2001年10月25日
提出先:文部科学省高等教育局大学課大学改革推進室
「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」に対する意見書
佐賀大学教職員組合
1. 住 所:佐賀市本庄町1番地
2. 電話番号:0952(22)9281
3. 意 見:下記の通り
先月9月27日、文部科学省調査検討会議は「新しい『国立大学法人』像について( 中間報 告)」(以下、「中間報告」と略す)を公表されました。私たち、佐賀大教職員組合 は、3回に分 けて、この報告の検討会を開いてきました。「中間報告」の問題点は、多方面に渡り ますが、こ こでは検討会での議論をもとに、是非とも申し述べたいことを以下のようにまとめま した。
(1)「基本的考え方」
1.前提1で、「……行政改革の視点を超えて、教育研究の高度化、個性豊かな大 学づく り、大学運営の活性化など」と述べられています。各大学が地域性などを踏まえ、そ れぞれの 個性をもつことは必要です。しかし、各大学はアカデミック・スタンダードを踏まえ なければなり ません。その上に立って、大学の個性化が図られるべきです。ユネスコ高等教育世界 宣言 「21世紀の高等教育―― 展望と行動――」などを参照されることを求めます。
2.また、大学運営の活性化は、効率の追究だけでは達成されません。運営の民主
制を踏 まえた上で効率の追究がなされるべきです。教授会等の意志・意見が尊重されず、ト
ップ・ダ ウンの意思決定が常態化した場合、大学運営の活性化は望めません。
(2)「組織業務」
1.検討の視点3で、「各大学の個性や工夫が活かせる柔軟な組織編成と多彩な活
動の展 開」と述べられています。それ故、運営組織に関するA案・B案・C案についても、一律
に規定 するのではなく、各大学でそのバリエーションも含めて自主的に決定することができ
るように するべきです。
2.大学内部に他の役員と別に文部科学大臣が任命する監事を置く必要性が明確で
ありま せん。業務監査について、「基本的には各教員による教育研究の個々の内容は直接の
対象 としないことが適当である」とされていますが、業務内容がはっきりしない以上、大
学の自治が 脅かされ、教員の教育・研究への意欲と創造性が制約される可能性を否定できません
。監事 制度は削除されるべきです。
3.事務組織について、「法令に基づく行政事務処理や教員の教育研究活動の支援
事務」 を行う者と、「大学運営の企画立案に積極的に参画し、学長以下の役員を直接支える
大学運 営の専門職能集団」とに分ける事が想定されていますが、両者の採用方法、養成方法
等に ついては明確な提案がありません。具体的な案を明示すると同時に、前者のような従
来型の事務を担う者が軽視され、「パートタイマー等の柔軟な」雇用制度の下に置かれ、そ
の地位 が不安定化しないよう強く望みます。
(3)「目標評価」
1.視点1で、「各大学ごとに国のグランドデザイン等を踏まえ……」と述べられ
ています。こ の個所は、「中間報告(案)」の段階では、「各大学ごとに国の政策目標を踏まえ」
となってい ました。「国の政策目標」から「国のグランドデザイン等」へと表現は変えられてい
ますが、その 趣旨は変わってはいないと考えます。つまり、これらの言葉は、「帝国大学令」(明
治19 〈1886〉年)の復活を強く想わせます。その第−条(「帝国大学ハ国家ノ須要二応ス
ル学術技 芸ヲ教授シ及其蘊奥ヲ攻究スルヲ以テ目的トス」)と上記の引用個所は、内容の点で
一致し ています。戦前の亡霊を呼び起こすのではなく、戦後教育改革期になされた大学民主
化の 原則(「学問の自由」と「大学の自治」)を今後も基本とするべきです。
2.この「視点1」を踏まえて、中期目標・中期計画の作成手続きが述べられてい
ます。「大 学の教育研究の自主性・自律性を尊重する観点から」と文頭で述べられていますが、
結果的 には、目標が国から与えられ、各大学はそれに拘束されつつ計画を立案し、その計画
もま た、文科相の認可を得るというハードルが設けられることになり、大学の自主性・自
律性は尊 重されないことになります。またそれだけではありません。中期計画が足かせとなっ
て(例え ば、「これさえやっておけばいいのだから」という意識の広まり)、大学の教育研究
活動から自 発性や創造性が失われることになりかねません。
(4)「人事制度」
1.「学長の選考方法等」で、「法人化後の国立大学の学長は……大学の代表者で
あるとと もに、優れた経営者でなければならず」と述べられています。しかしこの考え方では
、大学の 「代表者」という学長ポストの性格が著しく疎外されると考えます。
学長のリーダーシップには権威の裏付が必要です。そして、その権威は、学長に対
する教授 会構成員の支持に基盤をおかなければなりません。つまり、学長は、首尾一貫して、
教授会 構成員および大学構成員全体の「代表者」であるべきです。しかし、「中間報告」に
描かれて いるのは「経営者」としての学長像です。大学の自主性・自律性が守られるためには
、「経営 者」ではなく、「代表者」としての学長が必要と考えます。
2.また「学長の選考基準、選考手続きの策定に際して、学内及び社会(学外)の
意見を反 映させる」と述べられています。しかし、上記のように学長は大学の代表である以上
、選考基 準等に学外の意見を反映させる必要はないと考えます。ただし、大学構成員がなぜそ
の人物 を学長と選んだのかは、社会にはっきりと示される必要があります。そのためには、
学長立候 補者は、立候補声明を掲げ、教育、研究さらに大学運営に対する自らの見識を大学構
成員 に問うようなシステムがつくられるべきです。
(5)「財務会計制度」
1.視点1で、「教育研究等の第三者評価の結果に基づく資源配分」と、そして、 視点2で、 「各大学独自の方針・工夫が活かせる財務システムの弾力化」と述べられています。 つまり、 独法化後は、各大学は予算運用を弾力的に行ってよいという趣旨のようです。しかし 、その使 途を「第三者」によって極めて詳細にチェックされ、指示されることが考えられ、予 算運用の面 でも、大学の自主性・自律性は保証されないと考えます。
2.独法化された場合、学費の倍以上の値上げ予想されます。憲法第26条の「国民 の教育 を受ける権利」には当然、高等教育を受ける権利も含まれています。学費のこれ以上 の値上 げは、憲法が定める国民の権利の著しい侵害となります。学生及びその家族等の経済 的負 担をこれ以上増大させることはできません。
以上、意見書として、提出いたします。
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☆「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」に対する意見書(佐賀大教職組)
2001 .10.26 佐賀大学教職員組合