独行法反対首都圏ネットワーク

「大学構造改革」と駒場寮事件 
2001.9.8 .[he-forum 2511] 大学構造改革と駒場寮問題

私は以下の文章を先日行われた青年法律家協会東京支部合宿で報告しました。
ご参考までにお流しします。

「大学構造改革」と駒場寮事件
                                                               2001年9月1日
                               東京支部 萩尾健太

1 突然の「大学構造改革」提唱
 本年六月、文部科学省は小泉内閣の「構造改革」路線の具体化として「大学構造改革」という名の大学の大リストラを提唱した。その内容は以下の通りである。
@ 国立大学の再編・統合を大胆に進める。
 ○教員養成系大学の縮小再編・単科大学の他大学との統合○県域を超えた大学・学部間の再編・統合○国立大学の数の大幅な解消を目指す 以上のスクラップアンドビルドで大学を活性化する
A 国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。
 ○大学役員や経営組織に外部の専門家を登用○経営責任の明確化により機動的に大学を運営○能力主義・業績主義に立った新しい人事システムを導入○国立大学の機能の一部を分離・独立(付属学校、ビジネススクール等から対象を検討)  以上により、新しい「国立大学法人」に早期移行する。
B 大学に第三者評価による競争原理を導入する。
 ○専門家・民間人が参画する第三者評価システムを導入○評価結果を学生・企業・助成団体など国民、社会に全面公開○評価結果に応じて資金を重点配分○国公私を通じた競争的資金を拡充 以上により、国公私「トップ三〇」を世界最高水準に育成する 文部科学省はこの方針を本年七月六日から行われた来年度予算の概算要求に向けてのヒアリングで各国立大学の事務局長に押しつけた。 本年八月三日号の週刊朝日は、「文科省国立大学『脅し』の全容」として、その情況を詳報している。
 教育は国の基である。そのため、今日の教科書問題や教育改革に見られるように、支配層は教育を掌握しようとする。それに対して、日本の民主主義発展に大きな影響を与えたのは全国の教職員養成系大学の学生運動とそこで育った教職員の労働運動であった。だからこそ、真っ先に教職員養成系大学に攻撃が仕掛けられ、既に一九七〇年に東京教育大学は筑波大学に移転・改組された。今回、その最後の息の根が止められようとしている。
 また、上記の1県1国立大学制の見直し、削減により、地方の大学は、統廃合され、その過程で紛争、労働争議が頻発することが予想される。 さらに、上記の国立大学の経営体化、外部の専門家(=財界人)の参入、第三者評価による競争原理の導入で、大学の自治は廃棄され、財界の下請け研究機関に化す危険が高い。
 上記@ABの項目の「国立大学」を弁護士ないし弁護士会に置き換えれば、その規制緩和路線に基づく危険性は決して他人事ではないということが分かるだろう。
 加えて、大学は今日ただでさえ文科省による予算誘導に弱くなっている。そのうえ、文科省が上記のような大学の財政自治権をあからさまに侵害する方針を打ち出したもとでは、有力な国公私立大学は、「トップ三〇」に入って予算優先分配を受けようと競って大学自治を形骸化し、学生自治を切り捨てるだろう。
2 学生運動に対する攻撃と駒場寮廃寮問題
 ところが、こうした動きに対抗すべき学生運動は、困難な情況にある。学生運動の拠点と目されたところは、丸ごと廃止される動きまである。私学の動きは特に早い。 すでに、多くの青法協会員を含む労働者出身の法律家を輩出した中央大学夜間部は廃止され、都立大学も夜間部廃止の動きが生じている。かつては私学学生運動をリードしていた早稲田大学の地下サークルスペースも退去を迫られ、代わりに監視カメラで当局に管理統制された「学生会館」が建設された。
 こうした大学自治破壊の走りとなった事件が、東京大学駒場寮廃寮問題である。
 東京大学教養学部駒場寮は、東大に通う1,2年生のための教養学部キャンパス内にある学生寮である。1934年の建築以来、今日に至るまで、貧しい学生の学ぶ権利を保障する厚生施設として、大きな役割を果たしてきた。それとともに、駒場寮は、その前身である旧制一高向陵寄宿寮時代の1890年以来の自治の伝統を有し、戦時中は反戦思想の砦であり、戦後レッドパージ反対闘争の際には「赤い浮沈空母」と呼ばれた。60年代末の大学紛争の際、大学自治の新しい原則を定めた東大確認書が批准されたのも、駒場寮の屋上であった。
 私が学生時代の1988年には、東大を超エリート化する大学院重点化構想に反対する7学部ストライキを実現する運動の拠点となった。1989年には、リクルート疑惑究明、消費税廃止を求める学生ストライキ、1990年には、自衛隊海外派兵に反対する学生ストライキの運動の拠点であった。
 官僚や財界などの支配層に人を送り出してきた東京「帝国」大学に、深く打ち込まれた民衆のクサビが駒場寮であった。
 そうだからこそ、文部省は駒場寮を目の敵にし、1991年10月、東京大学に駒場寮廃寮を決定させたのである。しかし、駒場寮廃寮反対をたたかう中で、少なくない学生が国家権力の不当さに目覚め成長している。今年5月には、駒場寮存続を求める学生投票を2000名以上もの学生の賛成で批准し、国による明け渡しを認容する高裁の不当判決にもめげず、7月にはのべ数百人の学生の参加で学部当局との大衆団交を実現したのである。
 しかし、学部当局は非情にも、本年8月22日、数百名の機動隊とガードマンを動員して仮執行宣言に基づき強制執行を行い、居住していた寮生らを叩き出した。当局はまさに「大学構造改革」路線に則って、廃寮を貫徹しようとしたのである。

3 現地調査とカンパのお願い
 寮生らは、現在、駒場寮建物の隣の空き地でテント生活を余儀なくされている。
 寮生らから生存権を奪い、教育を受ける権利を剥奪するに等しいこの暴挙と、寮生らの難民生活の実態を見学に来て、大学構造改革がもたらすものを実際に調査していただきたい。
 また、未だに目的外動産が返還されず、新たな難民生活への対応のため、テント購入費用など予想外の出費も出ている事態である。生活支援カンパにもご協力いただきたい。
 郵便振替口座 0018−7−186782 名称 東大駒場寮

4 法科大学院への展望
 こうした学生運動に対する攻撃は、青法協の後継者養成という観点からも、極めて重大な問題である。
 このような状況下の大学に、私たちの後継者を養成する法科大学院が設置されようとしていることを直視しなければならない。
 大学の大リストラを引き起こし、大学の自治を完全に破壊し、大学を財界の下請け機関と化す「大学構造改革」に断固反対する取り組みを行った先にしか、民主的法科大学院設立の展望はない。
 また、小泉流「構造改革」の一環として奨学金事業をになってきた日本育英会の奨学金を縮小・廃止する動きもある。そうなれば、教育の機会均等は完全に破壊され、金持ちしか大学に入れず、そうした法科大学院から輩出される弁護士の変質も必至である。
 速やかに、各会員がそれぞれの地域や出身の大学の情況を調査し、その自治や雇用の擁護、学生運動支援、そして、奨学員の縮小・廃止に反対する運動に取り組むべきであると考える。                                                   以上


 目次に戻る

東職ホームページに戻る