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(平成13年10月22日)

「新しい「国立大学法人」像について」(中間報告書)に対するパブリック・コメント

東京大学大学院理学系研究科
将来計画委員会

(要 旨):( )内の数字は対応する(中間報告書)のページ数
1.わが国が文化創造国家として、国際的な尊敬とリーダーシップを得るためには、短期的に結果のでる応用研究だけでなく、長期的視点に立った基礎研究と専門教育を、大学において充実させる改革ビジョンが必要である。
2.したがって、調査検討にあたっては、大学のあるべき姿に関する根幹の理念を述べ、その上で理念達成のための手段として、どのように大学を改革するか、という視点が求められる。中間報告書では手段の記述に力点が置かれた結果、肝心の理念そのものの記述が大変弱く、改善を求めたい。
3.学術の先端を極め、知を創造し、次代を担う人材を育成する教育に、競争原理のみを適用すると、多くの深刻な弊害が予想される。しかるにこの点に関する分析や対策が、完全に欠落している。
4.第三者評価システムの導入に当たって、根幹となる理念を欠いたまま、数値化できる目標を偏重することは、大学の活性化と高度化にとって好ましくない。
5.国立大学法人の財政・財務制度を設計する目的は、大学における教育研究および管理運営の自主性・自立性を高めつつ、設置者たる国から大学運営及び施設整備に要する十分な財源措置を確保することにあるべきである。
6.附置研やセンターは国全体の学術推進の戦略に基づいて適切な大学に附置されたものであり、全国共同利用機関と同様に、大学とは別の「運営費交付金の算出方法」(47ページ)などを適切に取るべきである。

(本 文)
 大学における学問と高等教育は、知を創造し発展させそれを継承することを通して次代を担う人材を育成する意味で、我が国の未来にとって決定的に重要なものであり、長期的な視野をもってその改革ビジョンが打ち立てられなければならない。しかるに、この中間報告書は、大学を改革するという手段が目的にすり替えられたものであり、大学の現状のどこが問題であり、どうあるべきかという根幹の理念の記述に欠けていると言わざるを得ない。
 新しい大学像をデザインするのであれば、まずその中心に据えられるべき理念を述べ、次に大学にどのような機能と役割を与えるべきかを検討し、それを達成するための組織体制・運営を設計しなければならない。大学のあるべき姿は、大学に付託された使命の達成によって判断されなければならず、経営面での裁量を効果的に活用しうる組織になること(10ページ)が、最も期待されることでは決してないはずである。しかし中間報告書では「国としての長期的な高等教育・学術研究政策やグランドデザインの策定」は別途検討すべき「関連するその他の課題」(49ページ)として挙げているに過ぎず、本末転倒である。
 大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(平成10年10月)では、国立大学の使命として「国費により支えられているという安定性や国の判断で定員管理が可能であるなどの特性を踏まえ、その社会的責任として,計画的な人材養成の実施など政策目標の実現、社会的な需要は少ないが重要な学問分野の継承、先導的・実験的な教育研究の実施、各地域特有の課題に応じた教育研究とその解決への貢献などの機能を果たすべきことが期待されている」としている。次代を担う若者が将来の問題に対する解決の知恵と手段を獲得できるよう、中心的な役割を果たすことが大学の社会に対する究極の責任と使命であり、国はその推進をはかる義務を負っている。一方、我々はその任務を重く受け止め、様々なレベルで自己点検・外部評価制度を積極的に導入し、不断の改革に取り組んできた。「大学としての自主性・自律性が十分に尊重される」(3ページ)必要があるのは、そのような背景があるからである。
 このような視点から中間報告書を見直すと、多くの危惧すべき点が散見される。それら中間報告書の持つ問題点は、大きく4つに分けられる。
 まず第一は、改革の内容そのものの問題点である。前提1の「我が国の大学の活性化と教育研究の高度化に真に資する契機となるために」(2ページ)では、「第三者評価に基づく重点投資のシステムの導入」を最初に考えるのではなく、上記答申にあるように多様な学問分野の長期的視野からの継承と発展を併せて強調する必要がある。そのような国立大学の教育研究の理念と、国が学術の推進をはかる社会的責任と役割を持っていることを「1.基本的考え方」(2ページ)で明確に述べるべきである。
 大学における知的活動の基本である創造性と、それが最も発揮される大学院教育や基礎科学の分野は、中間報告書で求めている「数値目標や目標時期を含む具体的な中間目標」(23ページ)や「競争原理の導入」はなじまないばかりか、その芽を摘んでしまう恐れが非常に大きい分野がある。現在では予測もつかないが、50年後、100年後の人類の生存と社会のあり方に大きく影響するような、根本的な自然・人間・社会の原理の解明や、人類の知的遺産と文化の構築など、長期的な視野にたった学術研究は、単に知的好奇心の満足にとどまらず、国家的な戦略の上からも重要なはずである。こうした創造的な知の営みを後進の育成とともに行っていくには、短期的な成果をもとにインセンティブを与えるシステムでは成功しないのである。実際シリコンバレーの萌芽と発展は、スタンフォード大、カリフォルニア大学、およびそれらの附置研究所であるスタンフォード線形加速器センター(SLAC)やローレンスバークレー国立研究所(LBNL)における理学・工学の基礎科学の充実が支えてきたことを忘れてはならない。「新産業の創出等への期待から、産学官連携の必・uヒ廖w)性を強く指摘」(13ページ)する枠組を作ることは必要であろうが、先ず基盤となる学問の充実が必須である。
 さらに、基礎科学における真に革新的な研究は、トップダウンではなくボトムアップ的な行き方で行われてきたことは、これまでの学術研究の歴史が実証している。学長の「強いリーダーシップと経営手腕」(6ページ)を強調する場合には、併せて「個々の大学人が自由な発想を発揮できるような制度設計に留意すべき」という記述を9ページに加えるべきである。
 また、学部長など部局長の任免に当たっては、「大学全体の運営方針を踏まえつつ」(33ページ)行われるべきであると同時に、大学において行われている学問分野の真価、特質および多様性が損なわれないよう、それぞれの部局の構成員の意見を反映させる方式について考慮すべきである。
 第二に、本中間報告書で重要な柱となっている、第三者評価システムの問題がある。「大学の教育研究活動について、厳正で客観的に評価する第三者評価システムを導入」(19ページ)とあるが、何をどのように用いれば厳正で客観的な教育研究活動の評価が可能なのかという重要な視点が欠けている。各大学が長期・中期目標を自主的に策定・公表する際に、踏まえるべきものとされている「国のグランドデザイン」に、国の根幹の理念が明解に示されなければ、簡単に入手できる数値目標への達成率などの数値化できる情報のみに基づいて評価が行われ、大学の活性化と高度化に真に資するものとはならないことが危惧される。
 第三に、大学運営における経営面での自主性・自律性を拡大するためには、まず財政的基盤を政府が保証する必要があるが、それが担保されていないという点である。東京大学国立大学制度研究会「国立大学の法人化について(中間報告)」(平成12年7月)で述べられているように、国立大学法人の財政・財務制度を設計する目的は、大学における教育研究および管理運営の自主性・自立性を高めつつ、設置者たる国から大学運営及び施設整備に要する十分な財源措置を確保することにある。この意味から、運営交付金の在り方については、教育研究の中長期的な計画性に合致するよう、交付金措置の少なくとも中期的な確実性・安定性を大学に保障すること、大学の自己収入(学生納付金、受託研究収入、寄付金収入等)は各大学の収入に直接計上すること、公私の競争的研究資金(科学研究費、委任経理金)は交付金算定において収入要素から除外すること、運営効率化の成果として発生する剰余金および積立金の使途に大学の裁量性を認めること、などの指摘を行っている。
 しかし、今回の中間報告で財務会計制度検討の視点として、「第三者評価の結果に基づく資源配分」(38ページ)を第一に挙げ、中期的な確実性・安定性を保障していないのは、きわめて遺憾である。運営費交付金は、長期的、継続的かつ計画的活動が必要な学部・大学院教育研究の基盤的資金と位置づけるべきで、その事を「2.検討の視点」の視点3(5ページ)に明確に述べるべきである。大学教育研究の最も基盤的使命の実現と継続的発展に最大限の配慮をすべきである。
 第四に附置研究所・センターについての問題がある。東京大学の附置研究所の内、地震研究所、宇宙線研究所、物性研究所、および海洋研究所の4施設は全国共同利用研究所を兼ねている。また、気候システム研究センター、素粒子物理国際研究センターなど4施設は全国共同利用施設であるが、東京大学に設置されている。本来、附置研やセンターは国全体の学術推進の戦略に基づいて適切な大学に附置されたものであり、大学の教育研究活動は附置教育研究施設と不可分の関係をもって行われている。また 大学、研究科に設置されているセンター、施設についても、附置研と同様に日本の当該分野の推進という学術政策の観点から、設置されているものである。センター、施設については多様な設置形態もあり、すべてを同一に取りあつかうことはできないが、全国共同利用機関と同様に、大学とは別の「運営費交付金の算出方法」(47ページ)などを適切に取るべきである。特に10年時限で設置されているセンター施設は、大学からの概算要求に基づき、競争的に設置されたものであり、大学の基盤的経費とは別途に運営交付金を配分するシステムが必要である。


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☆「新しい「国立大学法人」像について」(中間報告書)に対するパブリック・コメント(東京大学大学院理学系研究科将来計画委員会)
  2001.10.30 東京大学大学院理学系研究科将来計画委員会
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