点から、生き残りの可能性は高い。片丸室長も「広大な道北地方の医療の拠点として地域への貢献度は絶大で、旭川のキャンパスをなくすことはできない」とみる。

 うかうかできぬ北大

 では、受けて立つ側の北大はどうか。
 旧帝大からの歴史があり、各分野で高いレベルの研究を進める北大が「トップ30」に挙げられる可能性は高い。
 大手予備校の河合塾が八月二十三日に開いたシンポジウムでは、理系を中心にトップ30の絞り込みが論議され、北大は堂々の九位に入った。文科省が配分する科学研究費補助金(五位)、米国ISI社がまとめた引用論文数(七位)などが上位に入ったためだ。
 しかし、このトップ30について、シンポジウムに出席した文部科学省高等教育局の杉野剛・大学改革推進室長は「大学からの申請に基づいて、分野ごとに
評価して重点投資する」と説明した。
 分野別の評価になれば、北大とて安穏としていられないはずだ。
 北大では独立法人化が持ち上がった九九年、いち早く「独立行政法人化に関するワーキンググループ」を設置。今年三月には「法人化問題ワーキンググループ」も設けて、検討を進めてきている。しかし、具体的な大学再編については「現時点ではコメントできない」(総務課)と答えるのみ。単科大学を吸収する
「大北大」化を含め、道内の単科大学再編で旗振り役を務める気は今のところなさそうだ。
 学内にも危機感は乏しいようだ。「北海道から大学がなくなるはずはないの
で、北大は大丈夫だろうと安心している様子だ。遠山プランでトップ30という具体的な数字が出て、その雰囲気は強まっている」(ある教授)という。
 しかし、「トップ30」政策に異議を唱える教官は多い。
 学力低下が深刻化する国立大学の多くは、〇四年度入試から、大学入試センター試験で「五教科七科目」を課す方針だ。教育関係者は「入試が難しくなれ
ば、地方の国立大学志願者が減り、私立へ流出する。文科省はこれで再編・統合を促す考えではなかろうか。ゆくゆくは、国立は研究者育成のみ、就職希望
者は私立へ、とすみ分けさせるのではないか」という見方を示す。このままでは国立大学不要論さえ噴き出しかねない。四面楚歌の状態だが、何のための再
編なのかを見極めた上での論議が求められる。(安藤健)

 「統合で北大の競争相手を」 北見工大・厚谷郁夫学長に聞く

 大学再編の直撃を受ける地方大学は、どう生き残りを目指すのか。再編・統合はあるのか。北見工業大の厚谷郁夫学長に聞いた。
 唐突な感じのする遠山プランだが、文部科学省が国立大学の独立行政法人化を検討し始めてから今までやってきたことを文書にしたものだ。ただ、経済財
政諮問会議で突っ込まれ、プランとして出さざるを得なくなったのだと思われる。
 しかし、「大学の再編・統合を大胆に進める」という方針について、文科省
は説明責任を果たしていない。文科省は「各県に一つの国立大学は必ずしも必要ない」「(分校をおく)カリフォルニア大学方式もあり得る」と明言している
が、そのような統合が可能なのか、何のために統合するのか、を説明していない。
 道内でとりうる選択肢は三つあるだろう。北大を中心として一つにまとまるカリフォルニア大学方式か、北大以外の六大学が全部統合する、もしくは地域
に分かれて統合する―の三つだ。
 このうち道北、道東にある本学と旭川医科大、帯広畜産大の三大学は、地域に重要な役割を果たしており、つぶす根拠は何もない。もし、この三大学がつ
ぶされたら、北海道の東半分は産業も何もない地域になってしまう。それなら統合しか選択肢はないだろう。
 文科省は「統合案を出せ」と言うだけで、具体案は各大学任せだ。予算の問題もあるから、「寝て死すよりは・・・」と思う。再来年度の概算要求に間に
合わせるため、具体案は本年度末までに出さなければならない。弱い大学だから、文部科学省には逆らえない。
 また、「世界最高水準」を目指し、トップ30大学に研究資金を重点配分することを掲げているが、これまでも、科研費の大半は旧七帝大など一握りの大学
に割り当てられてきた。さらにすそ野を削って山を高くするような配分を行うなら、理系では基礎研究の分野が切り捨てられ、一部の分野だけが伸びるとい
う、いびつな構造になっていくに違いない。確かに、今の財政基盤では世界最高水準を目指すのは難しい。だから大学予算全体を拡大させるべきだ。予算を
増やすための統合ならば反対せず、協力したいと考えている。

 総合大学の方が有利

 統合の形態として、同じ学科を集めるだけではうまくいかないと思う。総合大学にしてスケールメリットを出す方が、将来的にはいいと思う。道内では北
大が君臨しているから、北大の競争相手を作るような発想の方がいいだろう。
 道東・道北を発展させるなら、産官学の協力体制が必要だが、今の道庁は札幌しか見ていない。本学の運営諮問会議には、副知事にメンバーに加わっても
らっているが、一度も会議に来たことはない。
 四国には四つ、九州には七つの国立総合大学があるが、北海道には北大一つしかない。これが北海道を遅らせている本当の原因だ。日本には人材しか資源がないのだから、すそ野を広げてレベルの高い人材を育てれば、レベルの高い研究が生まれてくるはずだ。

 ふんぞり返る北大

 旭医大や帯畜大との統合による「第二北大」構想について、私自身は可能性があると思う。各キャンパスはそのままでいい。教養教育と事務官の面で問題
はあるが、異なった分野の大学が一緒になることで、学際領域が広がるメリッがある。北大は「ミニ東大」としてふんぞり返っているが、地方大学が統合すれば、北海道から、すばらしい人材をたくさん輩出できることになると思う。
   ◇     ◇

 この問題で、北見工大は九月七日、愛媛大の鮎川恭三学長ら道内外の国立大学長四人を招いて、これからの地方国立大の役割を考える「大学改革」シンポジウムを開いた。


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