独行法反対首都圏ネットワーク |
☆大学版構造改革の狙い(上) 文部科学事務次官 小野元之
2001.9.15 [he-forum 2539] 日本経済新聞09/15
『日本経済新聞』2001年9月15日付
教育・研究の質高める
求められる自主・自律性
文部科学事務次官 小野元之
文部科学省が六月に発表した「大学(国立大学)の構造改革の方針」(通称遠山プラン)が、大学関係者の間で大きな波紋を広げている。同省の小野元之事務次官に、方針の狙いや大学行政の行方などについて、二回にわたり寄稿してもらった。
社会の変化がますます急速になるであろう新世紀において、国の「知」の基盤ともいうべき大学の果たすべき役割は極めて大きい。高度な研究開発と優れた人材の育成により「知」の再構築を図ることは、まさに大学の責務である。
国際競争力つける
社会全般にわたり聖域なき構造改革が求められるなか、大学も旧来と同じ手法では新しい時代に適合できない局面が出てこよう。そこで、これからの大学の基本的な在り方を示したものがこの「大学の構造改革プラン」である。このプランは、大学改革の経緯をふまえ、省内で十分に検討し策定したものである。このプランについては、大学関係者の中で様々な議論を呼んでおり、国立大学の切り捨てにつながらないか、民営化論に反論するための急ごしらえの案ではないか、将来の大学の発展につながるのか等々の懸念の声もあると聞く。
構造改革プランは、我が国の大学を、いきいきと教育研究活動に取り組み、活力に富み、国際競争力のある大学にすることを狙いとしている。その狙いはあくまでも各大学の改革への取り組みを国として支援し、改革の流れを加速させ、大学の教育・研究活動を活発化させ、教育研究の質を高めようとする点にある。具体的には(1)国立大学の再編・統合を大胆に進める(2)国立大学を法人化して民間的発想の経営手法を導入する(3)第三者評価による競争原理を導入し、国公私「トップ30」を世界最高水準に育成する――の三本からなっている。のうち、前二項目は国立大学を対象とするものである。
戦後、我が国の大学は一貫して日本の発展を人材育成と学術研究の両面から強力に支えてきた。特に国立大学は医学系、工学系の新設、新構想大学、大学院大学など我が国の教育研究の中核として、社会の要請にこたえ、高度の学術研究の推進や人材養成、国際交流、地域社会の発展に貢献してきた。
再編・統合、利点多い
二十一世紀を迎え、我が国は社会、経済の面で大変厳しい変革の時を迎えている。このような時にこそ、国立大学はそれぞれが自ら大胆な改革に取り組み、教育研究の実を挙げて学術や科学技術の発展に貢献し、我が国をリードしていくポテンシャルを持たなければならない。当然のことだが護送船団方式や親方日の丸的な発想は許されない。税金を投入する国立の名にふさわしいレベルの高い教育・研究を行い、国内、国外から評価され、またその成果を社会に還元していく必要がある。当たり前だが、大学で学生が一生懸命勉強し、卒業生が実社会で評価されるような大学とならなければならない。
第一の柱である国立大学の再編統合に関して言えば、国立大学はこれまでそれぞれの大学の理念、目標や伝統のもとに教育研究の充実に努力してきた。しかし、世界に通用する教育研究実績を上げる大学となるためには、その基盤を整備し、ある程度のスケールメリットの確保や学問研究分野の広がりを持つことも重要であろう。教養教育の充実、学問研究の広がりや触発効果、総合大学としての教育研究水準の向上、地域の人材育成や発展への貢献、私学や公立大学との連携など大学同士の自発的な発想による再編・統合はさまざまなメリットも出てくる。
文部科学省としても各大学における検討結果をふまえて具体的な再編・統合の計画を策定していくこととなるが、単なる数合わせでなく、これまでの各大学の枠内では不可能であったような飛躍的な発展につながることを期待している。
第二点が、民間的発想の経営手法を導入した国立大学の法人化である。多くの先進国において、大学は国立であっても法人格を有しており、日本のように国立大学が政府の付属機関である例は少ない。大学が社会のニーズに敏感に対応し、機動的に意思決定をし、個性的な教育研究を展開していくためには、それを可能とする自主性と自律性を持った、大学としての効果的なマネジメントシステムの確立が必要である。
国立大学の法人化に当たっては、自律性を高め、各大学の経営責任を明確化し、学外者の経営参加や能力主義の人事システムなど民間的発想の経営手法を導入することが必要だと思う。独立行政法人化の問題は、政府として「大学改革の一環として検討し、平成十五年までに結論を得る」こととされているが、他方大学に、独法通則法をそのまま適用することには問題がある。
もとより大学経営は、民間企業の経営とは異なる。しかし、これまで、国立大学は、国の機関であるためのさまざまな制約や、評議会・教授会による意思決定の非効率性などのゆえに、その対応が閉鎖的、硬直的だとして厳しい批判を受けてきた。この際、このような批判を正面から受け止め、学長がリーダーシップを発揮し、学問研究や社会の要請にこたえ、大学が自主的に迅速かつ機動的に教育研究を向上させていくシステムをつくる必要があると思う。法人の制度設計については、専門家など関係者の意見を聞いて現在鋭意検討を行っているところである。
重点的に資金配分
第三は大学に第三者評価による競争原理を導入し、国公私を通じたトップ30を世界最高水準に育成することである。このトップ30は、学問分野ごとに、高度な研究と人材育成という角度から、優れた大学に重点投資しようとするものであるが、それ以外のところを切り捨てるということでは全くない。
すべての大学がそれぞれの個性で輝くことが重要であり、教養教育重視や地域貢献など、各大学の個性や目指す方向は多様であって良い。また、トップ30は固定的に考えるのでなく、客観的な評価に基づき、当然入れ替えもある。さらに評価の基準や評価者についてもオープンにする必要があろう。
具体的なやり方は今後議論する必要があり、試行も必要であろうが、国公私立を通じて、教育研究分野ごとに、教育研究活動の実績の客観的データや将来の発展の可能性、各大学の意欲、将来構想、学長のリーダーシップなどをもとに厳正な評価を行い、資金を重点的に配分する仕組みが考えられる。
いずれにせよ、教育研究の実を挙げることにインセンティブの働く競争的な環境と、そのために適切な第三者評価システムが用意され、各大学の理念・目標が明確になり、個性的な発展が進むことが期待される。
また国立大学の法人化の在り方や評価と資源配分の具体的手法等については、中央教育審議会、科学技術・学術審議会、その他の協力者会議などの識者の意見を十分伺いながら、検討を進めていきたい。大学関係者はじめ国民の皆さんの理解とご協力を切に希望する次第である。
目次に戻る