中間報告・国大協臨時総会・私たちの見地  
  
               2001年10月23日
               独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 文部科学省調査検討会議の「中間報告」に対する意見募集の締切と、国大協 が「中間報告」への対応を議論すると思われる臨時総会の双方が10月29日に迫っ ている。この時にあたって、私たちは以下のような基本的見地を確認し、それに基づいた行動を展開することを訴えるものである。

一、「中間報告」は多くの批判にさらされている。
 (1)9月27日に「中間報告」が公表されて以来、各新聞社説は多くの批判的論点を提示している。毎日新聞社説(9月28日)は、「独立行政法人のもとでの論議にはやはり限界がある。報告は過渡的なもので、改革のゴールではなく出発点と考えるべきだろう」としている。西日本新聞のコラム「直言曲言」(9月30 日)は、「気になるのはこういう"改革"が、大学の本来の役割を果たすのに支障にならないか、という点だ」として、水俣病の病像解明を果たした熊本大学医学部の例を挙げている。朝日新聞社説(10月1日)は、「これが規制緩和なのか」というタイトルを掲げ、むしろ規制強化につながる内容を批判している。 北海道新聞社説(10月5日)は、法人化が「文部科学省の管理が強まる余地を残 している」点と「地方切り捨て」につながる点を指摘している。他にも、山陰 中央新報社説(10月5日)は「中途半端な自主性の確保」、南日本新聞社説(10月 6日付)は「国の関与が見え隠れ」と題し、「中間報告」の文言とは逆に、自主 性・自律性の発揮ではなく、文科省の規制が強まることへの批判が強まってい る。沖縄タイムス社説(10月11日)は、明確に「計画の練り直しが必要」と述べている。
 (2)国立大学農学系学部長会議(全国農学系学部長会議と改称)は、10月17日に「新しい「国立大学法人」像について(中間報告)に対する意見」を発表し た(http://vert.h.chiba-u.ac.jp/kanko/buchokaigi/105_all.htm)。
そこでは、 五点にわたって、「中間報告」に対する批判的意見が提起されている。
 全国28の地方国立大学長は、10月19日に文科省で記者会見を行い、ネットワー ク化と協力原理に基づく、「国立大学地域交流ネットワーク」の提言を発表し ている。
 また、読売新聞が、8月1日から9月19日にかけて行った「大学改革 全学長アンケート」でも、法人化問題については、「行財政改革に端を発したもので、 大学の理念とは相いれない」(京都教育)、「大学運営の自由度や自主性の保 障が不可欠であるが、現状の法人化構想では不十分」(神戸)、「授業料値上げ、地方国立大学の切り捨てにつながる」(宮崎)、「独立とは逆に、本省による監督が研究・教育にまで大臣の許認可を求めるなど、極めて問題」(宮崎 医科)、「現状では制約が多すぎる」(京都)、「学問の基礎研究を軽視する 危険性を帯びている」(滋賀)と、問題点を指摘する声が強い。

二、「中間報告」批判の論点はすでに明らかである。
 こうした批判の論点を集約すれば、「中間報告」の問題点はすでに明らかで ある。
 (1)国立大学法人とは独立行政法人のことである: 毎日社説で指摘されてい るように、「独立行政法人のもとでの論議」には限界がある。「依然、独立行 政法人の大枠がはまっていることに変わりはない」(山陰中央新報社説)もので あるのなら、「枠組みそのものの組み替えを求めたい」(同)というのが、正し い立場であろう。
 (2)個別の論点についても、各方面からすでに次のような問題点が指摘され ている。
 ○学長選考方式については、文科省が一律に決めるのではなく、各大学の自主性・自律性に委ね、多様性を認めることが必要である。
 ○学外者の関与については、「文科省があらかじめ決めようとするのはおか しい。各大学に任せるべきだ」(朝日)。「参加方法や人数についても幾つかの条件を示している。いずれも規制緩和に反する。それらは各大学に任せるべき だ」(沖縄タイムス)
 ○学長の権限については、執行機能が暴走した場合に、それを掣肘する制度的仕組みを埋め込むべきである。
 ○上記との関連で、評議会の権能を正しく位置付けるべきである。
 ○部局人事については、教育と研究の基礎単位を尊重するため、部局教授会 の意向・審議が十分反映する制度にすべきである。
 ○教員については、公務員型であれ、非公務員型であれ、教育公務員特例法 の精神が十分生かされる制度設計が必要である。
 ○中期目標を文科相が設定する方式については、「政府と一線を画して真理 を探求する大学にはふさわしくない。再考を求めたい」(朝日)。「大学の自主 性・自律性を尊重する観点を貫くならば、大学が作成し、文科相が認可する方 式が望ましい」(毎日)
 ○評価と予算配分に関しては、「評価委員会が文科省に置かれ、委員を選ぶ のも文科省」(朝日)「予算配分を行う官庁が、評価に直接関与するのは好ましくない」(東京新聞社説10月3日)。「予算配分の権限を持つ官庁が関与するのでは、客観的で公正な評価が保障されるとは言い難い」(北海道)。「資源配分 と評価制度のリンク」が文科省の権限をかえって強化する(南日本)し、基礎研 究を阻害する。
 ○大学が安定した活動を展開するためには、競争的経費に一元化したり、重点を置くのではなく、充実した基盤経費を保障するシステムが必要である。  ○総じて、「国が、高等教育の将来像を示さないまま、競争や効率化の視点 のみで「改革」を図るのは容認できない」(北海道)。

三、国大協臨時総会の課題
 国大協の長尾会長は、10月1日に「国立大学協会長談話『新しい「国立大 学法人」像』の中間報告等について」を発表した。 (http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/txt_riji/h13_10_10.html)
そこでは、 次のように述べられている。「中間報告の内容には、学問の自由に由来する 「大学の自治」を基礎に教育研究を発展させるという観点、あるいは国立大学 がもつべき自主性・自律性という観点から更に検討を要する点がある。とりわ け、いくつかの重要な論点について、選択的記述がなされ、また曖昧と思われ る表現も散見される。」
 そうであるなら、10月29日の国大協臨時総会の課題は、すでに述べた数々の批判点を踏まえ、「中間報告」に対する国大協の立場を明確にし、「学問の自由に由来する『大学の自治』を基礎に教育研究を発展させるという観点」を十分反映させるべく、積極的な対応を取ることにある。

四、法人化問題と「構造改革」への対抗
 この間、文科省は、各大学に対して概略以下のような説明のもとに、「中間報告」や「構造改革」への賛意を求めていると聞く。
(1)構造改革は、遠山プ ランによって突然出現したものではなく、文部省時代から行ってきた一連の改 革の流れの中のものである(小野文部科学次官は、「遠山プラン」と呼ばれるのをいやがっている)。(2)再編・統合は、個別大学のレベルでは十分な研究基 盤が作れないために、基盤強化を図るための政策である(数合わせでは決してなく、地方の切り捨てでもない)。
(3)「トップ30」とは旧帝大、旧官立大、新 七大学などの階層化を突き崩すための政策である(しかし、複数組織が選定さ れる総合大学、1組織のみが選定される総合大学、特定分野で選定される単科 大学、「残念ながら選定されない大学」など多様な結果が想定される)。
(4) 「トップ30」とは研究を中心に選出するので、すべての大学がそれを目指す必 要はない(研究中心大学以外はアプライするな)。
 こうした文科省の政策は、言を左右にしながら、大学の種別化と選別を促進 し、大学を文科省のいっそうの管理と統制のもとに置こうとするものに他ならない。「トップ30」予算が、当初予算の初年度422億円から211億円へとあっと いうまに矮小化されたように、またこれらの予算が国立学校特別会計や私学助 成から「流用」されるように、高等教育経費を縮小しつつ、国策に沿った研究 に特化させようとする意図は明白である。
 10月16日に、経団連は、「国際競争力強化に向けたわが国の産学官連携の推進〜産学官連携に向けた課題と推進策〜」 (http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2001/048/index.html) を発 表した。現在、大学を研究資源として消費しようとする経済界の意図が如実に 示されている。これに対しては、「大学が何か隠し球を持っていて、それを産業界に渡せば一気に事業化できる、と思ったら大間違いだ。日本の産業に元気 がないのは、創造力が足りないからだ」という野依教授の言葉(読売新聞10月 16日)を送る他ない。
 また、受験産業に引き続き、経済産業省も、産業界の視点から大学のランク 付けに取り組むという(日本経済新聞10月22日)。「産業界のニーズ」を経済産 業省が代弁するというのも、時代錯誤だが、ここでも政府管理による大学の格付け(官製の大学ランキング)が進められようとしている。
 このような状況の下で、私たちが緊急に取り組まなければならないのは、次 の三点である。
 ○文科省、経産省、財界などの大学政策を正しく認識し、批判・拒絶するこ と。これらの政策への矮小化された対応策や、生き残り策に埋没することは、 高等教育全体を阻害する。
 ○教授会、評議会、各組合機関などで「中間報告」に対する批判的見地を明 らかにすること。10月29日の「中間報告」に対する「意見募集」は、「パブリッ クコメント」とも質的に異なる限界を持つものであるが、これに積極的に関与する中で、各組織の意思を固めることが必要である。
 ○10月29日の国大協臨時総会に向け、各大学で意見集約と学長への働きかけを進めること。臨時総会はわずか2時間しか予定されておらず、十分な議論が行われない可能性がある。国大協は各大学の意見を集約し、11月定例総会で本 格的な議論と意思決定を行い、最終報告に向けて大学の立場を鮮明にすべきで ある。


目次に戻る

東職ホームページに戻る

独行法反対首都圏ネットワーク


中間報告・国大協臨時総会・私たちの見地 
2001 .10.23[he-forum 2738]  独行法反対首都圏ネット事務局