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しんぶん赤旗 10月17日付 「文化学問」欄

 岡崎国立共同研究機構長 毛利秀雄さんに聞く

幅広い基礎研究充実を
連名で首相に要望書

予算配分削減「方針」に危ぐ
小泉内閣の科学技術関係の予算配分「方針」は、基礎研究を軽視するとの声が関係者 からあがっています。総合科学技術会議(議長・小泉首相)が七月に発表した「方 針」にたいし、国立遺伝学研究所や国際日本文化研究センターなど大学共同利用機関 の所長ら十八氏が、小泉首相に要望書を提出。要望書は、「方針」について、科学技術を、短期的な経済的効果に従属させようとしていると批判し、幅広い基礎研究の充実を求めています。英科学誌『ネイチャー』も、「日本の科学者が基礎研究の失速 を危ぐしている」と報じました。要望書に名をつらねた岡崎国立共同利用研究機構の毛利秀雄機構長を愛知県岡崎市に訪ね、話をききました。 浅尾大輔記者

ー要望書の提出に込めた思いを聞かせてください。
毛利 「科学技術基本計画」(今年三月策定)には、一番最初に基礎研究を重視すると書かれているのです。しかし、「方針」では、重点分野以外の広い研究や、科学 にとって本質的に重要な基礎研究について、かえってその削減が危ぐされます。そうではなくて、「計画」どおりやってくださいという思いです。
◆強い危機感
ー大学共同利用機関のトップ有志が集まり、要望するのは初めてですね・・・。
毛利 それだけ危機感が強いといういうことです。私たちは、自分たちの大学共同利用機関だけがよくなればいいといっているのではありません。大学を含めた科学全体の未来を考えて要望したのです。
ー基礎研究とは、どういうものなのでしょうか。
毛利 私たちの機構は、分子の世界を理論的・実験的に研究する分子科学研究所、生命現象の営みの基礎を解明する基礎生物学研究所、脳をはじめ人体機能の理解をめざ す生理学研究所の三つからなりますが、どれも、すぐに役立つとか応用研究につながるというものではありません。つまり、純粋に知的探究心にもとづく、各専門分野のおおもとを解明する「学術基礎研究」です。基礎研究は、何十年にもわたる積み重ねをへて成果があらわれ、役立つ技術につながるものなのです。
ー具体的にいいますと。
毛利 たとえば、いま問題になっている狂牛病やO157では、わが国には、幸い研究者がいましたが、普段から注目されていたはやりの研究ではありませんでした。 しかし、こうした基礎研究があるからこそ、現実にも対応できるのです。
 また、いま人工的に人間の臓器をつくる"再生医療"という応用研究が注目されています。それは、私たちの研究所がおこなっている細胞の分化・発生という基礎研究からは、すぐに結びつく分野ではありません。しかし、今後の研究過程のなかで結びつくかもしれない。基礎研究は、そういう可能性ももっていま す。科学は、基礎研究のすそ野を広くして、その保障をしないと発展しません、同時にはやりの研究ばかりに追いつこうとしていては、オリジナルな仕事はできまません。
◆研究が画一化
ー基礎研究の予算が削られるとどうなりますか。
毛利 研究資金を重点的に配分するのは結構なのですが、だからといって基礎研究をなおざりにすると、ペンシル型ビルのような画一的な研究ばかりが増え、基礎ができ ていないからすぐに倒れてしまう。
 うちの機構には、UVSOR(極端紫外光実験施設)や大型スペクトログラフ(人 工の虹をつくり、さまざまな波長の光のもとで生物機能を調べる施設)といった世界的にも少ない施設がありますが、これらの維持費もでなくなっている現状です。このままでは、十分な研究ができません。
ー国立大学などを独立行政法人化する問題をどう考えますか。
毛利 すでに法人化された国立試験研究機関では、各省からミッション(課題)が与 えられ、それに向けた研究がすすめられています。とりわけ理科系の分野で目立つ、 「とにかく役にたつことを」と目標を与え、そこへ研究を集中するやり方は疑問です。
 つまり、独立法人通則法にある、主務大臣が中期目標を立て、それにそった研究と その到達度が評価されて、研究資金が配分されるという制度は、学問研究になじまな いと思います。
 科学は、自由で、自律性が認められた環境でこそ発展します。「すぐに役に立たない研究」も大切です。基礎研究をしている岡崎の各研究所は、それぞれの分野で論文の引用度数は日本でトップを維持しています。
 私は、研究者が、国内のどこへいっても自由な研究が保障され、よい仕事をしている人は正当に評価されるーそういう活発な交流ができる研究環境を実現したいと考えているので、それが、独立法人通則法が そのまま適用されるとそうなるか不安です。

1930年生まれ。東京大学理学部動物学科卒業。専攻は、生殖生物学。東京大学教養学部教授、放送大学学園副学長を経て、現職。74年、日本動物学会賞受賞。著書に『精子の生物学』『精子学』など。

大学共同利用機関=全国の大学等の研究者が共同研究を推進する場として、また、特色のある施設・設備や資料の共同利用の場として設置された国立の研究機関のこと。大学の要請に応じて、大学院における教育などにも協力しています。国立天文台、国立歴史民族博物館など全国に十五期間(十八研究所)があります。要望書には、このうち十一機関(十四研究所)の所長と所長経験者四氏が名前をつらねています。

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☆岡崎国立共同研究機構長 毛利秀雄さんに聞く 幅広い基礎研究充実を 
2001.10.18 しんぶん赤旗10・17