独行法反対首都圏ネットワーク


☆小泉「改革」に異議あり 人間のくらしを充実させる構造改革とは 
2001 .10.3 しんぶん赤旗10/3 神野東大教授に聞く)

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しんぶん赤旗 10月3日

小泉「改革」に異議あり
人間のくらしを充実させる構造改革とは

 小泉「改革」がつまずいています。竹中平蔵経済財務担当相は「シナリオが狂いつ つある」と、経済財政諮問会議が示した「骨太の方針」の経済通しの誤りを認めまし た。市場原理万能論の小泉「改革」に警鐘を鳴らし、人間中心の改革を提唱する東京 大学の神野直彦教授(財政学)に聞きました。

神野 直彦・東大教授(財政学)に聞く

コストを高める「妨害物」視する
 「構造改革」とは本来、人間のくらしを充実させる目的で、社会の全構造を立て直 すということです。
 その際には、社会全体のしっかりしたビジョン(構想)とともに、各項目ごとの異 なった論理が必要です。古い家を建て直すとき、全体の設計図として洋風か和風か。 個別には、台所は動きやすく、寝室は安らげるように、居間は団らんできるように と、それぞれのファクター(要素)ごとに違った機能を充実させますね。それと同じ です。
 しかし、「骨太の方針」はトータル(全体的)なビジョンを示していません。産 業、教育、社会保障、地方財政など項目を並べるだけで、総合政策というよりもコン サルタントの提言に近い。
 また、各項目のファクターにあった原理をそれぞれ追求するのでなく、同一の市場 原理だけで貫いている。何のために「改革」をやるのか明示しないだけでなく、人々 の生活をよくするという「構造改革」の本来の意味そのものを見失い、人間をコスト (費用)を高める妨害物だとみなしてしまう。
 「骨太の方針」では、「知恵を出し努力したものが報われる社会に」するという が、「知恵を出し努力した」とだれが決めるのか。市場が決めることを想定している のだろうが、労働市場に「知恵を出さず努力していないから失業者」とらく印を押さ れた人たちは、いくら頑張っても報われません。 
 もう一つ大事なのは、「努力した、しない」で人間を分けるのであれば、スタート ラインは同じにしなければならないはずです。つまり、人間が個性を発揮できるため の教育の機会を平等に与えないといけない。
 ところが、「骨太の方針」では、教育の市場化を唱えている。教育を市場化すれ ば、お金を持っている人だけがいい教育を受けられて、スタートラインは同じでなく なる。
 統治者とは本来「すべての領民が努力している」と考えるべきで、「努力した人、 しない人」と差別する考え方で統治すること自体がおかしいのです。

人間生活支える新しいニーズを

 自動車や家電がゆきわたったいま、同じ物を大量につくって大量に消費するのはも う限界です。技術確信を伴わないコストダウンによる価格破壊は、だれかの所得をへ らすことになり、生活が破壊されます。環境、福祉、医療などの人間の生活を支える 新しいニーズ(要望)を開発し、技術革新で生産性を向上させる必要がある。
 例えば、片手で開けられるキャップの歯磨き粉のように、肢体不自由な人だけでな くだれでも使えるユニバーサルデザインの商品。目の不自由な人が運転できる自動車 や、一人ぐらしのお年寄りが緊急に通信できるアラームシステムなど、人々のくらし をよくするための医療福祉、バイオ(生命工学)、情報知識分野での開発が必要です。
 若い人の失業が増えている。確かに若い人には「自発的」離職者が多いのですが、 これを自発的失業と考えるのは間違いです。求職活動をしても、やりがいのある仕事 が見つからないのです。企業のコストダウンで労働が非正規化、単純化し、機械でも できるような作業が増えてやりがいのある仕事がつくれていないのです。
 中高年の失業者は増えてはいませが、有効求人倍率が悪化し、失業すると就業先が ないという事態となっています。こうした中高年層には「いつでも、どこでも、タダ で」かつ生活費を保障されて再教育を受けるシステムが必要となります。
 『資本主義の未来』(一九九六年)でアメリカの経済学者、レスター・C・サロー は、「ゲームのルールが変わったことに最後に気がつくのは、前のルールでの勝利者 だ」と述べています。重化学工業化に勝利してきた日本は、ルールが変わったことに 気づかないのです。
 いまの「構造改革」には人間が見えていない。くらしそのものを人間的に充実させ る方向に社会を改めていかなければならないのに、人間を経済競争で勝利するための 手段と考えています。経済の発展とは、人間が人間として高まることと軌を一にする 形でおこなわれるべきなのです。(聞き手・古荘智子記者)

じんの なおひこ=一九四六年生まれ。東京大学大学院経済学研究科、同大経済学部 教授。政府税制調査会専門委員、東京都税制調査会長、地方分権改革推進会議委員な どを歴任。著書に『システム改革の政治経済学』『二兎を得る経済学』など。


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