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☆大学と学問の破滅への道  文部科学省「調査検討会議」の中間報告「新しい国立大学法人像について」を批判する(神戸大学教職員組合) (10/31up)
  
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大学と学問の破滅への道
文部科学省「調査検討会議」の中間報告「新しい国立大学法人像について」を批判する
                           神戸大学教職員組合

 国立大学の独立行政法人化に関して検討してきた文部科学省の「調査検討会議」は、9月27日「新しい国立大学法人像について」と題する中間報告を提出しました。この中間報告は今までの大学のあり方「学問の自由」「大学の自治」を覆すもので 到底受け入れ難いものです。以下、幾つかの主要な問題点を指摘します。

1. 通則法に基づく独立行政法人化に限りなく近く、大学にはなじまない
 「通則法に基づく法人化は大学にはなじまない」として度々議論され、国大協も反対を表明してきました。中間報告では通則法とは別の「国立大学法人法」(仮称)などをつくり国を設置者とする「国立大学法人」(仮称)として、各大学に法人格を与えるとしています。
しかし、国のグランドデザインや政策目標を踏まえて各大学が長期目標を策定し、それに基づいて6年の中期目標を各大学の提案を尊重しつつ文部科学大臣が策定する、そして、これに基づいて各大学が中期計画を作成し文部科学大臣が認可する、というプロセスは、通則法のやり方とほとんど変わるところがありません。大学は、国の政策目標に左右されることになり、到底、自主性・自律性を持つことはできません。後述のように、大学に対する評価とそれに基づく運営交付金等の算定にも文部科学省の影響力は大きく、結局、国の意図が大学の隅々まで貫徹することになるでしょう。

2. 大学を文部科学省の管理下に置く
 中間報告では、管理運営について次のように提案しています。役員として、学長、副学長(大学運営の重要テーマごとに)、監事(少なくとも1名は学外者)を置くとし、役員以外の運営組織として、
(A案)学外者も参画した評議員会(仮称)が経営と教学を一体的に審議する、
(B案)経営は学外者が参画する運営協議会で審議し、教学を審議する評議会と分離する、(C案)学外者が参画する審議機関の評議会と、学外者のみの運営諮問会議を設ける、
の3案を挙げていますが、B案またはC案を中心に引き続き検討を行うとしています。
いずれの場合でも、役員や審議機関には相当程度(図によれば半数程度)の学外者を入れる、学長の選考過程に学外の意見を反映させる、監事は文部科学大臣が任命・解任、最終的な決定は学長が行う、などとしています。
 ここでは、経営(管理運営)と教学とを分離し、事実上大学人の意思決定を教学だけに押し込め、管理運営は国や産業界の意図を貫徹しようという仕組みが見て取れます。
さらに、監事は文部科学大臣に意見を提出することができるとしていますが、大学運営に関して学内の議論なしに大臣に直接働きかければ大学の自律性が損なわれるのは明らかです。また、学外者の役員などは一部を除いて非常勤が予定されていますが、その人達が本当に大学に責任を持つ審議ができるかは大いに疑問です。

3. 競争原理一辺倒で大学の教育研究を荒廃に導く
 評価では、(1)各大学が行う自己点検・評価と、(2)大学評価・学位授与機構が行う主として教育研究に関するに評価を尊重しつつ、(3)文部科学省内に設置される国立大学評価委員会(仮称)が運営全体に対する総合評価を行うとしています。そして、評価結果を運営交付金等の算定に反映させるとしています。
先日学内で行われた講演で、文部科学省大学改革担当官は、評価システムを作って資源を配分する風土を根付かせたいと言いました。本来大学の教育研究は、研究者の自由な意思に基づく多様な教育研究の積み重ねで人類の安寧と幸福に貢献するという責務を持っています。競争原理が大学の根幹を支配してくるならば、基礎研究は押しつぶされ、一面的な評価のために教育研究が歪曲され、ひいては将来の人類の生存そのものを脅かすことにもなりかねません。
さらに、幾重にも行われる評価は、教員を管理運営から切り離して雑務から解放するという意図とは裏腹に、競争のための申請書類作りと評価のための資料作りに忙殺させることになるでしょう。

4. 多種多様な職種・人事管理は職場を混乱させ、劣悪な労働条件を作り出す
 人事制度の項では、公務員型・非公務員型の両論を併記する一方で、弾力化の名目で兼職・兼業の緩和、年俸制、裁量労働制、任期制など多種多様な職種・人事管理を提案しています。
非公務員型の導入は、教職員の身分を不安定にし、従来教育公務員特例法で守られてきた教員の自由な発想に基づく多様な取り組みを危うくするものです。また、能力主義的な給与体系の導入によりインセンティブを与えるという安易な発想は、個々人を競争させて管理統制するという手法に導き、教職員のモラルを低下させる恐れがあります。任期制教職員の大量の採用は、不安定な身分・劣悪な労働条件の職員を大量に作りだし、教職員の労働意欲をそぎ職場を荒廃させる危険があります。

5.トップダウンの意思決定システムは学問の自由・大学の自治を内部から掘り崩す
 報告では、「学問の自由に由来する大学の自治の基本は学長・役員・部局長・教員の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである」という表現が一箇所だけ出てきますが、その一方ですでに見たように、役員には相当程度の学外者を入れる、学長の選考過程に学外の意見を反映させる、投票を行う場合でも投票参加者の範囲を大学・法人運営の最高責任者を選ぶ上で適切なものとする、部局長は学長が任免する、などとして事実上これまで大学内で確立してきた自主性を否定しています。さらに意思決定のシステムとして、(大学としての意思の)最終的な決定は学長が行う、教員選考に学長や部局長が大きな役割を果たすべきである、などとして、従来の意思決定のシステムである評議会や教授会の役割を縮小し、トップダウンによる意思決定の仕組みを確立するよう提案しています。これは、学問の自由・大学の自治を内部からも危うくすることになるでしょう。

以上のように、中間報告は、法人化の唯一のメリットとしてあげられている「大学の運営上の裁量を拡大する」どころか、外部の介入・管理・統制に道を開き、内部的にも民主的な運営を捨てて、学長を中心とする一部の人間による専決的な運営に導き、学問の自由・大学の自治を失なわせるものであると言わざるを得ません。





【意見提出様式】
『新しい「国立大学法人」像について(中間報告)』に対する意見
 
1. 氏 名: 岩崎 信彦
2. 会社名/部署名又は学校名: 神戸大学文学部教授
3. 住 所: 京都市左京区下鴨西本町2−3
4. 電話番号: 075−791−6286
5. 意 見:

通則法に基づく法人化に限りなく近く、大学と学問を衰退させることになります
――中間報告「新しい国立大学法人像について」の再検討を求めます――
                          
この中間報告は、大学がこれまで培ってきた教育研究のあり方を一気に覆すもので、このような一方的な改革が行われれば、大学と学問を長い目で見て衰退させることになります。 到底受け入れ難いものです。以下、幾つかの主要な問題点を指摘します。

1. 通則法に基づく独立行政法人化に限りなく近く、大学にはなじまない
 「通則法に基づく法人化は大学にはなじまない」として度々議論され、国大協も反対を表明してきました。中間報告では通則法とは別の「国立大学法人法」(仮称)などをつくり国を設置者とする「国立大学法人」(仮称)として、各大学に法人格を与えるとしています。
しかし、国のグランドデザインや政策目標を踏まえて各大学が長期目標を策定し、それに基づいて6年の中期目標を各大学の提案を尊重しつつ文部科学大臣が策定する、そして、これに基づいて各大学が中期計画を作成し文部科学大臣が認可する、というプロセスは、通則法のやり方とほとんど変わるところがありません。大学は、国の政策目標に左右されることになり、到底、自主性・自律性を持つことはできません。後述のように、大学に対する評価とそれに基づく運営交付金等の算定にも文部科学省の影響力は大きく、結局、国の意図が大学の隅々まで貫徹することになるでしょう。

2. 大学を文部科学省の管理下に置く
 中間報告では、管理運営について次のように提案しています。役員として、学長、副学長(大学運営の重要テーマごとに)、監事(少なくとも1名は学外者)を置くとし、役員以外の運営組織として、
(A案)学外者も参画した評議員会(仮称)が経営と教学を一体的に審議する、
(B案)経営は学外者が参画する運営協議会で審議し、教学を審議する評議会と分離する、(C案)学外者が参画する審議機関の評議会と、学外者のみの運営諮問会議を設ける、
の3案を挙げていますが、B案またはC案を中心に引き続き検討を行うとしています。
いずれの場合でも、役員や審議機関には相当程度(図によれば半数程度)の学外者を入れる、学長の選考過程に学外の意見を反映させる、監事は文部科学大臣が任命・解任、最終的な決定は学長が行う、などとしています。
 ここでは、経営(管理運営)と教学とを分離し、事実上大学人の意思決定を教学だけに押し込め、管理運営は国や産業界の意図を貫徹しようという仕組みが見て取れます。
さらに、監事は文部科学大臣に意見を提出することができるとしていますが、大学運営に関して学内の議論なしに大臣に直接働きかければ大学の自律性が損なわれるのは明らかです。また、学外者の役員などは一部を除いて非常勤が予定されていますが、その人達が本当に大学に責任を持つ審議ができるかは大いに疑問です。

3. 競争原理一辺倒で大学の教育研究を荒廃に導く
 評価では、(1)各大学が行う自己点検・評価と、(2)大学評価・学位授与機構が行う主として教育研究に関するに評価を尊重しつつ、(3)文部科学省内に設置される国立大学評価委員会(仮称)が運営全体に対する総合評価を行うとしています。そして、評価結果を運営交付金等の算定に反映させるとしています。
先日学内で行われた講演で、文部科学省大学改革担当官は、評価システムを作って資源を配分する風土を根付かせたいと言いました。本来大学の教育研究は、研究者の自由な意思に基づく多様な教育研究の積み重ねで人類の安寧と幸福に貢献するという責務を持っています。競争原理が大学の根幹を支配してくるならば、基礎研究は押しつぶされ、一面的な評価のために教育研究が歪曲され、ひいては将来の人類の生存そのものを脅かすことにもなりかねません。
さらに、幾重にも行われる評価は、教員を管理運営から切り離して雑務から解放するという意図とは裏腹に、競争のための申請書類作りと評価のための資料作りに忙殺させることになるでしょう。

4. 多種多様な職種・人事管理は職場を混乱させ、劣悪な労働条件を作り出す
 人事制度の項では、公務員型・非公務員型の両論を併記する一方で、弾力化の名目で兼職・兼業の緩和、年俸制、裁量労働制、任期制など多種多様な職種・人事管理を提案しています。
非公務員型の導入は、教職員の身分を不安定にし、従来教育公務員特例法で守られてきた教員の自由な発想に基づく多様な取り組みを危うくするものです。また、能力主義的な給与体系の導入によりインセンティブを与えるという安易な発想は、個々人を競争させて管理統制するという手法に導き、教職員のモラルを低下させる恐れがあります。任期制教職員の大量の採用は、不安定な身分・劣悪な労働条件の職員を大量に作りだし、教職員の労働意欲をそぎ職場を荒廃させる危険があります。

5.トップダウンの意思決定システムは学問の自由・大学の自治を内部から掘り崩す
 報告では、「学問の自由に由来する大学の自治の基本は学長・役員・部局長・教員の人事を大学自身が自主的・自律的に行うことである」という表現が一箇所だけ出てきますが、その一方ですでに見たように、役員には相当程度の学外者を入れる、学長の選考過程に学外の意見を反映させる、投票を行う場合でも投票参加者の範囲を大学・法人運営の最高責任者を選ぶ上で適切なものとする、部局長は学長が任免する、などとして事実上これまで大学内で確立してきた自主性を否定しています。さらに意思決定のシステムとして、(大学としての意思の)最終的な決定は学長が行う、教員選考に学長や部局長が大きな役割を果たすべきである、などとして、従来の意思決定のシステムである評議会や教授会の役割を縮小し、トップダウンによる意思決定の仕組みを確立するよう提案しています。これは、学問の自由・大学の自治を内部からも危うくすることになるでしょう。

以上のように、中間報告は、法人化の唯一のメリットとしてあげられている「大学の運営上の裁量を拡大する」どころか、外部の介入・管理・統制に道を開き、内部的にも民主的な運営を捨てて、学長を中心とする一部の人間による専決的な運営に導き、大学における教育研究の伸びやかな発展をおしとどめることになる、と言わざるを得ません。
以上の意見に基づいて、中間報告「新しい国立大学法人像について」の再検討を要望いたします。