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☆大学版構造改革の狙い(下) 「トップ30」客観的に評価
2001. 9.25 [he-forum 2590] 日本経済新聞09/22
『日本経済新聞』2001年9月22日付
大学版構造改革の狙い(下) 「トップ30」客観的に評価
スピード感が必要
国民の理解得る努力を
文部科学事務次官 小野元之
文部科学省の「大学(国立大学)の構造改革の方針」に関する批判について、前回に続き小野元之事務次官に寄稿してもらい、話を聞いた。
前回は大学の構造改革プランについて、基本的な考え方を述べたが、今回は疑問や批判に耳を傾けてみたい。
その一つはトップ30についてであり、「なぜ三十なのか、評価はだれがどんな基準で行うのか、国が大学のランク付けをするのが本当に良いのか」といった意見である。
我が国の大学は六百七十校あり、その約五%が三十校。私たちは、分野別に我が国の大学のうち少なくとも三十校程度の大学は優れた教育研究実績を上げ、世界トップレベルの大学になってほしいと願っている。
世界中の研究者や(留)学生が、この分野なら日本のこの大学で研究や勉強をしたいと希望するような大学になってほしいし、産業界や企業からも信頼され注目される大学になってほしいのだ。
民間・学部の声生かす
評価については大学評価・学位授与機構が発足し、国立大学についての評価の議論は始まっているが、当面私学は対象とされていない。従って具体的な評価手法は、今後幅広い視野からの検討が必要だが、例えば分野別に専門家や国公私立大学関係者などから成る客観的で公正な評価委員会のような場を設けて、論文や各賞の受賞状況、学会・国際会議での活躍、科研費や企業等の寄付の状況、卒業生の活躍状況など客観的データを参考にしながら、できるだけ透明で公平、公正な評価を行う必要がある。
また、一律的な評価にならないよう、民間や外部の意見にも耳を傾けたり評価者や評価の理由などもできるだけオープンにして、一定の期間後に見直し、入れ替えも必要であろう。評価のあり方は審議会などで議論いただいている。
いずれにしろ現時点での固定された評価による大学のランク付けでなく、教育研究の今後の発展の可能性が期待できるようなトップ30への支援の仕組みが求められている。
次に「唐突な発表で、国立大学関係者に無用の動揺が広がっている」との批判である。
六月に発表した大学の構造改革プランは、もちろん小泉純一郎首相のリーダーシップの下で、内閣全体で取り組んでいる「聖域なき構造改革」の一環である。前述したように二十一世紀の我が国を考えた場合、大学が新しい「知の再構築」を図り、高度な研究開発と優れた人材の養成に努めていくことは、我が国にとって喫緊の課題である。
長い検討重ね集約
そして、この構造改革プランは、これまで大学審議会や文部(科学省)において大学や大学政策の在り方について長い間議論し検討してきた大学改革の流れの一つの集約でもある。(その意味で、このプランは、遠山敦子文部科学相の名前を冠して「遠山プラン」と呼ばれることがあるが、「大学の構造改革プラン」と呼ぶのがふさわしい)
従来手法、一応の成果
例えば、一部の大学間では既に自主的な統合の動きもあり、国立大学の法人化の議論は国立大学協会でも様々な検討が行われてきた。評価に基づく競争的環境の醸成については従来、大学審もその方向を提言してきている。
もっとも、「無用の動揺が広がっている」との指摘は、事実なら文部科学省としても卒直に反省したい。従来、文部(科学)省の大学政策の姿勢は、大学人の自主的な改革努力を尊重するとともに、関係者や識者のコンセンサスを得ることを基本としてきた。大学審の発足以降様々な改革が提案されてきたが、こういった手法で大学政策も大きく転換し、多くの改革が実行され、各大学は確実に変化してきている。
着実に改革の成果を上げてきた大学関係者や識者の取り組みは、もっと評価されてよい。しかし、コンセンサス重視の手法は、時として痛みを伴う大胆な改革の断行を妨げる面がある。経済の停滞が長引き、大学に対する国民の期待がかつてない高まりを見せる今こそ、スピード感をもって、目に見える形で大胆に改革を進めなければならない。そしてそれ故にこそきちんと説明し、大学関係者や国民に理解される努力をしなければならないと考えている。
小野次官一問一答
――概算要求のヒアリングなどで、国立大学にはやや強引に再編計画を出させているとの不満を聞く。
小野次官 再編統合について具体的なことを考えているのか、国立大学の事務局に担当者が聞いているが、無理やり統合するように指示しているのではない。各国立大学自身が持ち味を生かして将来計画を考えてほしい。大学の自主性を尊重しながら、文部科学省もグランドデザインを描いていく。
再編統合に当たっては、将来的には国立と、公立、あるいは私立との統合があっても良い。私立との統合は直ちには難しい面もあるが連携という方法もある。
――旧帝国大学を筆頭に国立大学には厳格な序列があると言われるが、それで本当に競争的環境が作れるのか。
小野 何も旧帝国大学だからと固定的に考える必要はない。任期制や公募制を導入するなど競争のシステムが有効に機能しているところは発展していくだろう。ただし旧帝国大学にはそれなりの知識の積み重ねなり研究の積み重ねがあるし、人的資源が脈々と続いている要素もあり、そこで立派な教育や研究ができることは悪いことではない。
――今までも大学院重点化など重点的資金配分はしていたのに、日本の大学が伸びていないのはなぜか?
小野 いや、日本の大学の力は伸びている。論文の質や引用数など世界に冠たるものがある。日本の大学の先生は教育研究についてはある程度自信を持っていい。だが、大学は技術移転機関(TLO)を増やし、企業との共同研究や産学連携を進めなくてはならないにもかかわらず、不十分な面もあり、日本の企業の評価は厳しい。一方で大学に入ったら勉強しないという見方が多いのも事実だ。大学が社会や企業のニーズをよく把握しカリキュラムや教育内容をさらに高めていく努力は必要だ。
――国立大学の民営化論議については?
小野 今の国立大学を民営化するのは難しい。だが、国立大学が持つ親方日の丸主義や護送船団の発想については競争原理を導入し、批判に耐えうるものにしていかないといけない。国立大学法人という、教育研究機関たる大学の特色が最も生きるような法人格を持たせ、民の良い部分はできるだけ取り入れていく。外部からも役員に入っていただく。一部財界等には民営化しろと言う意見が強くあるが、組織や体制としての民営化ではなく、徹底して民の運営になればいいのだと思う。国立でなくてはできない分野もある。親方日の丸的発想が国民から批判されているのであり、国立大学であることが批判されているのではない。
――私大に対するコントロールが強まらないか?
小野 コントロールではなく、支援して伸ばそうということだ。文部科学省は管理が好きなように思われるが大間違い。私大をコントロール下に置こうなどとは全く考えていない。
(聞き手は 編集委員 横山晋一郎)
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