独行法反対首都圏ネットワーク


☆  《国立大学地域交流ネットワーク》構築の提言(地方国立大学長28名)
2001. 9。20 独行法反対首都圏ネット事務局

全文の後に、同要旨も貼り付けています。

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2001年9月11日


         《国立大学地域交流ネットワーク》構築の提言

         ―地方国立大学と地域社会の活性化のために―

                                                    地方国立大学長28名


  私たち地方国立大学長有志は、21世紀における地方国立大学のあり方について種々意見を交換してまいりましたが、今般その結果を以下のようにまとめました。文部科学省はじめ各界においてご検討いただきたく、提言する次第であります。提言の柱は、次の2点からなっております。
  1.地方国立大学と地域社会の間に全面的で根本的な交流関係を築き、両者の相互的・相乗的な活性化をはかる。
  2.両者のこの相互的相乗的な活性化の関係を全国的規模で結合する《国立大学地域交流ネットワーク》(仮称)を構築し、日本の地域社会全体を支える。
  急速な地球一体化が進展し、環境・エネルギー問題など、地域社会が地球規模の問題の解決を迫られている現在、大学と地域社会とのこの全国的結合こそ、21世紀の地域社会と日本、さらに地球をも支えうる基本的な条件と考えます。
  1.各大学は、地域社会の《現場》に赴き、あらゆる面で地域社会との《問題の共有》をはかる。また地域社会と共同して問題の解決にあたり、地域社会の活性化に寄与する。
  逆に各大学は、地域社会との問題の共有および共同解決を通して地域社会から学び、大学の教育研究活動と《現場との繋がり》を強化し、大学の活性化をはかる。
  このようにして大学と地域社会との相互的・相乗的な活性化をめざす。
  大学側においては、たとえば:
  (1)地域社会そのものを大学のキャンパスと考え、教育研究両面での《現場》とみなす。逆に、大学教育研究の場をより一層地域社会に開かれたもの・分かりやすいものとする。
  (2)各大学は、地域社会との交流関係を、産学連携・生涯学習・不況・環境・エネルギー・食糧・健康医療・福祉・学力低下・学級崩壊・いじめ等、地域社会が直面するあらゆる問題領域において構築する。こうして大学の教育研究活動と《社会的現場との繋がり》を組織的に確立する。無論、教育のコア部分は確実に組織・運営され、また研究の基本部分(基礎科学・先端科学を含む)も、学術研究の発展状況ならびに時代状況に応じて絶えず再編・強化されねばならない。それらの部分が確実に機能してはじめて地域社会への貢献も可能となるからである。
  (3)上述の社会的課題に全力で取り組むことによって、各大学の学術研究は、より深く地域社会に根ざしたもの、独創的なもの、個性的なものとなることができる。こうして全国各地で、地域特性に根ざした独創的な研究、オリジナルな解決方法、多様な知の形態、新しい学問領域などの誕生が期待できる。
  (4)このように地域社会に深く根ざすことは、学術研究を単にその地域に閉ざすものではなく、逆にそれらを日本全国はもとより広く国際的にも通用するものとする。急速な地球一体化が進展する今日、各地域社会は、そこに地球規模の諸問題が集約的に現れるいわば《グローバルな問題のローカルな現場》となる。それゆえ、地域社会の身近な問題に真剣に取り組むことは、同時に地球的・国際的規模の問題に深く関わることでもある。風土・歴史・文化においてきわめて豊かな多様性を有する日本各地において、地域社会と大学との間に創造的で緊密な研究協力体制が確立されるならば、世界各地の地域社会にとっても有効なモデル的研究が生み出されるはずである。
  (5)先に列挙した社会的課題への共同参画を通して、教員相互の異分野交流が促進されるとともに、教員一人ひとりの専門分野における問題意識も拡張され深化される。地域社会そのものも、またそれがかかえる諸問題も、多様で複雑であるがゆえに、それら諸問題の共同探求・共同解決は、他の専門分野との相互理解なしにはありえず、相互理解は自己理解を深めずにはおかないからである。
  (6)このことによって、大学教育研究の場において、21世紀の社会的課題の多様性・複雑性に対応した学際化が促進される。教師も学生も、社会的現場の多様性・複雑性に学ぶことにより、自らの知識と教養と適応能力とを多様化・複雑化されるからである。
  (7)教師個人のこの学際化の進展によって、大学の教育研究組織は、21世紀の社会的変化のスピードに対応しうる組織上の柔軟性を獲得する。また学生も、卒業後、社会人として属するその職場において、多面的で現実的なアイデアを提案し、その組織に柔軟性を付与することができる。これらは相まって、日本社会全体に地球規模の社会的変化に対する柔軟な適応性を付与するであろう。
  (8)《地域社会との問題の共有および共同解決》というこの方向性は研究のみでなく、教育においても生かされる。この方向性を制度的に確立することにより、学生は勉学上の力強い動機づけを与えられるとともに、現実感覚に富んだ社会的適応能力を身につけ、社会と自らの人生を現実的にしかも創造的に切り開く構想力を培うことができる。
  (9)たとえば、大学における学生教育と地域社会における生涯学習を連結するなど、異世代をミックスした授業形態を制度的に導入することは、大学教育に《社会的現場との繋がり》を組み込むことものとして、大学教育にとってもきわめて有効なはずである。異世代が協力して同一課題に取り組み対話交流することにより、年長者は最新の学問水準や新しい考え方に触れることができるともに、若者は年長者の経験の蓄積に学ぶなど、現代日本社会に最も欠落している世代間の《経験の継承発展》が可能となる。それは、生き方を模索する現代の若者たちにとって、必ずや、社会的適応性を増大させ、学問上・人生上のさまざまな示唆が与えられる絶好の機会となるはずである。
  (10)また教師の指導の下、学生を中心に、地域社会と協力してそれぞれの地域の埋もれ失われつつある伝統文化(生活形態・技術・技能・芸能・言語文化などあらゆる領域にわたる)を発掘し、全国的規模で体系的にデジタル映像コンテンツとしてデータベース化し、集大成をはかる。これにより、《文化的伝統の継承発展》が可能となり、日本の文化的多様性は回復・増大し、新しいより豊かな世界を創造する際の示唆が与えられる。
  2.このようにしてその実現が期待される地域社会と大学との相互的・相乗的な活性化の関係は、地域社会との関係をほぼ同じくする全国の地方国立大学を中心に結合し、《国立大学地域交流ネットワーク》を構築するならば、以下の二つの理由により、さらに一層飛躍的な相乗効果が期待できる。
  (1)ある地域や大学の活性化を、単に一地域一大学に留めることなく広く全国に伝えることができる。それらの活性化は、そのノウハウの正確で具体的な情報としてこのネットワークを通して他の地域や大学に伝えられ、それらの地域や大学の活性化を促す。またそれらの地でより広範な検証と補強を受けつつ他に伝えられ、こうして全国的な規模での相互的相乗的な活性化が可能となる。
  (2)先に列挙した、産学連携・生涯学習・不況・環境・エネルギー・食糧・健康医療・福祉・学力低下・学級崩壊・いじめなど、地域社会が直面する現代的課題は数も種類もはなはだ多く、また一つひとつがきわめて多面的である。どれ一つとして一大学一地域で解決可能なものはない。しかしながら、各大学がネットワークを通じて互いに情報を交換し合い、その都度の問題状況に応じて相互補完的に役割を分担しながら、(傍点開始)ネットワーク全体で(傍点終了)対応するならば、問題解決の水準とスピードと効率性は全国的な規模で飛躍的に高まることが期待できる。
  以上の意味において、このネットワークは、全国的に張り巡された《知的協力ネットワーク》として、日本の地域社会全体を支えることができるであろう。
  大学側においては、具体的には:
  (1)この大学地域交流ネットワークの各地域における拠点として、各大学に《地域交流センター》を設置し、コーディネート機能を養成し発揮させる。地域共同研究センター・生涯教育研究センターなど、既存組織の再編統合により実現する。このセンターは、大学と地域社会と全国ネットワークとを結合する大学地域交流の結節点となる。
  (2)これに備えて、各大学は一般向けの分かりやすい《地域間交流版研究者総覧》を作成し、データベース化・ネットワーク化し、全国的な利用に備える。現代的課題の多様化・複雑化とスピードに対応し、たえずヴァージョン・アップをはかる。
  (3)このセンターは、サテライト方式による双方向的交流が可能な設備を有し、かつ地域住民が多数参加できるスペースを備える。これにより、類似の問題をかかえる地域社会と大学は、双方向の対話交流によって問題の共同探求・共同解決をはかることが可能となる。双方が一個所に集まる必要がなくなるため、時間は大幅に短縮され、参加できる人数は飛躍的に増大する。
  (4)たとえば、ある大学における有機農業の研究会をサテライト方式により全国の地域交流センターで放映するならば、全国の農家は直接最新の情報を得ることができるとともに、自らの経験から得た情報を提供することにより、その場において多面的な検討が可能となり、研究の水準と普及のスピードは飛躍的に高まり、全国的規模で環境保全型農業の著しい進展が可能となる。それは《学会と社会的現場との融合》と言える。
  (5)このように、基礎科学・先端科学を含むあらゆる研究領域における最新情報や興味深い情報を、サテライト方式により、分かりやすくしかも双方向的に情報交換し対話交流することは、地域社会の知的欲求に応え、生涯学習に資するのみならず、地域産業の発展や起業ベンチャーへの刺激と動機付けを具体的に提供するものとなる。それは、学術的関心と産業的関心とを相互的にしかも全国的な規模で活性化するものとして、現代的課題にきわめて合致したものとなるであろう。
  3.《国立大学地域交流ネットワーク》がおよそ以上のような機能を持つべきであるとするなら、それはいかなる条件において可能であろうか。上述のように、それは知的協力ネットワークなのであるから、協力原理に基づくものでなければならない。それは、競争原理のみによっては有効に機能することができない。競争原理は、本質的に、個人的にも組織的にも秘密主義・孤立主義に導くものであり、上述のような知的公開と知的協力はきわめて困難となるからである。これに対して、ここに構想するネットワークは、情報の積極的公開と相互協力により、問題解決の水準とスピードと効率性を飛躍的に高める、いわば"リナックス"型のネットワークなのである。地域社会が地球的規模の問題の解決を迫られる21世紀においては、競争のみでなく、協力もまた強く求められている。大学の設置形態においてもそれは例外でなく、基本的に協力原理に基づく大学群もまた、一国において必須で有効な設置形態と考えられる。
  またそれは、国立大学を地方移管して、それらをネットワーク化するものではなく、国立大学のネットワーク化であるべきである。なぜなら、まず、(1)それが効率的に機能し得るためには、制度的に一元化されていることが必要だからである。それに何よりも、(2)このネットワークは、地域社会に深く根ざしはするが、日本の地域社会(傍点開始)全体(傍点終了)の問題をネットワーク(傍点開始)全体(傍点終了)で共同解決しようとするものだからである。この意味において、「一県一国立大学」はきわめて有効で適切な制度と考えられる。
  現在、IT革命が盛んに唱えられているが、その成否は、(1)コンテンツが単に娯楽的でなく日常生活に密着していること、また単に経費節約的でなく新しい価値を生み出しうること、(2)双方向性を有効に活用しうること、の2点に懸かっている。これら2点において、このネットワークの構築こそ、最も公共性と将来性に富んだ事業と考えられる。そのコンテンツは、地域社会が直面し解決すべき生活的課題についてであり、またその将来を切り開くべき新しい知的文化的価値についてであり、しかもそれらを全国的なネットワークを通じて双方向的に共同探求しようとするものだからである。
  およそ以上のような意味において、この知的協力ネットワークこそ、もしそれが実現されるならば、真の意味で「国力」の基礎となるであろう。
  地方国立大学は、それぞれ地域社会に深く根ざすことにより、全体としてそのネットワークによって日本の地域社会全体を支え、またさまざまな地域的課題の複雑性・困難性に深く学ぶことにより、モデル的で普遍的な研究成果を国際的に情報発信するものとして、地域性(ローカル)・国家性(ナショナル)・国際性(グローバル)の3つの性格をあわせ持つべきであると考える。

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2001年9月11日


        《国立大学地域交流ネットワーク》構築の提言(要旨)

           ―地方国立大学と地域社会の活性化のために―
提言の背景


  21世紀前半、国際社会においては、世界経済・環境・エネルギーその他あらゆる面において急速なグローバル化が進行し、20世紀の世界システムは大きく変貌する。
  これに伴い、日本の地域社会は、産業構造上も社会構造上も地球的規模の激しい変貌の下に置かれる。各地域社会は、そこに地球的規模の諸問題が集約的に現れる、いわば《グローバルな問題のローカルな現場》として、それら諸問題の共同解決を迫られる。しかも、それら地域社会の諸問題の解決なくして日本の活性化はあり得ない。
  このような状況にあって、地方国立大学と地域社会に求められているのは、それらさまざまな経済的・社会的変動に対する柔軟な適応力、地域現場の困難な問題の中から新しい社会を現実的にしかも創造的に切り開きうる多様な構想力等を、(傍点開始)大学と地域社会が協力して培うこと(傍点終了)である。そこで以下の提言をする。


提言の二つの柱


  1.地方国立大学と地域社会の間に全面的で根本的な交流関係を築き、両者の相互的・相乗的な活性化をはかる。
  (1)各大学は、地域社会の現場に赴き、あらゆる面で《地域社会との問題の共有および共同解決》をはかり、地域社会の活性化に寄与する。
  (2)各大学は、地域社会との問題の共有および共同解決を通して、地域現場がかかえる現実的問題の多様性・複雑性に深く学び、大学の活性化をはかる。

  2.この地方国立大学と地域社会との間の相互的相乗的な活性化の関係を全国的規模で結合する《国立大学地域交流ネットワーク》を構築し、日本の地域社会全体を支える。このネットワークの各地域における拠点として、各大学に《地域交流センター》を設置する。
  (1)一地域一大学の活性化を、ネットワークを通して広く全国に伝え、他の地域や大学の活性化を促す。これにより、全国的規模での相互的相乗的な活性化が可能となる。
  (2)一大学一地域で解決不可能な問題は、サテライト方式により大学間でネットワークを通じて互いに情報を交換し合い、その都度の問題状況に応じて相互補完的に役割を分担し合いながら、(傍点開始)ネットワーク全体で共同解決する(傍点終了)。これにより、問題解決の水準とスピードと効率性は全国的規模で飛躍的に高まる。


教育的社会的経済的効果


  1.教師も学生も、地域社会との問題の共同探求・共同解決を通して、
  (1)異分野交流が促進され、各人の専門領域における問題意識が拡張され深化される。
  (2)地域現場の問題の多様性・複雑性に学ぶことにより、各人の知識と教養と適応能力とは多様化・複雑化され、マルチディシプリン化、マルチタスク化が促進される。
  (3)こうして、各地域社会は、組織的にも個人的にも、21世紀の地球的規模の経済的社会的変動に対する柔軟で現実的な構想力と適応力とを獲得する。

  2.地域交流センターを介し、全国の地域社会と大学の間で、基礎科学・先端学を含むあらゆる研究領域における最新情報や興味深い情報を、分かりやすくしかも双方向的に情報交換し対話交流するならば、地域産業の発展や起業ベンチャーへの確かな動機付けを付与し、雇用創出のコンスタントな機会を提供することになる。それは、学術的関心と企業的関心とを相互的にしかもコンスタントに、全国的な規模で活性化するものとして、今日的課題にきわめて適合したものとなるであろう。

  3.現在、IT革命が盛んに唱えられているが、その成否は、
  (1)コンテンツが単に娯楽的でなく日常生活に密着していること、また単に経費節約的でなく、新しい世界を構築しうる知的文化的価値を含んでいること、
  (2)双方向性を有効に活用しうること、の2点に懸かっている。これら2点において、このネットワークの構築こそ最も公共性と将来性に富んだ事業と考えられる。


ネットワーク成立の条件


  このネットワーク成立のための条件は、次の2点である。
  (1)基本的に協力原理に基づくこと、
  (2)日本の地域社会全体の問題をネットワーク全体で共同解決するものとして、国立大学のネットワーク化であるべきこと。

  以上の意味において、このネットワークは、全国的に張り巡された《知的協力ネットワーク》として、また《知的セーフティネット》として、日本の地域
社会全体を支え活性化することができる。それは真の意味での「国力」の基礎となるであろう。


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