大学の構造改革 将来像明示を地方から迫ろう
2001.8.23 [he-forum 2421] 新潟日報社説
新潟日報社説(2001年8月23日)
大学の構造改革 将来像明示を地方から迫ろう
大学改革が一段と加速している。引き金となったのは遠山敦子文部科学相が六月に提示した「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)だ。
遠山プランは3つの方向を示した。第一は国立大学の再編・統合を大胆に進めることだ。文科は「一県一国立大は未来永劫の原則ではない」と国立大学長会議で語っている。
二点目は国立大に民間的発想の経営手法を導入し、新しい「国立大学法人」に早期移行すること。三点目が大学に第三者評価による競争原理を導入し、各分野の「トップ30」を世界最高水準に育成するものだ。
遠山プラン作成のきっかけは「聖域なき構造改革」を掲げる小泉純一郎首相の直接指示だった。いわば「外圧」による大学改革である。
それだけに遠山プランは財政面からの改革の色彩が濃く、大学の将来像としては不十分な点や問題点が多い。
その一つが地域の視点が欠落していることだ。1949年の新制大学発足以来、文部省(当時)は「一県一大学」の枠組みで国立大の整備を進めてきた。近年は「地域に開かれた大学」を推進してきている。
少子化による大学側の危機感もあって、「地域に根ざす大学」の考えが浸透しつつある。従来は教育と研究が二本柱とされてきたが、「もう一つの柱として地域貢献が重要」との認識も深まってきた。
その時期に文科省が「一県一国立大の原則放棄もある」と言いだした。それなら文科省は一県一大学を基本としたこれまでの大学整備政策の評価と反省を語る義務があり、今後のグランドデザインを示す責任がある。
しかし、文科省は説明責任を果たさぬまま、さらに走りだそうとしている。遠山プランの柱の一つ、「世界に通用する『トップ30大学』育成」のため、来年度予算に重点化資金枠を盛り込む方向を固めている。
全国約650の国公私立大学の中から教育、研究で優れた業績を挙げた「トップ30」を学部や学科、研究科など各分野で選定し、重点化資金を配分する。そのために専門家による第三者の評価機関を新設するという。
評価機関の新設というが、日本では国立大を対象にした「大学評価・学位授与機構」が発足したばかりだ。評価のノウハウも実績も十分ではない。私大関係者からは「国公私が同じ土俵で競争する条件が整っていない」との声が上がっている。文科省のやり方はあまりにも乱暴で性急にすぎる。
大学進学率は50%に迫り、大学の大衆化が進んでいる。教育と研究をある程度分化することは必要だろう。
一方、経済が停滞し景気が落ち込む中で、地域における大学の重要度は増している。中国に生産機能がシフトしていく中、新しい雇用を創出するためにも産学連携が必要であり、高度な技術などを身につける個人の能力アップも図らねばならない。
改革の痛みを和らげるセーフティーネットを構築する上で大学の役割は大きい。その面を含めた地域貢献も大学の評価基準に加えるべきだろう。
問題山積の大学改革だが、地方の危機感は薄い。「地域の反発が小さいのは、地域での大学の存在感がないからだ。その点を反省しなければ」と新潟県内のある国立大学長は語っている。
本県には、総合大学の新潟大と、単科大学の長岡技科大、上越教育大の三つの国立大がある。単科国立大は再編・統合の先兵に位置づけられ国立医大では九校が統合の検討に入った。国立大の再編・統合は人ごとではない。
大学改革を文科省主導の財務偏重で終わらせてはならない。新潟をはじめとする地方は、文科省に大学の将来像を明示するよう。声を強めるべきだ。
一方では私大を含め地域の大学をどう整備・充実するか、地域独自の将来像づくりも急ぐ必要がある。県内の大学と意思疎通を密にし、地域からも大学像を描く時期がきている。
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