☆不鮮明な大学版「構造改革」
2001.9.5 [reform:03696] 不鮮明な大学版「構造改革」(朝日新聞)
朝日新聞(9月5日)
記者は考える
不鮮明な大学版「構造改革」
山上 浩二郎 社会部
国の大学版「構造改革」によって大学・短大は数年で激変する。その結果、全体水準の底上げと活性化が達成されるか。それとも、一部勝者の固定化と格差拡大を生むか。
構造改革は、国立大学の独立行政法人化を前提に、第三者評価のもとでの国公私立トップ30の重点育成、統合再編による国立大学の大幅削減などをめざす。6月に文部科学省が公表した。
改革は少子化の影響などで生存競争にさらされている大学の問題だけではない。受験生の動向や高校教育、会社側の学生採用なども含め社会的に大きな影響を与える。政策決定をまず審議会の議論にゆだねてきた文科省のこれまでの手順とは違い、小泉首相からのトップダウンで改革を請け負った。そのせいか、大ざっぱな結論ありきで、拙速のうえ不鮮明な部分が多い。
トップ30とは何か。
文科省は分野別大学ランキングのような格付けを意識しているらしい。大学側に示したたたき台によると、生命科学、医学、人文科学など10分野に分け、それぞれ約30専攻ずつ選び出すことを考えているようだ。しかし、来年度から制度が始まるというのに、単なる例示にとどまっている。一般学生に対する教育実績についての評価は、研究業績に比べて比重が低そうだ。
大学が自信のもてる研究テーマを文科省に申請、同省がつくるとされる第三者機関がトップ30の選考にあたる。だが、この機関のイメージもはっきりしない。
選ばれた専攻は年間1億〜5億円程度の優先配分を約5年間受け、世界のトップをめざして人材や研究設備の水準を引き上げることが可能になる。改革の動きが鈍い大学を活性化する効果もある。
しかし、問題点も多い。
重点育成の財政的裏付けは従来の枠とは別に設ける。だが、既成枠ですでに実績を積んできた大学は恩恵を受けやすく、ほかの大学との差は開く公算が大きい。それでは大学全体の活性化にはつながらない。現在の施設・設備、教員などの条件からみると、旧帝大中心の国立大学や早稲田、慶応など伝統私立大学の優位がさらに固定化する可能性がある。
さらに、トップ30が偏差値による輪切りにはならないという文科省の考えが、受験社会に浸透するかどうか。分野別ランキングをもとに予備校が大学・学部別の「新偏差値」をつければ、それが定着することもありうる。
世界を意識した研究や人材の養成はもちろん、競争をテコに全体の底上げと活性化をめざすのなら、国公私立の大学・短大、人材の供給を受ける産業界などから広く意見を聞くべきだ。少しでも多くの関係者が納得できるものにしなければならない。
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